逃げるのが賢い選択の時もある
どん、と地響きのような砲撃が鳴る。
ついに始まった。本格的な戦はこれが人生初めてだ。
前日に烈と二人、話し合いをした。
斎泉に教わった活人剣は、銃の前では役に立たないだろう。下手をしたらこっちが死ぬ。
新撰組自体も、捕縛が中心の部隊だが、今回ばかりはそうも言ってられないだろう。
だから、綺麗事を言ってないで、最小限には抑えるが、必要なら斬る。それが二人の答えだ。
医者が人を斬るなんて、と自嘲したが、閃は考えるな、と笑った。
その閃は先陣に居る。烈達10番隊は伏見奉公所の警護だ。
人が足りないからお前は今回隊士として参加しろ、との土方からのお達しだった。
「・・・!危ない!伏せろっつ!!」
左之の頭上から黒い筒が見えた。鉄扇を放つ。なんとか間に合ったらしい。
キンッッ!!と音がして、鉄扇が弾かれた。
それを合図にチュン、チュン、と金属音が鳴る。
「こなくそっつ!!銃かよ!!」
左之が槍を持って銃声のする方へ走った。
「待て左之っつ!!」
慌てて烈も後へ続く。銃弾の雨だったが、どうやらゲームをしていた事が功を奏したらしい。
(見える!!)
自分でもびっくりだ。
左之も奇跡的に怪我はなかったらしく、槍を一気に薙いだ。
烈も敵方の急所を突いていく。
「・・・!!左之っつ!!」
左之の後ろで振りかぶる兵士が見えた。慌てて短刀を投げつける。
急所は外した筈だ。頭の中でそう呟き、目の前の敵に集中する。
途中、銃声が響き、一つの銃弾が此方へ向かっているのが見えた。
駄目元で刀を薙ぐ。キンッッ!!という金属音と共に銃弾は弾かれた。
(まじかよ・・・すげえ。俺、すげえ。)
感心している場合じゃないが、信じ難い光景に気が高ぶる。
「こっちは粗方やったな!」
「ああ。他の組が心配だが・・・。」
左之と背中合わせで息を整えていると、怒号が上がった。
「組長!!大変ですっ!!伏見奉公所に火が!!」
「・・・!!なにっつ!?」
二人、伏見奉公所の方を見る。するとごおおおお、という音と共に火の手が上がっていた。
もう水で消火は不可能だろう。
二人、茫然と火の手が上がる伏見奉公所を見つめていた。
「・・撤退!!撤退だ!!総員走れ!!」
土方の怒声に烈達は走った。
「山﨑が深手を負ったか。」
土方が幹部会議で静かに呟いた。
歴史は動いてる。新撰組の顛末は知っている。だからこそ、烈は何も言えなかった。
がさっつ、と音がして、続いて失礼します、と山﨑の代わりに働いている閃の声がした。
入れ、と土方が入室を促すと、狐面に沢山の血を浴びた閃が居た。
「報告です。薩長が、錦の御旗を掲げています。」
簡潔な報告だが、幹部連中に衝撃をもたらすのには十分だった。
「どうやら朝廷は仁和寺宮嘉彰親王を征討大将軍に任命した模様。我々は、今日を持って賊軍となりました。」
「何だと・・・!?」
土方の目が驚愕に開かれる。ああ。歴史が動いた。
正義が、悪になった瞬間だ。烈は難しい顔をして閃の報告を聞いた。
「薩長が、官軍だと・・・!?俺達のしてきた事は・・・」
正義を重んじる斎藤の顔がゆがむ。
他の幹部も動揺していた。
「・・・・分かった。今日はもう休め。」
土方が閃にそう命じ、閃ははい、と返事をしてどこかへ消えた。
土方の顔は疲れていた。閃は怪我はないらしい事にほっとした。
その二日後。幕府の総大将、德川慶喜は大阪から姿を消し、敵前逃亡を果たした。




