心が痛い時は大体天気は晴れてる
「・・・・っはあ、」
流れる血を止める事は諦め、閃の肩を支えながら倒れた丁火の元へと歩く。
どんどん失われる血も、脳に送られる痛みも、もうどうでもよかった。
結果は、相打ちか。だが少しだけ此方の方が相手にダメージを与える事が出来たらしい。
なんとか此方は立てるが、丁火は倒れたまま。
「・・・・兄さん。」
初めて、その俗称で閃が呼ぶ。
うっすらと目を開けた丁火がはは、と乾いた笑みを漏らす。
「・・・そう、呼ばれるとは、思わなかったな。」
自嘲気味にそう漏らした丁火が、閃へと手を伸ばす。
「・・・俺は・・・僕、は。お前と、闘いたかっただけ。才能があるお前と・・・・心のどこかで、どんどん狂っていく自分を、止めてほしかったのかも・・・だけど、何度助けてって言っても助けてくれなかった・・・・自分の犯した罪から、逃げたかった・・・・・・。」
閃の頬へと手を伸ばした丁火の目はぼんやりとしている。めらめらと燃える火に照らされながら、眼は弓なりに細められた。
「・・・すまない。」
そう呟いた閃に、丁火は笑った。
「いいよ。今回は・・・助けてくれた・・・・。・・・僕は・・・少し、休むよ。・・天火。」
あいしてる。
音にならなかった声は、天へと消えた。
「・・・・っつ!!無事か!?烈!!閃!!」
沖田の肩を担いだ鈴谷が、此方へ走ってきた。沖田の口の周りには血。どうやら喀血したらしい。
「・・・ああ・・・とりあえず・・・離れて、休憩したら・・・五稜郭へ向かおう・・・・・。」
心配させないように、閃の肩を担いで歩く。
「!?閃が怪我をしたのか・・・敵はどうなった?」
閃の様子を見た鈴谷が、戦況を聞くときのように顔をのぞきこんでくる。
ああ、なんか親の顔色を伺う子供のようだと、最初は笑ったっけ。
出会った頃には少し小さいくらいだった背も、どんどん差が開いた。
「・・・大丈夫、だ。」
木も根元に閃をおろし、自分自身も殆ど倒れ込むように腰を下ろす。
それを見た鈴谷も沖田を木の根元に下ろした。よく小さい彼女の身体でここまで運べた物だ。
「・沖田、さんは・・・怪我は?」
「負っていない。ほとんど掠り傷だ。・・・・烈?お前・・・。」
どんどん意識が重くなっていく。
駄目だ。ここで意識を失ってはいけない。
だが意志とは逆に瞼は重い。
「・・・・鈴谷。こいつの血・・・・脇腹から、ここにとれ。」
まだ余力があったらしい閃の声が響く。体が重い。
授業中、眠くて眠くて仕方がなかった時のよう。
「・・・・やめろ。閃。」
身体が支えきれなくなり、意識が朦朧とする中、必死にそう呟く。
「っつ!!烈!!!しっかりしろ!!おい!!」
異変に気付いたらしい鈴谷が、烈の身体を揺さぶる。
ああ、御免な。涼は、二回も想い人が死んでしまうらしい。
ごめん。ごめん。
俺が、普通に生きてたらこんな思いさせずに済んだかもしれない。
「・・・助けたいんだろう?・・・方法が、一つだけある。だがその方法は、お前と烈を未来永劫裂いてしまう事になる。・・・・それでも、助けたいと思うか?」
鈴谷に選択を迫る閃に、悪い予感しかしなかった。
やめろ。何をする気だ。叫びたくとも、声が出ない。
一瞬此方を見た鈴谷は、泣きそうな顔をしてから、烈の髪紐を解いた。水晶が光る。
そして、閃の持っていた竹筒に血を入れて髪紐と共に渡した。
やめろよ。閃、やめろ。
ついに身体が本格的に重くなりだした。
鈴谷ーーーー涼は、精一杯の笑顔を浮かべた。
「・・・ずっと愛してる。さようなら。」
視界の端で、閃が竹筒の血を舐めるのが見えた。
強い光に包まれる。
仕方ない、とでも言うような、諦めたように笑う閃の笑顔。
「・・・達者でな。」
ゆっくりと、言葉を紡いだ閃の表情は、複雑な色をしていた。
それが、最後の記憶だった。




