卒業式は離任式が一番泣ける
夢を見た。
嘉六と出会った頃の夢。
マムシ酒で暴漢を撃退したこと。死刑囚の解剖。大晦日の蕎麦屋。小判にデレデレだった事。
斎泉に出会って、確実に強くなったこと。
全てが別れを告げるように駆け抜けていく。
待って、伸ばした手をすり抜けて、思い出は光と共に消えた。
最後に、2人の幻影を残して。
「閃・・・。」
翌日、閃は一人で帰ってきた。その手に焼けた瓢箪と嘉六の羽織を持って。
「・・・埋葬、してきた。」
閃の顔や服には土がついていた。焼けた匂いがする。
その手で、どんな気持ちで彼は埋葬してきたのだろう?
疑問は言葉にせず、黙って頷く。
「行かなきゃ、な。土方さん達が待ってる。」
烈の言葉に閃がこくり、と頷いた。風がごおっ、と耳を掠めた。
「・・・行くの?」
話を聞いていたのか、朝司が物陰から出てきた。巻かれた包帯が痛々しい。大人になった瞳が、子供の時と変わらず真っ直ぐ2人の目を覗く。
「大きくなったな。朝司。出会った頃はこんなに小さかったのに、今はもう出会った頃の閃と2歳しか違わないもんな。」
平成の世だったら、小学生くらいだった彼は今や高校生だ。時は人を成長させる。道理で年を取るわけだ。
「こっちに来い。」
閃の言葉に、素直に此方へ寄ってくる。
「俺達には、まだやる事があるから、行かなくちゃいけない。朝司。その間、お鈴殿や沖田組長、近所の皆を守ってくれるか?」
閃の言葉に、朝司が真っ直ぐな目で此方を見て、口を開いた。
「・・・本当に、戻ってくるの?」
泣きそうな表情で此方を見る朝司に、閃がああ、と頷いた。まるで兄弟だ。
「当たり前だ。俺達は強い。だから、死なない。」
若い頃よりも随分砕けた閃の言葉に、若干瞳を曇らせた朝司が、そっか、と頷いた。
朝司は幼少期に親と死別し、斎泉の寺に入ったと聞く。
万が一烈達が死ねば、彼は本当に天涯孤独の身となる。
なあん、とすりよって来た小判を撫でながら、懐から白い箱を取り出す。
スリープ状態にしてあるから、起動はしないだろう。なんだかんだ6.7年近くも充電の残量は変わらないままだ。巾着袋に入ったそれを、朝司に渡す。
「俺の大切な物を、お前に預けておく。大切に預かっていてくれ。また、必ず受け取りに来るから。」
その言葉に朝司は若干表情が和らいだ。朝司なら間違ってもこれを他人に渡したりはしないだろう。
「・・・これ。」
ふてくされながらも、朝司が手のひらを差し出した。二つの巾着袋が乗っている。
「・・・お守り?」
白と黒の巾着袋に入ったお守りをくれた。朝司は手先が器用だったな、と思い出す。
朝司が口を開いた。
「行くなら、持ってって。作った。」
朝司の言葉に、ありがとう、と烈は白、閃は黒のお守りを貰っていった。
口数は少ないのは相変わらずだが、この子も成長をしたらしい。
「此処は大丈夫ですよ。僕と彼が守ります。時が来たら、必ず迎えに来てくださいね?」
暗闇から沖田が出てくる。沖田はいざという時に戦って貰う。それが土方の見解だった。
幸い病状も完治とまではいかないが、落ち着いて来た。
もう京には戻れないだろう。だから江戸に連れてきた。
「ええ。必ず。朝司とお鈴ちゃん・・みんなの事、頼みます。」
烈の言葉に笑顔で沖田は頷いた。
「・・沖田さんの言う事、しっかり聞くんだぞ。俺達はまた必ず戻ってくるから。しばらくは江戸に居るから、文をくれれば駆けつける。・・・文、送るよ。」
安心した顔でこくり、と頷いたのを見て、いい子だ、と頭を撫でる。もうそんな年ではない。やめろ、と口では言うが抵抗はしない。
朝司はそっぽを向いて照れていた。
「閃様!!」
一人の少女の声に、閃が振り向く。そこにはお鈴が立っていた。
「必ず、必ず戻ってきて下さい。お鈴はお待ちしております。いつまでも、貴方様の事をお待ちしております。」
涙ながらにそう語る少女の表情は、恋だ。閃は何も言わなかった。何も言わずに黙って微笑んで、お鈴の髪を撫でた。
びっくりした表情を見せたお鈴は泣きながら、行ってらっしゃいませ、と笑った。
(・・・な、なんだこのときめきももりある。・・・つーか。ま、そうだよな。普通、戦場に行く、ってのに、簡単に約束は出来ない、か。)
そこまで考えて、隣の男装している少女に、目が行く。
時が来たら、彼女も逃がしてやらなければ。
新撰組の顛末を知っているからこそ、彼女には一緒に居させる事は出来ない。
「・・・じゃ、行ってくる。身体に気を付けろよ、皆を頼む。」
小さい番人にそう頼み込み、沖田に会釈をして、お鈴に手を振り烈、閃、鈴谷の一行は土方らが待つ江戸城周辺へと向かった。




