1.ぷろろーぐ
1.ぷろろーぐ
オレは高岡銀。
見た目はヤンキー、だが中身はいたって普通な一般ピープルだ。
髪が銀色、目の色が赤なのも生まれつき。
女であるが一人称がオレなのは…親にそう育てられたからである。
銀「今日もいい天気だ!!飯がうまい!!」
オレは今日も元気に、姉貴が作った朝飯をかっ食らう。
姉の輪廻は、ため息を一つついて自分用の朝食をテーブルに並べた。
輪廻「あんたほんまよう食うんやな…まぁ、若いもんはそれくらい元気でないとな」
姉貴はオレの向かいに座り「いただきます」と丁寧に手を合わせそれから朝食を食う。
今若いもん、と言われたがオレは立派な大人である。
24歳、フリーターです。
銀「姉貴はいつになったら関西弁が抜けるんだ?ここは関西じゃねぇぞ」
輪廻「そんなん、向こうにおった時期が長かったんやししゃーないやろ」
銀「関西の悪魔はそんなに手強かったんだなー」
輪廻「おお、そりゃもうごっつヤバかったで」
姉貴は、自分が関西にいた時のことを話す。
これで何度目なんだろう、彼女は自分の武勇伝を語りたがる。
彼女の語りにオレは「はいはい」と聞き流す。
輪廻「銀もはよ、一人前のエクソシストになれたらええなぁ」
銀「うっせい」
うちの家、高岡家は悪魔払い…所謂"エクソシスト"の家系だ。
日本に悪魔?なんて思うかもしれないが、いるんだなこれが。
だがうちの家は普通の二階建て。
教会とかに住んでない。
シスターとか神父さんもいやしない…あ、いるわ。うちの両親だわ。
両親も姉貴も悪魔払いの才能があり、よく色々なところから依頼を受ける。
オレ?オレは…まだまだ未熟だ。
だって…。
輪廻「いつになったら、銀は悪魔憑きを見分けることが出来るんやろなー」
銀「ええい、黙れ黙れぇ!!」
嫌味げにいう姉貴にムカつき、ガンと机を拳で叩く。
そう、オレは悪魔に憑かれた人間…"悪魔憑き"を見分けることができない。
…つってもまぁ、それは悪魔の強さによる。
どういう意味かってーと、弱い悪魔は気配を消す方法を知らないのか、オレみたいな未熟もんでさえ見分けることができるが、強ければ強いほど全くわからない。
銀「ああムカつく!オレのレーヴァテインが姉貴を殺せと叫んでいるっ!!」
輪廻「はいはい、神器は人を殺すためのもんちゃうから」
うちの家系にゃ先祖代々伝わる、"神器"と呼ばれる武器がある。
悪魔を払うためのもんだ。
悪魔憑きにその神器で攻撃をする。
神器は特別な武器なので、攻撃された人間は全くの無傷だが、中にいる悪魔に攻撃を与える。
攻撃された悪魔は体から出て来て、そのまま悪魔vsエクソシスト…となるわけだ。
オレの神器は"レーヴァテイン"と呼ばれるもの。
北欧神話に出てくる、ヴィゾフニルという雄鶏を倒すために作られた剣の名前だ。
まぁもちろん、あくまで名前だけ借りたようなもんだけどな。
輪廻「ま、うちのミョルニルはそんな物騒な叫びせえへんけどなー」
銀「黙れし」
勿論、武器の叫びは架空のもんである。
オレは朝飯を全部平らげる。
銀「ごちそーさん。じゃ、バイト行ってくるわ」
ひょい、と隣のイスに置いていたリュックを背負いながらオレは玄関へ向かう。
輪廻「おー行ってら…ちょい待った!」
銀「なんだよ…」
姉貴はイスから立ち上がり、俺のほうへと近づく。
真剣な表情だ。
オレが訝しげに姉貴を見ていると。
輪廻「"七罪士"には気をつけえや」
と言って、彼女はテーブルのほうへと戻った。
な、ななざいし…?
なんだそりゃ、意味わからん。
いろいろ聞きたかったが、もう出ないとバイトに間に合わない時間だ。
オレはいつもギリギリに家を出る。
頭にハテナを浮かべたまま、オレは家を出た。
………………
ところ変わってここはオレのバイト先のファミレス。
24時間営業で、オレの働く時間帯は朝の7〜13時までだ。
銀「ふいー間に合ってよかった…」
オレが制服に着替え、朝の掃除にモップで床を拭く。
「またお姉さんと喧嘩?」
銀「笑うなよー薫…。姉貴がいっつも嫌味ばっかいうから…」
オレの隣でくすくすと笑うのは、オレの同僚であり友達の間中 薫。
オレより4歳も年下だが、何処か大人びている世話焼きなお姉さんみたいな子。
あとおっぱい大きい。
薫「?どこ見てるの…?」
銀「いや、気にすんな」
薫は、家を出る直前のオレのように頭にハテナを浮かべていた。
薫は多少抜けているところがある。
可愛い。
オレが薫(の胸)を見ていると、後ろからばしっ、と頭を叩かれる。
銀「いってぇ!」
「ったく…あんたはいっつもいっつも変態行為ばっかりして!同性とは思えないわね」
銀「してねえよそんな行為!麗こそいっつもいっつも暴力行為ばっかしてんじゃん!主にオレに!!」
オレの頭を叩いた張本人である津出 麗が腕を組んで立っていた。
麗とはご近所さんで、高校の頃からずっとお友達だ。
そして、オレがエクソシストであることを外部の人間で唯一知っている。
あと貧乳。
麗「あんたが変なことしたり言ったりしなきゃアタシだって殴らないわよ!」
銀「オレが何したってんだよ!」
麗「薫の胸ばっか見てた!」
薫「えっ、そうなの?!」
銀「同性だからいいじゃん!」
麗「黙れ変態!!」
そしてまた頭を殴られる。
もうやだこの暴力女。
まぁ、今に始まったことじゃないけどな。
銀「いやーでもさー」
オレがちらりと薫を見る。
そして、すぐさま彼女の背後に回り。
銀「こーんなでかいやつ早々いねえよ!20歳で!」
薫「やあぁっ!!」
オレは薫の胸を持ち上げる。
ずっしりとした重さと、指に吸い付くような柔らかさ、たまらん。
薫「やっ、待って…ぇ…」
銀「いとたまらんわー」
ゆっくり、楽しむように揉みしだく。
薫のこの顔を真っ赤にして声を耐えてる姿もまたたまらん。
銀「…はっ!」
しかし、修羅はそこにいた。
オレは背後から殺気を感じる。
麗「」
銀「」
麗が、光の無い目でオレを見ている。
明らかに人を殺す時の目だ。
麗「あと3秒…2…1…」
オレはすぐさま薫の胸から手を離す。
まだ死にたくないです。
薫は息を荒くしながらその場にへたり込んだ。
銀「すいませんでした!」
麗「次はない」
薫「はあっ、はぁ…」
麗「大丈夫?薫」
薫「ん…だい、じょぶ…」
オレらの様子を、だいぶ前からいたであろう中学生ぐらいの女の子のお客さんが、ジュースを飲んで黙って見ていた。
無表情の青い目がオレに刺さる。
やばい、遊びすぎた。
オレたちは立てた人差し指を口元に当て、落ち着くことにした。
しかし、なんでこんな平日の早朝に女の子が?
学校に行く前…にしては、学生カバンらしきものはない。
そういや、ここ最近毎日(といってもオレの出勤日の時しか知らんけど)あの娘来るようになったな…。
まぁ、人には色々事情があるし、あんま気にしないどこう。
途端、カランカランと店の入り口の扉が開いたことを教えるベルがなった。
三人『いらっしゃいませー!』
オレたち三人は笑顔で扉のほうを見る。
入って来たのは、カップル客だった。
「きゃー私ファミレスなんて始めてー♡」
「俺が手取り足取り教えてあげるよ♡」
「嬉しい♡♡大好き♡♡♡」
いちゃいちゃしながら入ってきた。
しねばいいのに。
ファミレス教えるのに手取り足取りって何だよ、ドリンクバーとかか?
薫「ムカつく…」
麗「あ」
オレはリア充が嫌いだ。
だが、オレ以上にもっと嫌ってる奴がいる。…薫だ。
普段は優しくて世話焼きな子だが、幸せそうなやつを見ると途端に憎しみのこもった表情を見せる。
薫「何よあれ、人前でいちゃついて、恥ずかしく無いのかしら」
薫はそのカップルが席に着くまでの一部始終を見ながら吐き捨てたように言う。
薫「しねばいいのに…。ムカつくムカつく、妬ましい…」
彼女は緑色の目でそう呟きながら、モップを持ってバックへ戻って行った。
オレと麗は閉じられたバックの扉を見つめながら、
麗「始まっちゃったわね…」
銀「ああ…。あーなるとしばらくは妬みモードだぞあいつ」
と、辟易したため息を同時についた。
しかし、オレも異常にむかつく。
なんであいつらあんなに仲良くしてんの?
銀「うぜぇな…」
麗「え?何がよ」
銀「あのカップル。見せつけてんじゃねえよ。公然猥褻罪で訴えてやろうか」
麗「ちょ、あんたそんなに怒らなくても…」
なんかムカつくんだ。
人前であんなに仲良くして。
オレにはそんなことできる異性がいないのに。
「すいませぇ〜ん♡」
先程のカップルの女のほうがオレたちを呼ぶ。
ボタンあんだけどな。
「おいおい、ちゃんと店員さん呼ぶボタンここにあるから♡」
「あっ、ほんとだぁ〜♡気がつかなかった♡♡ぽちっ♡」
店員を呼ぶ小鳥のさえずりが聴こえた。
いっつも思うけどこれ聴こえづらいから変えて欲しい。
銀「はい。ご注文お決まりですかー?」
俺はさっ、とタブレット型のメニューを取り出し、胸の内に溜まっている黒いモヤモヤを我慢しながらバカップルの注文を受けるのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
店長「おつかれさん、今日はもう上がっていいよ」
店長がオレと麗と薫の三人に言う。
時刻は13時と少しを回っていた。
三人『おつかれさまでーす』
オレたちはバックへと戻った。
バックには更衣室につながる地下がある。
そこの扉を開け、電気を付けた。
銀「あーマジ忙しかった!!なーこの後昼飯一緒に喰いにいこーぜ!明日シフト休みだし!」
薫「うん、いいわね」
銀「テレビでやってたんだけど、最近大通りに新しく出来たカレー屋がすげー美味いんだってよ!!」
麗「わかったから、テンション上げないでうるさい」
銀「ひでぇ」
いろいろダベりながら俺たち三人は着替えを終える。
店長と昼からの仲間にお疲れ様を言い、オレたちは店を出てカレー屋へと向かう。
そしてついたカレー屋は大繁盛。
大勢の人だかりが出来ている。
銀「うっわ、やっぱ人多い!」
薫「さすが、みんなミーハーね…」
オレと薫が感嘆の息を漏らすと。
麗「!待って、行列じゃ無いみたいよこれ。なんか…みんな何かを見てるっぽいわ」
銀「見てる?」
麗「行くわよ!」
薫「あっ、ちょっ、麗!」
オレと麗と薫は、謝りながらも人だかりに無理やり割って入る。
そして髪をボサボサにしながらもようやく人だかりを抜けたそこにあった光景は。
「あの兄ちゃんすげえな!」
「ああ…あれで大盛り15杯目だぜ!」
人々が口にする感嘆の声。
オレたち三人が見たものは、メガネをかけた高校生ぐらいの青年が、大きな皿が大量に重ねられたテーブルの横のカウンターに座り、大きなカレーを食べている光景だった。
米粒一つ残さず、丁寧に、しかし素早くカレーをスプーンにすくいかっ喰らっている。
麗「うわ…すごいわねあの子!」
薫「ほんと…」
2人が驚嘆した表情でその男を見つめている中、オレは異常に腹を空かせていた。
その光景に驚いている場合じゃない、腹減った。
「おかわりください」
カラン、とまた一つ皿を重ねながらお代わりを要求する男。
確かにまあすげえっちゃすげえけど。
銀「なー、オレらも食おうぜ!」
麗「えっ?あ、そ、そうね。食べましょうか」
オレら三人は、空いているテーブル席に座る。
その時、17杯目を食べようとしたそいつがオレらのほうを見る。
眼鏡越しに見える赤い目のそいつと目があった。
そのあとすぐにそいつはカレーに向き直り食べ始めた。
オレも特に気にせず、メニューを取り出し何を食べるか選ぶ。
銀「よーっし、じゃあオレはこの『シェフの気まぐれ特製カレー』と『ナンてカレー』と『インド洋で取れたと思われる魚介を使ったカレー』と『便所カレー』と『コーンサラダ』と『コーンサラダ』と『コーンサラダ』と『ハヤシライスカレー』と『トリュフアイス』と『カレーケーキ』!!あと水」
麗「ちょ、あんたそんなに食べれるの?!てかコーンサラダは一括で言え!!」
薫「カレーケーキまずそう」
銀「いける!食える!てか食う!!2人は何にすんだよ?早く決めろよな」
オレがドヤ顔でボタンに指を添える。
いつでも押せるようにだ。
あーはらへったー!
麗「えっ、ちょっ、待って」
薫「カレーケーキまずそう」
麗「えーと、じゃあ『オムカレー』でいいわ」
薫「カレーケーキまずそう」
銀「薫は?」
薫「『ハンバーグカレー』にするわ」
全員の注文が決まったので、俺はすぐさまボタンをめっちゃ連打する。
ピポポンピンポンピポポポッピッピンポピピピンポンピンポ
「すいませんお客様、ボタン連打は故障の原因となりますので…あと他のお客様の迷惑になりますので」
銀「サーセン」
改めてメニューを広げ、オレはさっき言ったやつを全て注文した。
しばらく待ち、そしてようやく注文したものがやってきた。
銀「よっしゃー全部食うぞ!!!」
麗(どうやって机の上に全部乗ったのか…)
薫「うわっ、カレーケーキまずそう」
オレたちは机の上に置かれたものたちのオーラのすごさに圧倒される。
しかし、負ける訳にはいかない!!
全部平らげてやるよ!!
ちらり、とメガネ男のほうを見る。
彼は相変わらず大盛りカレー食べ続けていた。
25杯目は超えてるだろうか。
あそこまで食って、金はあるんだろうか。
オレはある。最悪この2人に金借りる。
ちなみに大盛りカレー、一杯980円である。
麗「いただきまーす」
薫「まーす」
銀「す!」
オレらは自分が注文したものをそれぞれ食べ始めるのであった。
あー腹減ってた!!
カレーケーキまずっ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時刻、午後4時。
既に真上にあった太陽は西に傾き始めていた。
色も白からオレンジへ。
オレらはカレー屋を出て、大通りからすこし離れたところにあるゲーセンへとバスで向かうことにした。
銀「あー食ったー」
麗「信じられなかったわよ、二時間半かけて本当に全部食べるんだもん」
薫「ほんと、すごかったわね…カレーケーキ美味しかった?」
銀「まずかった」
薫「でしょうね」
オレたちが談笑していると、バスがやって来た。
オレたちはそこに乗り込み、空いている一番後ろの席に座る。
銀「オレ窓際ー!」
麗「わかったからうるさい」
銀「ひーん」
薫「じゃあ私真ん中ー」
麗「苗字が間中だから?」
薫「偶然!」
オレたち、これでも20歳以上です。
席に座り、スッカスカのバス内をぼーっと眺める。
スカスカっつっても、ちらちら人はいるけど。
バスが動きだし、オレは今度は窓の外に目をやる。
乗り物から見る窓の外の景色が何と無く好きだ。
なにも考える必要がないから。
あと酔いにくいから。
やがて、二つ目ぐらいのバス停につく。
オレたちが降りるのは、もうあと三つぐらい先だ。
扉が開いて人が入ってくる。
入って来たのは一人、パーカーを緩く着た若い男だ。
薫と年が近いぐらいかな。
ぼーっとした表情のそいつは、オレの前の席に座る。
オレはスマホを取り出し、パズルゲームをしようとした。
その時、ふとそいつが振り返った。
オレと目があったそいつは、白銀の目の色。
そしてまたそいつは前に向き直した。
なんで振り返ったのだろうか、意味はわからない。
オレはスマホをポケットにしまった。
ゲーム?やる気失せた。
オレはまた窓の外に目をやる。
何かをするのが面倒くさい。
まだ目的地に着くまでには時間があるし、寝ていようか。
……………
薫「銀ーー起きて!着いたわよ!」
銀「ほふっ」
薫に揺さぶられ、目を覚ます。
どうやら目的地のゲーセン付近のバス停に着いたようだ。
麗「珍しいわね、あんたが寝るなんて。いつもは窓の外見てるのに」
銀「いんやー…なんか知らんけど怠くなって」
薫「大丈夫?風邪でも引いたの?」
銀「大丈夫大丈夫」
俺はひらひら手を振り、怠い身体を無理やり起こし立ち上がる。
寝てたからかな…身体重い。
バスから出ようとすると、さっきの男が出口にいた。
あいつもここで降りるのか…。
薫を先頭に、麗、オレの順にそいつが降りるのを待つ。
オレら以外の乗客はもういない。
「札崩すのめんどくさいな…」
その男がめんどくさそうに呟く。
小銭が足りなかったようだ。
手のひらにあるいくらかの小銭を見てそう呟いていたから。
その様子を見ていた薫は、自分の財布を取り出す。
薫「いくら足りないの?」
「?」
薫「足りないんでしょ?いくら?」
「…10円」
男が薫を訝しげに見ながら答える。
薫はどうやら、こいつが金が足りないと勘違いしたらしく、世話焼き発動。
見ず知らずのやつにまでこんなことするとか、こいつの将来が不安だ。
薫は財布から10円を出す。
薫「はい、あげる」
「…え?」
麗「ちょっ、あんた」
薫「いいの!10円ぐらいなら。困ってる人は見過ごせない」
いいやつと言うかお節介と言うか。
何かを言うことさえめんどいオレは黙っておく。
薫「どうぞ」
「…ありがとう」
薫「いいえ」
薫が笑顔で返事をすると、そいつは少し顔を赤くして軽く会釈をし、薫の手から10円もらってそのまま運賃を払い降りて行った。
そしてオレたちも順々に降りる。
麗が降りた後、運転手以外誰もいなくなったバスは次のバス停へと向かって行った。
麗「あんた、人よすぎ!!そのうち結婚詐欺にかかったりとか変な絵とか買わされないか心配だわ…」
薫「そ、そこまでじゃないわよっ。さっきの彼、別に怪しい感じじゃなさそうだったし…」
麗「甘い!!見た目がそうっぽくなくても騙すやつなんてこの世にいくらでもいるのよ!!」
薫「あう」
麗が薫の後頭部をはたく。
オレはなにも言わず、二人の後を着いて行った。
やがてゲーセンに着き、オレたちは開きっぱなしの自動ドアから中に入る。
その頃には、さっきまであったオレの中の怠いという気持ちは無くなっていた。
銀「うっしゃー!取るぜ!!」
麗「急に元気になったわねあんた」
銀「ほら、こうやって盛り上がる場所につくとテンション上がるんだよ!」
薫「元気になってよかったわね」
オレは早速、一つのUFOキャッチャーに近づく。
その中には大きなウサギのぬいぐるみ。
銀「よーっし!取るぜ!」
オレは腕をぶん回してやる気を出す。
そして、さっそく100円投入。
矢印の描いてあるボタンを押し、すぃーとアームを動かす。
麗「がんばってー」
薫「とってー」
二人がオレのそばに立ち応援する。
やがて、縫いぐるみに狙いを定めたアームが下に降りる。
…そのアームは、縫いぐるみを取ることなく上に戻った。
銀「っだーー!!取れねえ!!」
麗「ま、こういうのは一発じゃ無理よね」
薫「いくらか投資しないと」
銀「もっかい!」
今度は500円を投入。
500円で6回できるという1回分お得な仕様だ。
オレが2回目にチャレンジしようとすると、オレのUFOキャッチャーの隣の、菓子の大人袋がいくつか入っているUFOキャッチャーに誰か来た。
麗「うわっ、ヤンキー」
麗が呟く。
ちら、と隣を見ると、明らかにヤンキーとチャラ男見たいなのが二人いた。
「よし、ここの中身全部俺のもんだ」
「頑張れよー」
どうやらヤンキーの方がプレイするみたいだ。
チャラ男っぽいのはヘラヘラしながら軽くそいつを応援する。
ヤンキーは慣れているのか、どんどん中身を取って行く。
すげえ。
薫「なんか凄いわね、あの人たち」
麗「どうせ毎日夜来てるんでしょ。今は夕方だけど」
麗はこういうヤンキーとかの類が嫌いだ。
そしてオレも関わり合いになりたくはない。
すると、オレたちがずっと見てたからか、そいつら2人がこっちを見た。
やべっ、目があった。
ヤンキーの金色の目、チャラ男の漆黒の目がオレを見据える。
「…何だよ?」
銀「いや、別に」
ヤンキーにドスの効いた低い声で言われ、慌てて目を逸らす。
なにこいつらやっぱ嫌いだわこういうタイプ。
「ま、いいんじゃね?気にしなくても」
「…チッ」
チャラ男に宥められ、ヤンキーが舌打ちしながらもUFOキャッチャーの方に向き直る。
ほんと嫌いだわこういうタイプ!!
麗「ガラ悪いわね…」
薫「あんまり関わらない方がいいわよ」
2人に小声で言われ、オレも頷く。
よし、改めてプレイ!
しかし、なかなか取れない。
アームが当たるだけだったり、引っかかったと思いきや手前で落ちたり、挙句景品が落ちるとこから遠のいたり。
銀「っあーイライラする!!」
思わずボタンをバン、と強く叩いてしまう。
麗「ちょ、そんなに怒らなくても…」
銀「だって腹立つんだもんよぉ!!あークソがっ!!」
頭を掻き毟る。
なんなんだよこのクソゲー!!
そうこうしてる間に、隣のバカ男共はひょいひょい菓子を取っている。
余計に腹が立つ!!!
銀「あ゛ーークソがぁ!!こんなかのもんは全部オレが手に入れてやるっ!!」
麗「ちょっ」
薫「全部手に入れたら他のお客さんが取れなくなっちゃう!」
銀「いいんだよ!!全部オレのもんだっ!!」
全部取らねえと気が済まねえ!!
腹立つしなんかこの中の縫いぐるみに独占欲出て来たし、もうわけわっかんねぇ!!どうでもいい!!
銀「全部手に入れたらあああーーーーっっ!!!」
「あのお客様、他のお客さんの迷惑になるので大声で叫ばれるのはちょっと…」
薫「あわわ、ごめんなさいごめんなさい」
麗「ごめんなさいぃ」
全部手に入れてやる!!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
銀「はぁっ…」
午後8時。
すっかり辺りは真っ暗だ。
オレは軽くなった財布と重い荷物を持ち、麗と帰路に着く。
薫は先に帰った。用事があるらしい。
麗「ったく…本当に全財産使って縫いぐるみ全部手に入れちゃうなんて…」
銀「へへ…」
後悔も反省もしていない。
明日からどうしようかなー姉貴に借りるしかない。
途中、人とすれ違う。
その瞬間に、その人が何かを落とした。
銀「あっ」
空いた片手でそれを拾う。
その人が落としたものは、チョーカーだった。
首につけてなかったのか…。
しかし綺麗なデザインだ。
シルバーで出来た逆十字、真ん中に綺麗な紫色の石。
月明かりに反射してキラキラしている。
麗「銀?ちゃんと返してあげなさいよ」
銀「あっ、あ、そうだ。すいませーん」
チョーカーに見惚れてる場合じゃない。
オレはチョーカーを落とした人の後ろを追いかける。
「はい?」
くるり、とオレの方を向く人は男だった。
オレはチョーカーを差し出す。
銀「あのこれ、落としましたよ」
「え?…あ、あっ!ありがとう」
オレと年が近そうな彼は、笑顔でそれを受け取る。
おお、一見この兄ちゃんもチャラそうだと思ったが、いいやつそう。
銀「それじゃ!」
オレも笑顔で手を振る。
彼は紫色の目を向け、微笑を浮かべたまま
「やっぱり君か」
と言った。
銀「へ?」
意味がわからず聞き返す。
しかし彼はもう一度言うことはなく、オレに背を向けチョーカーを装着して行ってしまった。
いみわかんねぇ。
オレも踵を返し麗の元へと歩く。
麗「あら、遅かったわね」
銀「気にすんな」
麗「連絡先でも聞いたの?w」
銀「ふん、聞くわけねえだろ。むしろオレが聞かれるのが当たり前じゃん」
麗「」
そうだ。
なんでオレから聞く必要がある。
むしろオレが聞かれないとおかしいだろ。
こんなに素敵なオレなんだから。
麗「あんた…今日どうしちゃったのよ」
銀「は?何が」
麗「今日あんた一日おかしいわよ?」
銀「おい、失礼だろうが。このオレの何がおかしいってんだ。」
なんて失礼なやつなんだ。
オレが最高に可愛くてかっこいいのはいつものことだろ。
麗「だって…。
朝はいつも以上にひどいセクハラ、
口に出すほどリア充を妬みだす、
昼はあり得ない位食べまくる、
バスじゃ怠そうに寝てる、
ゲーセンでいきなり怒り出す、
そして景品全部欲しがり出す、
今は突然自信過剰になってる。
今まであんたそんなんじゃなかった」
銀「…」
言われてみればそうだ。
いつものオレはそんなんじゃない。
なんで、そうなっちまったんだ?
麗「あれの日じゃないわよね?」
銀「違う」
麗「幽霊でも取り憑いた?」
銀「取り憑いたって…オレはエクソシストだぜ?そんなことが…」
そこで、オレと麗の言葉が止まる。
まさか、悪魔?
銀「姉貴に言ってみる…」
麗「うん…アタシも着いて行くわ」
オレと麗は早足でオレの家に向かう。
オレは気づいてなかったんだ。
そんなオレらの様子を、ずっと見ている存在がいたということを。
「さぁ…始めるか」
プロローグ 完
次回予告!!
銀「こっ、これが七つの大罪…!!」
銀の目の前に現れたのは、7人の…天使?!
麗「実はアタシも大罪だったの!」
輪廻「うちもや!」
銀「なんだってー?!」
友の裏切り、家族の裏切り…!!
七つじゃなくて、九つの大罪?!
銀「オレも大罪だったのか…?!」
いや、十の大罪だった!
そして日本中が大罪を背負い…!!
次回、「千の大罪」
〜〜〜〜
いよいよ始まった…!
クソギャグ物語!!
もちろん次回予告は嘘でーーーす!!