終わりよければ全て良し
「ちちうえ!はやくはやくー!一音ちゃんたちと勉くんたちと先生きてるよ!はやくしないとちちうえがみそじまで「涼っ!なんてことを陸に教えてやがるっ!!!!!!」
明治10年春。藤の花と八重桜が咲く春の光の向こうに、様々な表情で立つ一団が居た。
「お涼さんじゃありませんよ。教えたのは私です。」
にこにこと、相変わらず黒い笑顔で沖田がそう呟いた。やめてくれ。まだ4つのかわいい我が子だ。
「総司・・・ほんとやめて。」
大きい子供がいるようだ。実際沖田は烈の子供である四歳の陸と今年生まれたばかりの双子、礼と累とよく遊び、世話をしてくれている。
現在、烈達外守家には家族5人の他に朝司と沖田が居候し、沖田は涼と共に邸の別棟で道場を開き、朝司は烈の開いた診療所の手伝いをしている。
「待ちくたびれたぞ。用意はいいか?」
時代は散切り頭に洋装。だが矢張りいつまでも変わらず黒い着流しを着る閃が、提灯を持って立っていた。隣には7カ月になる男の子の千歳と、四歳の一音の手を引く鈴の姿があった。
閃達一家の隣には再会を果たした良順と、会津の計らいで見合い結婚した斎藤と、その妻時尾と長男の勉が居た。
「悪い悪い。柄杓何処仕舞ったか忘れてよ。それとほら、これ持ってかなきゃな。」
酒を掲げれば各々笑い、目的地の方向へ向いた。
「じゃあ行きましょうか。墓参りへ。」
春の風が優しく笑う沖田の髪を揺らした。
良順の好意で島田や永倉と共に建てた新撰組慰霊碑は、東京板橋にある。
永倉は北海道へ既に渡った為、現地集合で墓参りを約束した。
「新八さん、元気かなぁ。」
腕に礼を抱えながら沖田がぼんやりと呟いた。隣を歩く斎藤がさあな、と口を開く。
「少なくともあの人は風邪はひかないだろう。」
「確かにな。隊内で風邪が流行った時でもピンピンしてたし。」
事実、永倉は一番医療に手がかからなかった。
ふ、と懐かしい感覚がする。
その感覚に涼が咄嗟に累を抱えながら簪を投げ、沖田と朝司が良順、時尾、鈴、涼を庇うように立つ。ひゅ、と襲撃者から投げられた石を斎藤が弾きながら烈と閃が襲撃者へ小刀と鉄扇を懐から出し、追撃する。
烈は寸前で止まったが閃は容赦なく止めを刺そうと小刀で襲撃者に迫った。
「待て待て待て俺だ!新八だ!!!あっぶねえな!やめろ!!!」
襲撃者ーーー永倉が、慌てて手を振って弁解する。永倉の上から退き、永倉の顔すれすれに刺した小刀を抜きながら閃が立ち上がった。
「分かってます。」
小刀を懐に入れながら、サラッと言った閃に、永倉が立ち上がりながら溜息をついた。
「おめぇは俺になんか恨みあんのかよ。折角生き抜いたのに殺されるかと思ったぜ。」
「はいはい。二人ともそこまでにして下さい。じゃないとちびっ子達が凄い興味を持っていますよ。」
沖田の声に子供達を見れば、陸、一音、果ては勉、千歳や双子まで、見事な戦いを見せた父親達にキラキラした目を向けていた。
「見込みがあるな!剣術の手習いなら私がーーー「あーほらほら、行くぞ墓参り!」
キラキラした目で息子達を見だした妻の言葉を遮り、鉄扇を懐に仕舞い永倉と共に歩き出す。
しばらく歩いた場所に、新撰組の慰霊碑はあった。
慰霊碑に酒をかけ、花を添えて手を合わせる。この下に土方らの遺体はない。だが将軍が君臨していた、かつて守っていた主君がいるこの場所に、慰霊碑は建てた。
土方さん。近藤さん。左之、山崎さん、源さん。よく、勝った方が正義だ、とは言う。だが俺たちはあの時、それぞれの信念を、正義をかけて、闘っていた。どちらも正義をかけて闘っていた。
これから日本は激動の時代を歩んで、やがて平和な世になる。その先は、腐るか、光るか、俺にはまだ分からない。これから松原さんが居た時代になるか、はたまた違う時代になるか、細い分岐の先で決まってゆく。未来は、一つじゃない。
俺には生き辛い世の中だったけど、俺たちが創った歴史は、俺たちが信じたものは、全部、正しかったんだと思う。
「・・・・ちちうえー、ここにだれかいるの?」
手を合わせている烈達に不思議に思ったのか、陸が烈の着物の裾を引っ張った。
「俺の、・・俺たちの、大切な仲間だよ。ほら、お前も手を合わせなさい。」
小さな体を膝に乗せてやると、小さな手を合わせ、一生懸命拝み始めた。
その姿に思わず微笑むと、烈もまた手を合わせた。
心配しないで下さい。あなた達の家族は、あなた達が遺した遺物は、俺が守って行く。
渡る世間は、壁ばかり。
良いことは続かない。
壁の次にも、穴に落ちた時も、容赦なく壁は迫るけれど、それでも、俺たちは歯をくいしばって、地面を蹴って生きてゆく。
この時代で、生きてゆく。
* * * *
2015年10月ーーーーー
「灯、お疲れ様、よく頑張ったね!!双子の男の子だよ!!!ーーーーー?あ、ーー?」
「あはは、なんで泣いてんの、佑。」
妻が二人の我が子を抱いた時、何故だかじわり、じわりと涙が溢れてきた。妻も不思議そうに泣きながら赤ん坊を抱いていた。
愛おしい。ずっと会いたかった。
それだけじゃ足りないような、懐かしいような、泣きたいような、忘れていた大切な物に、また出会えたようなーーーーー
夫婦で馬鹿みたいに号泣しながら、子供を抱きしめた。
「・・・烈。」
ぽつり、と呟いた言葉ににこりと妻が笑った。
自然に出てきた言葉。見慣れた、なんて、そんなハズはない。だけど首の後ろの黒子に、そう呟かずにはいられなかった。
「と、閃。でしょ?」
初めて出した名前なのに、お互い分かっていたかのように、妻が次に呟こうとした名前を先に呟いた。
「なんでだろう。ね。でも、この子達の名前は烈と閃だ。」
「うん。・・・・佑、私達、家族だよ。」
夫が泣きながら微笑んだ。
私も幸せに満ちた笑顔で微笑む。
私は、生きていく。
ここから、生きていく。
烈が、選んだ道を。
たった一人、パズルのピースのように彼だけが居ない未来を。
私は、私が死んでも、佑が死んでも、烈が生きる道を選んだ筈なのに、なぁ。
やがて彼は私の記憶からも、消えてしまうだろう。
私はいつか彼を思い出せなくなる日が来るだろう。
それでも彼は生きている。江戸で、生きている。
だから、私も誰一人彼の事を知る人の居ない世界で生きる。
佑と、烈と閃と共に。
END
芝居は跳ねた
これにて渡る世間は壁ばかり、幕引きでございます。以降、番外編として斎藤や沖田の恋模様、本編その後などを更新できたらと思います。永らくのご愛顧、ありがとうございました!




