指揮を取れる男になれ
「怯むな!続け!」
ドォオオン、と地響きが鳴る。
上手くよけて、真っ先に斬り込む。
平助はこんな気持ちだったんだろうか。先頭は怖い。けれど後ろには守らなければならない部下がいる。戦場では迷いは死。
「烈!深追いするな!」
後から閃が烈の背中に追い付く。
「っ!ぶね!」
閃の横に粒が見え、慌てて刀を薙ぐ。キン、と甲高い音がして落ちた。
「今は自分の身を守る事に集中しろ。お前も俺も今は大差ない。」
烈の言葉にふん、と鼻を鳴らす。
「言うようになったな三下。」
烈の背後でぶす、と音がする。刀を振り上げた官軍が倒れた。そう言えば閃と出会った場所は竹薮の暗闇の中、訳もわからない人間達に襲われた場所だった。
「お前は右へ行け!俺は左から攻める!怪我はするな!いいな!」
「言われずとも。行け!」
閃がそう叫び、別れて鮮やかな立ち回りで次々倒していく。近距離戦なら分はこちらにある。
銃だって銃口は一つ。そのルートさえ通らなければ後は此方のものだ。近くの石を投げて銃口の向きを変え、懐に入り込み、心臓を突く。手応えに、上手くいった、と確信した。
後ろに達人が控えていた事も知らずに。
殺気がして、咄嗟に後ろを振り向く。
そこには随分懐かしい顔が、御免、と刀を振り上げていた。咄嗟に長巻を薙ぐ。
(なんでーーーーーつか、間に合わなーーーーーーーーーやべえーー死ーーー)
ドン、と押され、間に黒い影が入って来た。閃かと、顔を上げる。時がスローモーションになった気がした。
黒影はキン、と刀を弾き返し、更に達人に一撃喰らわせる。赤が散った。
「・・・・・・なんで・・・・・・・・・・
鈴谷!!!!!」
黒影は、鈴谷ーーー別れて穏やかに暮らしている筈の、お涼だった。
長かった髪は、バッサリと短くなっている。洋装に身を包んだお涼は、凛々しい青年に見えた。
「・・・これが俺の答えだ。諦めろ。俺はお前がどんなに振り払おうとどこにだってついて行く。お前が嘘をつかなくて良いように隣に居る。」
にこ、と男言葉で笑う顔はどこからどう見ても爽やかな青年で、全てを覚悟した目だった。
「・・・・・ちっ、話は後だ!」
今しがた倒れた敵方の達人ーーーーー
吉原の鈴定桜楼元番頭、志摩 九蔵。
烈達が恋人・七緒との足抜けの手引きをした人物だ。
すぐに手当をする。傷は深い。流石だ。
ひゅー、ひゅー、と虫の息で呼吸をする九蔵に、なんで、と怒りをぶつける。
「なんでアンタがここにいる!なんでアンタが薩長に!縁は!?七緒はどうした!」
青い顔でもういい、と笑った。
「もういいです・・すみません。私は・・・・七緒を、守れなかった。七緒は・・・幕府の・・・上様が、大阪から江戸へ逃亡する際、逆上した兵士に殺されそうになった上様を・・・たまたま、かばった。・・・・そんな七緒の命を、上様は嘲笑って江戸へ逃げおおせた・・・・どうしても、許せなかったんです。恩人であるあなたに剣を向けても・・・ゆるせない。私は、全部、許せなかったんです。でももう、いい。漸く私は彼女の元へ行ける。・・・手当なんて、しないでください。これが私の天命だ。・・これで、いいんです。」
やめろ、そんな、こと。
「・・・・言うなよ・・・・そんなこと・・・・生きろ・・・生きろよ!!なあ!!」
どれだけ必死に血を止めても止まらない。もうとっくに出血して生きられるだけの量は越えていることは分かってる。なんで。あんなに幸せそうだったじゃないか。
「・・・いい、人生でした。一時でも、七緒の・・・・そばに居れた。・・・・これからも・・・漸く逝ける・・・・・」
どんどん顔が白くなっていく。待てよ。まだまだ沢山あんたには未来があるじゃないか。
待てよ。なあ。必死に心臓マッサージを行う。何か、強い力に引っ張られて、九蔵から遠ざかった。
さようなら、と口だけが動いたのが分かった。
幸せそうな縁と九蔵、二人の映像がふと過ったーーーーー
「・・・っつ、あ。」
駄目だ。駄目だ。すべてを投げ出しては。俺がここで投げ出したら、部下の命はどうなる?叫びたい衝動を必死にこらえる。キン、とすぐ近くで金属音が鳴る。隊士が戦ってる。
鈴谷もだ。必死に銃口を遠ざけながら。
世界がスローモーションのように変わる。戦いってなんだ?死とはなんだ?生きるってなんだ?何の為に、俺は戦ってる?俺の信念ってなんだ?疑問が渦巻く。座り込んだまま、必死に叫びを堪える。松原が消えた。近藤も、山﨑も斎泉も、嘉六も。次は誰だ?俺は、この手で何人をーーーーー
『大丈夫、だ。』
烈の世界に一人の声が響く。
誰?なんだか聞いたことのある声。あたたかい。
『烈。お前にはまだ沢山残ってる。』
何が?・・・っていうか、何だっけ・・・・?昨日は、ゲームしてて・・・あ、セーブしたっけな・・・
『烈、ほら。烈を必要としている人が沢山居るわ。』
昨日のコンビニ飯まずかったな・・・あれは買わないでおこう。
『烈、お前は一人じゃないだろう?』
今日の夕飯はどうしようか・・つーか今何時だ?
『烈、ほら、烈と一緒に歩んでくれる人たちが、烈の事を待ってる。』
・・・・・
『隣を見ろ、一緒に彼らと歩いてるじゃないか。』
目を開けた瞬間、体が勝手に動いた。
間合いを一気に詰め、刀を弾く。動けないように、心臓を衝く。
もう片方には、刀を投げた。
「・・・・!!烈!」
目を開けた先には、閃と鈴谷の後姿があった。
どうやら合流したらしい。二人が驚きの視線を此方に向けていた。
二人の間に立つ。
本当だ、俺は閃と涼と、歩いてる。
ありがとう、佑。灯。
「わりい。一瞬意識飛んでたわ!さあ、行くぞ!!」
烈の言葉に呆れたように閃が溜息を吐く。
「お前は・・・さっさと動け!心配損だ!」
鈴谷はよかった、と笑った。
「心配したぞ。ほら。」
差し出された長巻を受け取り、血を払う。
大丈夫、隣に、こいつらが居る。
途端、見計らったように火が辺りを一気に包んだ。
隊士達と別れ、三人、火に囲まれ取り残される。
「なんだ・・・!?」
鈴谷が警戒を高める。メラメラと燃える炎は、火事にしては綺麗に三人を取り囲みすぎている。
炎が此方に向かってくるのが見える。マズイ。
「おいっつ!!逃げるそ!!」
だが炎は青白い炎に行く手を遮断され、事無きを得る。閃を見ると、閃がじっと炎の中心を見ていた。
まさか。
「久しぶりだね。天火。ちょっとは成長したのかい?」
ずっと前に聞いた声。閃にとっては、ずっと待ち続けていた声。
気が付くと閃の形相は耳が生えて、獣のような鋭利な牙が口から覗いていた。
だがすぐに襲い掛からない所を見ると、成長したらしい。
一応この力をコントロールさせる為の訓練はした。少しだけだが。
「・・・今日、この日を待っていた。俺はあんたの息の根を止める。」
「無理・・・だったろう?この20年間、何回俺を襲った?舞台は整えられた。幕開けだ。お前が悪いんだよ?天火。約束通り烈君の命を貰うよ。」
にこにこ、とぞっとする笑みで丁火が笑う。
思わず息を飲む。閃はただ、じっと丁火を見つめていた。
「まあ、ただ俺たちの力を多くの人に晒すわけには行かない。だから、舞台を用意したよ。俺たちでも戦い易い場所だ。仙台の、奥羽へおいで。そこで決着をつけよう。」
「寝言は寝て言え。ここで決着をつける。」
見えない速度で襲いかかる。
ひゅ、と風が頬を掠める。炎がぼうっ、と音を立てて揺らいだ。
「こっちの台詞だよ。」
仮面を被った丁火が近くの木の上に一瞬で飛び移っていた。めらめらと燃え上がる炎が仮面を赤く照らす。
「じゃあ、ね。仙台で待っててあげるよ。」
そう呟いて、狐は消えた。




