とある狂乱
「聖女の再臨だ!」「聖女が現れるぞ!」
騎士たちの異様な熱狂ぶりを、エルデリック・カートンは不思議に思いながら、それでも自分のしたことをきちんと直視していた。炎上する森の中から一人、民間人を救助したとの報告があった。ひょっとしたら、森の中では大量虐殺が行われていたのかもしれない。入ったら誰も出てこられないというのは、そういうことの可能性もある。だからこそそういう子供を一人でも助けられたことと、他にもいたかもしれない、助けられた命にエルは黙祷を捧げる。そして、ひょっとしたらいるかもしれない、焼き殺してしまった命に。
「偽りの聖女は必要ない!」「真の聖女が我らをお守りくださる」「エルデの聖女に栄光あれ!」
騎士たちは奇妙な歓声をあげる。わけのわからないことを口走っている。
ふと、エルはそれを見た。黒い何かが森から浮かび上がった。それは酷く不吉で不快で、そのくせ、目が逸らせない。ああ、とエルは理解した。国王と聖女の意図を、森を排除してはならないという意図をこれほどなく理解した。あれが出てくるから、森を排除してはいけない。なるほど、それならば言葉にしてはわからない。実際に見ないとわからない。
そして、見てしまったときに、もう手遅れであると。




