みんなそれぞれ戦ってる
「じゃあな。閃、お鈴殿と共に待ってる。必ず烈と、二人で帰ってこい。」
翌朝。荷物を纏め、すっかり女の格好をした涼が、閃を振り返ってそう言った。
閃は心中複雑そうな表情をし、ああ。と呟いた。
「・・・なるべく裏道を通れ。いいか、江戸に帰るまで絶対に死ぬなよ。」
「ああ。分かってる。」
笠を被り、涼が微笑んだ。
短くなった髪には付け毛をし、頭には櫛。
烈はにっこりと笑った。
最後の記憶は、笑顔であるように。
「必ず戻る。暫しの別れだ。・・またな。」
繋いだ手が名残惜し気にすっと離れる。
くるりと後ろを向いた涼が、背中で返事をした。
「ああ。またな。」
彼女の背中は、矢張り凛々しかった。
「・・・無理しないで下さい、嶋崎さん。
明治二年五月。
弁天台場に居る新撰組への補給路が断たれ、救い出す為、土方・沖田と新撰組隊士、狐火で救出作戦に出る。
沖田の投薬治療はまだ始まったばかりで、この地の気候は沖田には厳しい。だが始めたばかりの投薬治療が思ったより功を奏し、なんとか歩ける程度には回復した。
更に先の件もあった為、沖田総司は労咳で死んだ事にし、近藤の旧姓である嶋崎と偽名を名乗った。
「大丈夫ですよ。今日は、戦場に居なければならないと、私の勘が告げているんです。」
悪い勘にならなければいい、と考えた。
今回ばかりは烈も嫌な予感がする。
杞憂で終わればいいが。
馬術には慣れて居らず、いざとなれば馬など要らない烈が病人の沖田と一緒の馬に乗った。凄くカッコ悪い。
「無駄口を叩いてんな。・・・どうやらこの先、そんな余裕はなさそうだぞ。閃、島田。気付かれないように行け。」
狐面を被った閃と監察方ので島田がこくりと頷き、草原をがさかざと掻き分け、先に奇襲を仕掛けた。
動揺が広がった所で土方が先陣を切り、轟音轟く戦場へと突入して行った。
「行くぞぉおぉぉお!!!」
雄叫びが天に轟き、土方に続いて馬を走らせながら刀を抜いた。
馬上での戦いは、上手くタイミングを合わせないと標準が狂う。長巻の利点である長さを上手く使いながら、次々と向かってくる敵を薙ぐ。
土方は視界の隅に囲まれている島田を見つけ
、馬をそちらへ走らせる。被弾して舞った砂埃が、一瞬視界を遮った。
ドン、という衝撃。
一瞬真っ白になった頭は、どこか他人事のように景色を映した。
砂埃が晴れ、気付いた時には、大量の血が跳ねていた。
撃たれた、と気付いた時には身体が馬から離れ始めていた。
『どうして竹なんて植えているんだい、トシ。』
『武士になったらこの竹で矢を作るんだ!』
『・・・それなら、もっと強くならなきゃねえ。誰にも負けない男になりなさい。トシ。』
夢のまた夢を、笑わないでいてくれた盲目の長兄との記憶。
あの頃は、武士は、夢で、希望で、憧れでーーーー
『行くのかい?なら、これだけは忘れちゃ行けないよ。自分の志を持って生きなさい。』
『歳三、もう人生で寄り道しちゃダメよ。』
世話になった姉夫婦の言葉。
京への出立の日だ。確か。
『トシ、お前は後からゆっくり来い。またな。』
近藤さん。約束は守れそうにねえや。
身体が傾くのが分かる。最早此処までか。
視界に、何かを叫ぶ烈と、此方へ向かう総司が見える。弁天台場へは、彼奴らだけでいけるだろう。
どうやら、俺の方が先みてえだな。
「来るな!!!生きろ!!!!」
最後の力を振り絞ってそう力強く叫べば、総司が暴れる烈を抑えて隣を通り過ぎた。
総司の姿に口角が上がる。
あのクソガキ、
最後までこっちなんか見やしねえで、真っ直ぐ前を向いて迷わず捨てやがった。
(だが、それでいい。)
死出山で、待っててやる。
土方が被弾したのが見え、咄嗟に馬から降りようと足をかけた。だが後ろから伸びる腕が、それを阻んだ。
「来るな!生きろ!!」
土方の、武士の、力強い叫び。
だがそれでも助けようと、力の限り暴れるが、沖田が絶対にそれをさせず、土方の横を通り過ぎた。
「やめろ!俺は、俺は・・・!」
また、目の前の命を捨てるのか。
「さようなら、土方さん。」
ぽつり、と別れを告げる声が上から降って来た。伸ばした手は空を切り、最後に見た姿は土方が地面に倒れた姿だった。
それから一週間後。
明治二年五月十八日、五稜郭が軍門に下り、戊辰戦争、終結。




