そして話は3
あれから落ち着いたら迎えに来る、という言葉通り、会津戦争から戻った一と、激動の時代を生き抜いたやそは婚姻の儀を挙げた。
暖かい陽だまりのような、幸せな日々だった。
「・・やそ、烈から荷物が届いたぞ。」
警視庁の警官。お固い役職についた彼は、腰に刀を下げて見廻りに出ている。
「ああ、頼んでおいた薬かな。一さん、これ戸棚にしまってーー!!」
ばっ、と彼女が勢いよく顔をあげる。
つられて一も顔を上げれば、そこには狐の面を被った男が、庭の木の上に立っていた。
殺気。彼女を背に庇いながら、刀に手をかけ、低い声で威嚇をする。
「誰だ。」
閃か?いいや、違う。彼よりも更に髪は長く、身丈が高い。何よりも、纏う雰囲気が彼よりも鋭い。
「約束の刻だ。帰るべきところへ、帰ってもらう。篠田やそ。ーーーーいいや、矢崎 蒼空。」
驚いた顔で振り向けば、彼女は辛そうな表情で、前に進み出た。
「逃げも隠れもしないよ。・・・でも、お別れだけは言わせて。」
・・・・別れ?彼女は何を言っている?目を見開いたまま彼女を見詰めれば、あの時と同じ、下手な笑顔で彼女が笑った。
「私の正体、話してあげる。私は今から何百年も後―――未来から来た。」
からん、と刀が手から滑り落ちる。彼女の言っている意味が、何もかもが理解できない。
「篠田は、母親の旧姓。やそは仇名。貴方に本当の名前を呼ばれたら、もう二度と帰れない気がしたの。本当にごめんなさい。
今までありがとう。貴方と出会えて、幸せでした。―――私の事は、どうか忘れて。これ、持ってて。」
そう言って手に握らされたものは、彼女と川に落ちた時に、からくりだと言っていた小さな銀の輪。
「あなたの事は、300年後から、ずっと愛してる。うん、ずっと愛してる。だから、また生まれ変わったら会いに来て。今度は本当の名前を呼んで。」
ふ、と唇に暖かい感触がしたかと思うと、強い光が辺りを包んだ。
思わず目を瞑る。
もう一度、目を開けた時には彼女の残り香と、手の平の中の銀の輪だけが、ぽつり、と残っていた。
――――――――300年後
「一!!早く来いよ!!」
遠くから幼馴染たちが呼ぶ声がする。
ああ、と返事をして歩き出そうとするが、なんとなく、大きく枝を広げている松の樹が気になって、歩く気にはなれなかった。
ざあ、と強い風が吹く。それと共に、懐かしい匂いがする。
目を開けると、手の平の中に違和感。
ぱっと開いてみれば、そこにはシンプルな指輪があった。
「・・・?」
何故だろう、ツキリ、と頭が痛む。
何か、大切な物を忘れている気がして、泣きそうな気分になりながら必死に思索を巡らす。
だが、その指輪は見た覚えも、買った覚えもなかった。
「やそちゃーーん!!何してるの?」
知らない女の子の声が響く。
その声は、一にとっては日常の雑音になる筈の音だった。
ばっと勢いよく振り向けば、ずっと、ずっと、焦がれていた、会いたかった人が、同じように目を見開いて立って居た。
迷わず駆け出す。
彼女も、駆け出す。
しっかりと抱き留めたその体は、一をひどく安心させた。
「・・・蒼空。」
ぽつり、名前を呼ぶ。
腕の中の彼女は、くすぐったそうに笑った。
「約束、やっと果たせた。」
そして話は、
彼等の未来へと続く。
end




