男に二言はない
「なぁ、一つ聞いていいか?」
森の柔らかい光が烈の頬を照らす。人の気配はしない。まるで大自然の中に鈴谷と二人、置き去りにされたよう。
閃と沖田は水を汲みに行った。
包帯を巻き直し終わったらしい鈴谷が、ん?と振り向いた。
「・・・なんで、髪切った?」
短い髪が風に靡く。平成の世ならば女の子にモテそうだ。
「楽だからだ。それに、・・・男に、見えるだろう。」
消え入りそうな声で鈴谷が呟いた。
気にして、いたのか。胸が張り裂けそうな程に痛む。なんで、あんな言葉。
表情は見えない。だが恐らくは泣きそうな顔をしているんだろう。
「ごめん。・・・ごめん。俺、さ。怖かったんだ。閃が怪我して・・・お前まで、怪我をするのが怖かった。お前が消えるのが怖かった。それに、お前をこれ以上危険な目に合わせるのが嫌だったんだ。だから酷い言葉を言って傷付けた。本当にごめん。」
彼女は、どう思ったんだろう。どうして戦場へ戻って来た?美しかった髪をばっさり切って。会いたくない筈の烈の側に来て。
「・・・お前に言われたからじゃ、ない。この姿ならーーーーーお前の、側に居れると思ったから。お前に会えなくなるのが、嫌だったから。」
「ーーーっ!」
殆ど衝動的に、目の前の体を抱きしめた。
どうして、そんなに。疑問ばかりが巡る。
短くなった髪が頬を撫でる。
首筋に顔を埋めて、意を決して口を開いた。
「・・・頼む。新撰組は函館で終戦となる!官軍に最後、囚われて斗南で過酷な生活を送る事になる!そうしたらお前は俺たちが捕まる前に逃げろ!
女のお前は目も当てられない扱いを受けるかもしれない。俺はその時にお前を助けられない。それに、もしお前がそんな目にあったら俺は今度こそ死にたくなる。
逃げて、江戸でーーーー朝司と、待っててくれ。必ず閃と二人で、戻るから。」
烈の言葉に涼が息を飲む気配がする。
怖い。怖い。俺はどうやって愛したら、どうやってこいつを守ればいい?
「・・・何で・・お前・・・・・。」
涼が口を開いた時、殺気がして、咄嗟に刀を薙ぐ。
銃弾がキン、と甲高い音を立てて弾かれた。
「ダメじゃないか。ひっそりと暮らす約束だろう?」
後ろで涼ーーー鈴谷も、刀を構えた。
ぼうっ!と勢い良く火が回る。まるで山火事だ。
「天火には、可愛い僕の仲間達を送っておいたよ。さぁ、舞台は揃った。死合いを、始めましょうか。」
ざっ、と狐面が烈達をとり囲む。数にして四人。一人二人か。ざっと計算して、涼と二人、背中合わせになる。沖田が心配だ。
「話は後だ。鈴谷。背中合わせのまま移動するぞ!離れるな!」
烈の言葉に木の上から見下ろしている丁火が口角をあげた。目を疑う程の速さで此方へ向かって来る。
(ホラーすぎんだろっ!!って、考えてる暇ねえか・・・。)
ギンッ、と鉛のように重い一撃を受け止める。容赦なく攻撃が繰り出される。此方が劣勢だ。受け止めるので精一杯で、とても攻撃など出来はしない。
これが目的か、と歯軋りをする。
通常、剣の立ち合いは一人の敵に対しては例え此方が多くとも基本一人でかかる。互いの刀で怪我や誤って命を落としたりしない、また味方を気遣う事なく思い切り襲いかかる事が出来るからだ。
だが烈と閃は、師匠と弟子だからか、はたまた四六時中一緒であるからか、息が合うので互いをあまり気にする事なく二人で一人を攻撃出来る。
だから、閃と烈が一緒にいないタイミングを狙ったのだ。よく此方の戦型を観察している。
「鈴谷!!」
背後の雰囲気が変わり、慌てて振り向くと、鈴谷が左手に怪我を負っていた。
「大丈夫だ!前を向け!!自分の事に集中しろ!!」
多数に囲まれている鈴谷は多勢に無勢。まずい。このままじゃ全滅だ。
(落ち着け、相手の切っ先を良く見ろ、俺の武器は目だ。狙うは胴。時機をよく見計らえばーーーーー)
焼けるような痛みが走る。
腕が痛い。じわり、と血が着物に滲んでゆく。見えたって、技術が追いつかなければ捌けない。強いーーーー
「おーわり。」
軽やかにそう笑い、丁火が刀を振り上げる。
終わってたまるか。目を見開いて歯を食いしばる。丁火が振りぬくのが先か、烈が振りぬくのが先か。全身全霊をこめて横に、一閃。
だが大きく丁火が後ろへ飛び退いた。
チ、と気に入らなそうに舌打ちをする。丁火の黒い外套が風に揺れた。
「・・・結構な手練れを用意したのにな。強くなったね、天火。最初に君の大切な者を消してからにしようと思ったんだけど、なあ。しょうがないか。予定変更。二人纏めて相手してあげるよ。だから、安心して二人で死んで?」
そこには閃が、立って居た。
彼の醸し出す雰囲気は鋭い。そして、今までにない程正気で、眼の前の丁火に集中していた。
冷静に、怒っている。そんな言葉が似合う雰囲気だった。
「遅くなりました。こっちも大丈夫ですよ。雑魚は私達が相手しますから、安心して戦って下さい。」
いつの間にか沖田が鈴谷の隣に立っていた。
「・・・お前に、俺の大切な物は二度と殺させない。俺は、大切な物は全て自分で守る。お前は、お前だけは許さない。何も分かっていない、お前だけは。」
冷たい声でそう呟いた閃に、はは、と丁火は相変わらずの表情の読めない顔で笑う。
何が面白いのか、狂ったように大声で笑い続けた。ぞわり、と背筋が寒くなる程に。思わず刀を構え直す。
「ふ、ふうっ、ごめんっ、笑わせて貰ったよ。表情が読めない我が弟ながら、そんな事を言うなんてね。うん。最高。あはは。何も、分かってない?
・・・・・・分かってないのは、お前だよ。お前は何も分かっちゃいない。否、知ろうともしなかったよね。だから、僕も、お前の事が嫌い。勘違いしてない?あの日、俺達一族に起こった本当の出来事。」




