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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ネットワーク・グラップラー

格闘シーンが書きたくなって考え付いた物語です。反響が思いのほかあったら続編を書くかもしれません。

 格闘技の大会がテレビなどで中継されるようになって約80年。人間が肉体の限りを尽くして戦い、観客がそれを見て熱狂する。だがそれは昔の話、近年テレビでは人間が格闘技をする姿を見る機会が殆どなくなり、代わりに部品や火花が散り、金属のひしゃげる音が聞こえるロボット同士の格闘技、特にボクシングが人気を博している。人間同士の格闘技よりスリリングで迫力があり、ロボットを作る企業の宣伝にもなるし何よりも人が怪我をしない。このような点が多額の金がスポンサーから下りた理由だ。


 そうして居場所をなくした格闘家たちが居場所を求めてたどり着いた場所が体を動かすことが仕事のアスリートにはあまり縁のないネットというのは全く皮肉である。科学技術が発展し、最初は軍事訓練を目的として作られ、軍事利用や医療行為を主に使用されてきた仮想空間再現技術(またの名をVR技術)が一般にも利用されるようになってVRを使った電子機器や生活用品が流行し始めてきたVR技術。その技術は革新的なアイディアも生まれず、ただただグラフィックの向上に力を注ぎマンネリ化してきたゲーム業界にとってまさに救いの一手だった。今までの鬱憤を晴らすようにどんどんVRゲームが発売されて、クソゲー認定を受けたり神ゲーと呼ばれ人気を集めるゲームができたVR黎明期。そんな時代で一際輝いたのはVRMMOではなくVR格闘ゲームであった。


 リアルな格闘を楽しめという煽り文句とともに売り出されたVR格闘ゲーム『ネットワーク・グラップラー』はロボットに居場所を追われた格闘家たちにとって楽園ともいえる場所だった。VRだから怪我の心配はなく、肉体は減量せずとも最高の状態を保つことができる。そして何より肉体の衰えや病気などで引退を余儀なくされた格闘家(パンチドランカーなどの脳に障害を持っている人たちを除くが)達にも光をもたらし、現実世界では実現不可能だった試合やリベンジ戦が簡単にできるようになった。その試合の様子はネットで中継され、チケットは格闘技ファンなどに飛ぶように売れた。


 そんな中、VR格闘技ブームを支え続けた一人の格闘家がいた。本名を隆二・E・大塚といい父は日本人、母はアメリカ人というハーフ。リングネームはリュウジ・ブシドーといい、日本人初の世界WBCクルーザー級チャンピオン。隆二は王座を5度防衛したが年齢による衰えで引退を余儀なくされた人物である。最終成績は38戦 31勝 16KO 7敗。特に強い力もなく、素早い足もない地味なボクサーだったが相手を研究し尽くして相手の弱点を捜し、時にはハードワークになりながらも真面目に練習をし、堅実に価値を取りに行くボクサーで、クルーザー級というウェイトの重い選手をワンパンチKOするド派手な試合も無いが、常に自分のペースを作り、ゲームメイクしていく姿はコアなボクシングファンに人気の選手だった。


 隆二はボクサーを引退した後、友人の伝手で減量をしているときに減量苦を紛らわせるためにしていたゲームの開発にかかわるようになった。ボクサー時代には使わないプログラミング言語というものを必死に勉強して、何とか生活をしていた。ゲーム業界に身を置いているので、VR格闘ゲームが発売されるという情報をいち早く掴み、ほかの格闘家たちに先駆けてその魅力に取りつかれていた。


 この『ネットワーク・グラップラー』というゲームは必殺技や飛び道具などがない代わりに、モーションサポートという動きの初動をシステムが判断してその後の動きをサポートするといったシステムがあり、格闘技をやっていた人たちのほかに未経験者にも優しく、プレイヤースキルがあまりなくてもいっぱしの格闘家になれるところや、HPがなく、攻撃箇所で脳震盪や、出血をしたり、手がしびれたり、痛みが走ったりするリアル志向なところも人気の理由だ。このゲームは総合格闘技ルールが採用されており、金的・目つぶし・噛みつきは禁止。決着はKOか判定、ギブアップのみというあまり縛りのないルールなので、痛みなどは一定の所で抑えられている。


 今日も隆二は対戦相手を求めてアメリカサーバーの対戦ステージを巡っていた。このゲームは地域によってサーバーが違く、世界各地のサーバーを行き来してその地域特有の武術や選手に出会えることもこのゲームの魅力の一つである、アメリカサーバーはヘビィ級に近い選手がたくさんいて隆二にとっても好都合なのである。これが日本サーバーや東南アジアサーバーになるとフェザー級の選手のほうが多く、隆二の様なクルーザー級の選手と対戦するのには骨が折れる。一応無差別級などはあるが、アメリカのMGMグランド・ガーデン・アリーナで開かれる大規模大会などはしっかりと階級が決まっており、そこに出場するためにあまり無差別級などには出場しない選手が多い。それとなぜアジアのほうのサーバーにヘビィ級が少ないかというと、現実の自分とあまり離れた骨格に設定すると動きずらく、弱くなるのが常識で、普通の人は現実と同じ体格・体重にするからである。


 ロビーで対戦を予約して、控室で待つこと15分、今回の隆二の対戦相手が決まったようだ。2時間後に、第3リングで黒人の選手との対戦。名前はアンドレ・ジョンソン、ボクシング界では聞いたのこのない名前だが、このアンドレという男の名前はあまり他の界隈に知り合いが少ない隆二でも聞いたことがあった。ネットでのニックネームは無冠のチャンピオンレスラー。そう呼ばれたこの男は機械の格闘技が流行りだして、人間の居場所がなくなるその直前までリングに立っていた人物でもある。無冠と呼ばれている理由は資金もなくなりチャンピオンシップなどが開かれなくなったレスリング界で最強と呼ばれていた事に所以している。このように『ネットワーク・グラップラー』はいろいろな格闘家が集まるのでボクシングでは聞いたことのない名前がほかの格闘技の世界チャンプであったとかはよくある話である。


「次第3リングでブシドーとアンドレだってよ!」

「マジかよ、クソッ!試合入れちまったよ!」


 対戦が決まるとロビーにある大きなモニターで発表と同時にチケットが発売される。トーナメントなどの決勝戦や前々から決まっていたビックマッチなどはチケットが先行して発売されるが、俗に言う野良試合などではこのように急に大物同士の対決が決まり、観客は競い合うようにチケット売り場に向かい、ネットでも実況掲示板などが開かれ、いきなり決まった対戦の熱は徐々に増していった。


「相手がレスラーとなるとインファイトは危険。やっぱり距離を取ってアウトか…いや、だがそこを対策していないわけが…」


 そんなことをぶつぶつ言いながら隆二は試合前の精神集中を行っていた。現役時代にいつも試合前にやっていた方法、座禅をして頭にある余計なことを意識の外に追いやって、ゲームを構築していく。この姿が侍にも見えると有名で、控室にいるほかの選手はいきなりどこにでもいるようなアジア人がテレビで見た事のある姿勢をして、纏う風格がピリピリしたものになっていることに気付いてびっくりしていた。


「おい!あれブシドーじゃねぇか!?」

「マジか!サインもらおうかな…」

「馬鹿!試合前にそんなこと頼むやつがいるか!」


 世界チャンプと同じ部屋に入れることがうれしいのか控室にいる選手は意味もなく興奮していた。だが隆二はよほど集中しているのかサインを求められているにもかかわらず座禅を崩すことはなかった。そんな様子を見てセコンドのマイクは何時も通りの隆二だと苦笑いながらも安心していた。ここでこのゲームのセコンドというものを説明しておこう。セコンドというのはリングの自陣にいて試合中のインターバルの時に選手に作戦を伝えたり、アイテムを使って選手をサポートをする人物のことである。現実では試合の中止権限も持っているのだが、このゲームは途中棄権のないルールなのでその権限はなくなっている。セコンドが使うアイテムはゲーム内マネーを使ってショップなどで売られているものしかなく、出血を止めるためのワセリンやアイス、タオルなどで、値段によって質の上下はあるがすべて統一された規格であり、課金による優劣はなく、使うタイミングや効能をミスしてしまうとそれが試合を大きく左右することもある。有能なセコンドは引く手数多であるが大体はパートナー契約をして、グループやコンビで活動している人がほとんどである。


「第3リング入場を開始してください」


 控室に入場を促すアナウンスで、シャドーをしていた隆二が試合場に向かおうとするときには控室にはファンが人だかりを作っていた。ファンの声援を浴びながら控室を後にする隆二の背中はどこにでもいるようなアジア人の雰囲気が消え、しっかりと歴戦のチャンピオンの風格があらわれていた。


 試合場に入るとタイトルマッチでも始まるかのような観客の熱気があふれて、独特な雰囲気を作っている。観客は超満員、たった2時間前に告知されたばかりなのにこのありさまである。公式サイトでは各サーバー各リングごとに中継されているが、その中継もつながりにくくなるという状況だった。隆二はこのような大勢の観客を前にしても物怖じしない対戦相手を見て、相手の実力を測っていた。


「…ボックス!」


 いつも通りのレフリーによる掛け声とともにゴングが鳴った。相手は顔のわきにガードおいて様子見の体勢。ボクサーにとってレスリングや柔術などの組み付き系は天敵である。マウントを取られてしまったらボクサーの武器である腰の入ったパンチを封じられてしまうので相手との距離をとりアウトボクシングで決めるのが定石。そう考えて隆二は現役時代に取っていた構えに移行する。左腕を肘から曲げて下げ、顎をがら空きにする構え。そう、デトロイトスタイルである。黒人のバネがないと使用するのは難しいとされるフリッカーを使うためのこの構えをアジア人である隆二が使えるのは黒人である母の血を受け継いでいるからである。あまり力のない隆二でもバネを使いスナップを効かせて打つフリッカージャブならば相手との距離を取りながら確実にダメージを入れていくことが可能になり、リードブロウとして使うことによって相手のスキを突き、本命の右を入れることが可能になる。相手のガードを掻い潜るようにスナップを効かせ、ジャブを打っていく。いつも通り、着実に。


 アンドレ・ジョンソンは元プロレスラーである。プロレスラーになろうとしたのは中学生の頃。だがプロレスラーとして知名度が上がったころには人間のプロレスラーがいなくなり、機械が代わりにプロレスを行うようになっていた。ファンは、ジョンソンのことを無冠の王者と呼んでいた。ジョンソンも、隆二と似たように夢を諦められずにこのゲームに入ってきた口である。隆二かアンドレを知っているようにアンドレもまた隆二のことを知っていた。日本人で初めてのクルーザー級チャンプ。堅実なボクシングが得意で、正確なジャブとストレートを武器にポイントを確実に取っていくファイトスタイル。ついたあだ名は機械仕掛けの侍。アンドレはプロレスラーであったが大の格闘技ファンで、色々な格闘技を見てきたがその中でもボクシングがお気に入りであった。そのためこのゲームでもボクシングを主軸に闘う選手への対策も当然している。だが、


「ファック!どうして気持ちよくテイクダウンをさせてくれねぇんだ!」


 アンドレは苛ついていた。今は第3ラウンド終了した直後である。アンドレはガードをあげて相手のスキを突き、フック系のパンチに合わせてタイクダウンに行こうと試合開始までは考えていたがいかんせんフックが来ない。左右のフックの空振りに合わせたテイクダウンに行こうともしたが、隆二が打つフックは戻りが速く、テイクダウンに合わせて拳を合わせられるためアンドレは攻めあぐねていた。


「落ち着けアンドレ!焦っていては相手の思う壺だぞ!」


 アンドレのセコンドであるアレックスは頭に血が上りやすいアンドレをなだめる。


「幸い相手の右はスピードを重視してるからダメージは少ない、一発をもらう覚悟で行ってみろ。あと2ラウンドしかないんだもう判定は諦めろ。あと10分で決めるんだいいな?」

「分かってるよアレックス。それは一番俺がわかってる。大丈夫、大丈夫だ。」


 試合は1ラウンド5分の5ラウンド制で行われ、今は丁度折り返したところである。試合は隆二がフリッカーを使い距離を保ち、時折右を混ぜていく基本的なアウトボクシングスタイルでポイントを稼ぎ、主導権を握っていた。


「オーケー、リュウジいい感じだ。このまま判定で勝っちまおう。氷いるか?」

「大丈夫だマイク。氷がほしいのは相手のほうだろう、フリッカーは腫れるからな。ドリンクあるか?」

 

 ドリンクは、まんまスポーツドリンクのような味がする飲料で、失ったスタミナをある程度取り戻すことのできるアイテムである。一方氷は、顔面の腫れや関節の炎症などを一時的に和らげるアイテムで両方とも試合では使われることの多いアイテムである。


「ほいよ、ドリンクだ。なんだ、軽口をたたく余裕もあるじゃないか。これはもらったな。」

「お前が油断してどうすんだ。たぶん相手も俺のパンチが速度重視で体重が乗ってないことに気付いたころだろ。そろそろ仕掛けてくるな。」


 勝利を確信したセコンドとは裏腹に隆二は冷静に戦況を分析していた。たぶんこの試合の山場は第4ラウンド、そんな予感がしていた。無冠の王者とも呼ばれたアンドレがこのまま終わるはずがない。ここまで順調に事が運んでるほうがラッキーなくらいだな。と隆二は思いながらドリンクを飲んでスタミナ回復に努めていた。アウトボクシングをしている隆二は相手との距離を稼ぐために常に足を動かしていた。それを3ラウンド15分も続けていたらスタミナは厳しくなって当然。しかも相手は耐久力に定評のあるレスラー。まだまだ余力を残してると隆二は踏んでいる。せめてあと5発は右を入れたいところだ。そうこうしているうちにインターバルが終わり4ラウンドが始まろうとしていた。


「セコンドアウト」

「頑張れよ。リュウジ!」

「行って来い。アンドレ!」


 両者セコンドの声援に背中を押されながら。第4ラウンドが始まった。


 隆二は今までと変わらずデトロイトスタイルで相手を見ている。アンドレは先ほどまでのガードを上げた体制とは違い、腰を落としてテイクダウンを狙う体制。両者が睨み合い、間合いを測る。フェイントや小さなジャブを織り交ぜながら交戦して1分半。先に飛び出したのはアンドレだ。デトロイトスタイルをしているために出ている左足に対しての片足タックル。先ほどまでと同じだが今回はスピードが段違いだった。隆二は出てくる相手を牽制するためにジャブを放つが力を込めているのか止まらない。すかさず左足を後ろに持っていき生まれる腰の回転を利用して右を打ち下ろし気味にフックを打つが。相手に見切られ、出してしまった右足を取られてしまう。相手の力、スピードが先ほどまでとは違い、一気に攻めてきたところを見るにこのラウンドで決めに来ているようだ。バランスが崩れてマットに体が沈みながら隆二はそう考えていた。


「取った!」


 アンドレは心の中で思った。隆二が打った右のフックは正確性に欠けており、スパーリングを重ねてきたアンドレにとっては絶好のチャンスでもあった。たぶん一気に攻めてきた自分のスピードとパワーを先ほどのフリッカーで測り、その力を利用してカウンターで仕留めるつもりだったのだろう。だがアンドレにとって右フックは悪手。フックの勢いで上半身が流れ、足をさらけ出してくれるので片足タックルや両足タックルが決めやすい。上手くいったとアンドレは内心ほくそ笑みながらマウントポジションに移行しようとするが相手もレスリングや柔術との対戦経験があるのかしっかりと腰に足を回してガードポジションをとっていた。ボクサーにしては足の力が強くなかなかポジションを移行できないでいたがポジションなんかお構いなしに今までの鬱憤を晴らすようにパウンドを浴びせていく。これで足の力が緩めばいいがいかんせん相手も足の力を緩める気はなく、マウントに移行することができないがアンドレ有利は変わりなかった。


「クソ!テイクダウンを取られたんじゃ何もできねぇよ!早く脱出するんだリュウジ!」


 そんなことを言われても相手は本業のレスラー。そう易々と抜けさせてくれる訳ないじゃないか。隆二は内心、マイクのアドバイスに対して文句をつけていた。だがマウントの状態のボクサーの拳は体重が乗せられず、威力も格段に落ちてしまう。何とか脱出しなけらばと考えた瞬間体が感じたのは浮遊感であった。


「おっしゃ!そのまま絞め技に持っていけ!」


 嬉しそうなアレックスの声を聞いて自分も嬉しくなってしまう。今アンドレはガードポジションにある相手の腰に腕を回して持ち上げ、そのまま後頭部からマットに叩きつけたのだ。ヘビィ級ではないにしても上から二番目に重いクルーザー級の選手を持ち上げることは容易ではない。だがアンドレはチャンピオンレスラー。持ち上げて当然。そんな自信がアンドレの力を引き上げているのである。マットに後頭部から叩きつけられると意識が一瞬、朦朧として眩暈を起こす。だが一瞬さえあればフリーになった足を締め上げることは容易である。アンドレは隆二の足を跨いで180度翻り、両脚を使って相手の片足を挟み、相手の膝を抱きかかえるよう足を極めようとする。俗に言う膝十字をしようとしたが自由になった右足で踏ん張られ、相手を逃してしまう。相手はすぐに立ちあがり、ファイティングポーズをとった。まだまだやれるようだが、さっきの叩きつけの影響が残っているのか少しふらついていた。


「大丈夫か!?リュウジ!」


 まだはっきりとしない頭にマイクの声が響いてくる。大丈夫、まだやれると答えたいところだか相手も立ち上がり、4ラウンド最初のように睨み合っている。まだふらふらするが、もうパンチは打てる。ガードポジションから投げられるとは思わなかったが二度とマウントで勝負をしなければいいことだ。そう考えて、隆二もアンドレと同じようにこのラウンド、あと2分弱で試合を決める決意をした。


「もう一度だ!アンドレ!」


 アレックスがそう指示をしてくるが相手はもう立ち上がり、構えを取っている。まだ回復しきってはいないようだがしっかりと構えられた両腕は自分を狙っていた。さっきのマウントでの攻防で体力を使いすぎたアンドレは次のテイクダウンで確実に決めなければ負けるという確信にも似た予感がしていた。ならば、まだ回復しきっていない今のうちに倒す。と意気込んでもう一度テイクダウンを仕掛けに行った。しかし相手もさすがというべきか弾幕の様なフリッカーが飛んでくる。抜け目のないジャブでアンドレの侵入を防いでいた。だが先ほどの疲れか動きに繊細さを欠いている。チャンスと思ったアンドレは右腕でジャブを防ぎながら相手の右足に向かって片足タックルを仕掛けた。相手の右フックが飛んでくるのを予想してアンドレは頭を下げた。瞬間、アンドレは意識を失った。


 「危なかった…」


 隆二は崩れ落ちたアンドレを見ながらそう呟いた。レフリーがカウントを取っているが自分の右膝の感触が相手が起きることがないことを物語っていた。そう、隆二がアンドレを倒したのは右膝。キックボクサーでもない隆二が綺麗に膝を合わせられた理由が2つある。一つ目はアンドレがボクサーに対して対策を練っていたように隆二もレスラーや柔術家、サンボを使う選手に対して対策を練っていたからである。その対策は、キックボクシングである。キックボクシングを習いに東南アジアの選手たちにスパーリングをしてもらい、弱点である足を武器変えたのだ。その証拠に隆二はボクサーにしては太い足を持っている。副産物として、足の筋肉のおかげでガードポジションも強化することができ、易々とマウントを取られることがなくなった。そしてもう一つはモーションサポートである。短期間で熟練のキックボクサーやテコンドー選手、ムエタイ選手の様なキックを持つことは不可能であるが、タイミングや基本を覚えればモーションサポートを使っていっぱしの使い手になることも容易なこのゲームの特性を使った勤勉な隆二らしい対策である。


「…9!…10!」

 

 アンドレがそのまま起きてくることはなく、カウントが終わり、隆二が勝利した。歓声が爆発する。


「ブシドー選手。今回の勝因はやはりキックボクシングの動きを練習していたからなんでしょうか?」

「モーションサポートのおかげだよ、現実だったらあんなに膝をきめられないから、ゲーム様様ってところだな」

「ブシドー選手!来月に開かれるラスベガスカップには勿論出場するんですよね」

「ああ、今回の大会には俺のベルトを取っていった奴も来るらしいからな。リベンジマッチと行きたいね」

「優勝目指して頑張ってください!」


 興奮した観客に揉みくちゃにされながら花道を帰っていく。投げかけられる質問に対しても饒舌に答えている。そんな様子を見ながらマイクは来月の大会も優勝してしまうのではないかと思ていた。



 ドンピシャなタイミングで膝を合わせた華麗な勝利は観客を震わせ、見るものを魅了した。何も、元格闘家だけではなく、ダイエットのためにかじった程度の人や何もしていなかった一般人でもこうした名勝負が野良試合でも生まれ、『ネットワーク・グラップラー』は繁栄の道をたどっていくのであった。


この小説を読んでみてとある映画が思い浮かんだら一緒に語り合いましょう。私も大好きなんで結構影響されています。


まだまだ稚拙な文で誤字脱字、表現の違いや矛盾などがありますので見つけたり、ここどうなってんのと感想などで指摘してくれると作者は喜びます。

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