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番外編 そして話は



新撰組3番隊隊長、斎藤一さんの恋模様。本編読まなくても楽しめる、ハズ?


未来と過去の恋。

「斎藤ぉーっ。島原行くぞ島原。」

ニヤニヤとした顔で随分背の高い男が肩を組んできた。はぁ、と溜息をつきながら分かった、と返事をして立なち上がる。



既に出来上がっているであろうこの男は、顔が赤い。空には月が高く笑っていた。


女達が様々な笑みで色仕掛けをしながら男を誘う。粗方の隊士達が島原にうきうきとしながら女を決める中、ぼんやりとした雑踏の中で、斎藤は一人の女に魅入っていた。



その女は他の女達同様、愛想は振りまいている。だが目は全く笑っていない。それに纏う雰囲気は他の女達と同じく色。ではなく、僅かながらの鋭さ。


自分よりは年下であろう。だが幼さも何も感じられない彼女。自分を島原に誘った永倉が、おっ、と声を発した。


「斎藤はあの子にご執心かぁ。なら決まりだな!ほら行ってこい!昼には戻れよ!」


強引に話を勧める永倉に押される形で、彼女を買った。



「お頼もうします。天華(てんか)言います。」

ありきたりな言葉を述べ、に、と子供のような笑みを浮かべる彼女は矢張り、纏う雰囲気は色とは少し違う。


一献、どうどすか?と酌をしようとする彼女に、雰囲気に浮かされてか、するりと口を開いた。


「・・・京の女、ではないな。それにお前は・・・遊女じゃ、ない。」


ぴたり、と笑顔のまま彼女が動きを止めた。

やがて笑顔はすうっ、と無表情にかわり、また笑顔に変わった。


「あらぁ。何を面白い事おっしゃり「その髪、着け髪だろう。それにお前には全く色がない。」


そう告げれば、笑顔はまた無表情に変わり、さあっ、と切り離された世界のように、僅かな鋭さが辺りに広がった。



「・・・御倉伊勢武。それから荒木田左馬之介にはせいぜい気を付けて。いくら貴方が強くとも、寝首を、かかれないように。」


彼女の言葉に僅かながら目を見開く。

寝首を、かく?

荒木田と御倉がーーーー


真意を問おうと顔を上げれば、きゃ!と声を上げ、ニヤリと悪戯をする子供のような表情をした後困ったような表情になった。


「えろうすんまへん!わてが酒ひっかけてしもたさかいに、旦那はんのお着物が濡れてしもた!えろうすんまへん!今日はこれで帰る?堪忍やで、また来てくれはれれば次に償いさせていただきますよって。」


役者顔負けの芝居をしたあと、ぐいぐいと一の腕を引っ張り、大門まで半ば強制的に連れて行かれた。


「・・・天・・「旦那はん、旦那はんの匂いうち好きや。今度は旦那はんの匂いに包まれたい。」


有無を言わさない表情で、天華が芝居を続ける。顔には帰れ、と書いてある。一瞬、鋭さが増した。彼女の視線を辿れば、そこには荒木田と御倉。彼女はそっと口の前で指を一本立てた後、含みのある笑顔で、笑った。


「また、来ておくれやす。」





それは月が綺麗な晩の事だった。

あちこちへ東奔西走し、たまたま遅くなってしまった帰り道。

提灯は此方の居場所を伝える事になるから極力使わないのが一の方針だった。

例に倣い、提灯は使わずに歩いていた時の事だった。



(・・・・女?)

川面にゆらりと映る白い寝巻きを来た女。

月明かりに照らされる彼女は、件の鋭い雰囲気を持った遊女ーーー天華だった。



なんとなく声をかける気にもならず、息を潜めて彼女を見守る。

すると彼女は川面を暫く見詰めた後、おもむろに川へ足を踏み出した。


(間に合えーーーー)

地面を強く蹴り、彼女の肩を掴む。

驚いた表情をした彼女が、やがて焦ったような表情をした。


「バッ・・・!」

彼女の身体ごと橋から土手へと転がろうとしたものの、土手自体が泥濘んでいたらしい。加えて。


(重ーーー!?)



ばちゃん。予期していた寒さ。しかし、深さは予期しなかった。意外と深い。

ばちゃばちゃと足掻く彼女の身体を掴んで身を寄せ、なんとか川べりの草を掴んで自分と彼女の身を引き上げた。


呆然と川面を見つめる彼女は、びしょ濡れのまま細い声で呟いた。


「・・・私の、金・・・」


・・・・金?



おもむろに彼女はびしょ濡れになった着物を脱ぎ出し、その下の晒しから小判を何枚か出して数え始めた。


「・・・っ!二枚足りないっ!どうしてくれる!?私の金っ!!」


がっ、と胸ぐらを掴まれ、がくがくと身体を揺さぶられる。どうやら今までに貰った給金を懐に大事にしまっておいたらしい。


「どうして後生大事にそんなものを晒しに隠している!?・・なんだ、これは。」


一の着物に絡まって出てきた、

鉄で出来た輪。到底この江戸では見た事のない物。人差し指と親指でつまみ上げれば、彼女にそれを取り上げられた。


「からくりで出来た玩具。あーぁ。着物がびしょ濡れですね。困ったわ。お家に帰れない。」


それ以外は聞くな、とでも言うように彼女はからくりだと言う物を晒しの中に仕舞い、服の水を絞った。


「・・ついてこい。」

暫く逡巡した後、一は歩き出した。

それに倣い、彼女も付いてくる。一の上着も濡れているが、薄着をしている彼女には無いよりマシだろう。上着をかけてやれば、ありがとう、と彼女が呟いた。


この時間に行っても起きていて、出来るだけ秘密を厳守してくれる人物。心当たりが一件だけある一は、彼等が居る方向へと歩き出した。



裏口で殺気を少し出せば、数刻して、二匹の狐の仮面をつけた男達の気配。


「夜遅くに済まない。訳あって彼女に着物を貸して欲しい。図々しい願いであることは重々承知だが、頼む。」


そう行って頭を下げれば、一匹の狐ーーー烈が、仮面を外して閃に殴られたらしい額をさすりながら出てきた。


「なんだ。斎藤さんですか。・・・って、二人ともびしょ濡れじゃないですか。入って下さい。外は寒かったでしょう。」


烈に促されて裏口から彼等の部屋の前へ入れば、閃が手拭いと着替えを持ってきた。


「水をよく切って上がって下さい。烈の着物と、うちの女中の着物しかなくて申し訳ありませんが。」

女中が居たことに少しだけ驚きつつ受け取れば、烈が天華を別の部屋へと案内した。



「珍しいですね。」


ぽつり、と閃が縁側に腰掛けながら呟いた。

女と居ることだろうか?そういう男女の仲を揶揄する人間ではないと思っていたが、どうやら意外にも違うらしい。少しむっとしながら答える。


「そういう仲ではない。彼女が川に飛び込もうとしていたからーーーー「違います。斎藤さんが尾行に気付かなかった事です。彼が相当な手練れ、という事もありましたが。泳がせる方が良いと判断したので彼女が怪我をした、という体で一芝居打って置きました。」



「尾行・・・?」

一体誰が?少なくとも書状を届けた帰り道には居なかった。ならいつ?彼女と出会う前から?



「新撰組で見た顔でした。確か・・荒木田、と言ったか。」


閃の言葉に瞠目する。

『御倉伊勢武。それから荒木田左馬之介にはせいぜい気を付けて。』


彼女の言葉が蘇る。荒木田左馬之介。

やはり、密偵・・・?

いや、それよりも。


(何故彼女は、知っている・・・?)

一介の遊女に過ぎない筈の彼女。

その彼女が、狐火(かれら)ですら知らない情報を知っている。



(何者、だ・・・?)





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