昨日の友は明日の師
土方が負傷し、沖田が戻って来たものの指揮を取れる状態ではないので指揮は斎藤がとり、新撰組は会津若松侯へ謁見後、白河攻略へと向かった。
「報告します!沖田隊は左側、五百夜隊、右側後方攻略!八ヶ代隊は奇襲成功し、進撃しています!」
「了解。八ヶ代隊は五百夜隊を援護。他は俺に続け!!!」
斎藤の号令におお!!と沖田が戻ってきた事もあり、士気を上げた新撰組が次々と突撃する。
土方不在の中、斎藤の指揮と閃の少数精鋭の奇襲のお蔭で白河城は攻略。
だが2か月後、母成峠の戦いでは戦況は劣勢となってきた。
「会津に残る!?」
仙台へ向かおうとする新撰組に、斎藤が会津に残り、会津藩と共に戦う、と宣言した。
礼儀を重んずる彼らしい。
土方が形の良い眉を曲げてそうか、と呟いた。
「わかった。元々新撰組は会津藩お抱えだしな。会津に最期まで尽くすのが礼儀、だな。」
困ったように笑ってそうか、と呟き、後ろに控えていた烈と閃の方を向く。
「お前達はどうする?付いてくるか、会津に残るか?」
問われて今までずっと考えていた事を口に出す。
そろそろ、新撰組は終わりだ。時代も変わる。
その時、どうするか。俺は新撰組で、何をするか。
答えは出た。俺は、本当は居ない筈の人間だから。
「俺は、・・・・こんな事を言うのも、ですが。会津と仙台、両方行きます。俺は新撰組医療方として・・・・・狐火として、新撰組の最期を見届ける。会津で戦ってから、仙台へ行きます。俺は、武士の最期を見届けたい。」
烈の言葉に、土方は苦笑する。
「随分腕に自信があるみたいだな。・・まあ、それで良い。お前は、正式な武士の家柄でもない、武士の真似事で成り上がった俺達を、武士だといえると思ったのか。」
詰問でもなければ質問でもない。
願うような言葉。
土方の言葉に、首を傾げる。
じわじわと鳴く蝉がうるさい。
「俺は、潔い死を美徳とする武士をあまり良いとは思えない。だけど新撰組は、武士として生きてる。」
烈の言葉に少しだけ表情を柔らかくした土方が、そうか、と呟いた。
「私は烈達と共に行きます。」
木陰から出てきた沖田の顔は、白い。夏だと言うのに顔色は真っ青で、烈の気持ちを少し暗くした。
土方はその言葉に溜息をついて頷く。
「分かった。斎藤一を会津新撰組局長に任命する。閃、烈、斎藤を時が暮れまで支えてやってくれ。総司は無理するな。・・・俺達はこのまま負けるかもしれねえ。現に追い詰められてる。もしかしたらお前たちとはもうここで一生会えねえかもしれねえ。だから、ほら。最後だ。」
そう言って取り出したのは猪口と一升瓶だった。意図する事が分かり、猪口をそれぞれ受け取る。
酒を注ぎ終わった土方が、すっ、と杯を掲げた。
「忘れるな。俺達は負ける為に戦をしてるんじゃねえ。己の信念を突き通す為だ。各々、自分の信念を突き通せ。そして思うように生きろ。」
土方の言葉に各々頷き、猪口を一気に飲み干す。喉をアルコールが通り、飲み終えた頃には意識がより鮮明になる。各々振り上げた手から杯が滑り落ち、がちゃん、と約束の儀式は砕けた。
「土方さん。今までお世話になりました。」
深々と沖田が頭を下げる。弟を見るような、そんな目で沖田を見ていた土方は、沖田の頭をがしっつ、とつかんで、乱暴に撫でた。
「・・・っつたく、お前は可愛げのねえヤツだったよ。にこにことしてる割りには腹ん中は真っ黒だわ、
機嫌が悪い時は容赦なく隊士を叩きのめすわ、笑顔で悪さしてくるわ・・・・。」
「何を言ってるんです?悪さじゃありません。愛情ですよ。」
大分歪んだ愛情だな。にこにこと言ってのける沖田に背筋が寒くなる。こいつを背後に居させてはいけない気がする。
「お前か俺か。お前が先に死んだら三途の川で待ってろ。俺が先に死んだら死出山で待っててやる。」
土方の言葉に沖田はふふ、と笑う。
「義経公ですか。大丈夫ですよ土方さん、憎まれっ子世に憚るらしいですから。それに烈達が会いに行くと言ってるでしょう。」
「けっ。お前が憚れ。」
悪態をついて沖田から視線を外す。
閃と烈に視線を移すと、微笑んですまねえな、と呟いた。やはり、土方はモテるだけある。男の烈から見てもかっこいい。
「お前達には沢山迷惑をかけた。色々背負わせちまったな。お前達が居て良かったよ。ありがとう。総司を頼む。」
穏やかな表情でそう言う土方に、烈が巾着袋を1つ差し出した。近藤の巾着より少し大きい。
「所経費にお使い下さい。今までに貯めた金です。土方さん、お元気で。」
閃の言葉に驚いた土方は、ありがとうな、と言って片手で巾着袋を受け取った。
「斎藤、新撰組を頼む。お前と、新撰組で居れて良かった。」
土方が微笑む。
斎藤は暑い中汗一つかかずに頷いた。
鬼の土方は、優しい。母のような人だ。
二人は恐らく最高の上司と部下であっただろう。時代が時代ならば。
「土方さん。俺は俺なりに生きてみせます。土方さんも、ご健闘を。」
「ああ。・・・・じゃあな。左様なら。」
左様ならば、別れも致し方なし。
確か、そんな由来だ。近藤もそう言って列達と別れた。別れを惜しむ言葉だ。美しい日本語の1つだと思っている。日本の文化は、美しい。
「ああ。左様なら。まあ、またすぐ追い付きます。」
こうして新撰組は二つに別れ、後に会津と五稜郭、二つの場所で終結する。約束は滑り落ち、志は心へと刻まれた。




