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鬼って本当は優しい

「怠けてんじゃない!さっさと立ち上がれ!刀で斬るな!身体で斬れ!烈は相変わらず踏み込みが甘い!すぐに敵に吹っ飛ばされる!」


一週間ぶりに道場に姿を見せた沖田が鬼のように稽古を始めた。口布をさせているが、布越しでも声は大きい。


「・・・鬼が居る。」

ぽつり、と呟いた言葉に当たり前だろ、と左之が呟いた。


「総司は稽古を着ける時は鬼に代わるって有名だったんだぜえ?ほら、余所見するとーー」

左之が槍でひゅ、と突いてくる。慌てて身体を反らす。鼻先を槍が掠めていった。


「危ねえな!何すんだ!」


「実践とはいつ攻撃が来るか分からないものだーーーうぉっ!テメエやったな!」


惜しい。あともう少しだったのに。

長巻で足元を振り払う。次々と攻撃を繰り出せば、慌てて体勢を立て直した左之が、応戦してきた。


勿論木刀なので、木と木がぶつかり合う音が響く。



だんっ!と踏み込み、懐に切っ先を突きつける。しまった!という顔に、ニヤリと笑った。


「懐が甘いな。これで16勝16敗ーーどうする?隊士と並んじまったぜえ?組長殿。」



ニヤニヤとした顔で見れば、悔しそうに左之が舌打ちをした。面白い。


「烈!烈出てこい!どこだ!」

土方の金切り声がして、左之と顔を見合わせる。そして慌てて近くの桐箱を掴んで声のする方へ走った。


「・・近藤さんっ!?」

近藤が肩を抑えて倒れていた。

出血が酷い。


「山﨑さん!すぐに病室の用意を。土方さんは湯を沸かして!止血します!誰か晒しか布を!」

烈の指示にそれぞれが動く。心臓でないだけマシか。隊士が投げたサラシで傷口をぎゅ、とキツく縛った。


「井上さん!清潔な布をお願いします!!左之と永倉さんは病室まであまり動かさないように運んで!!」

「おうっつ!!」

近藤の顔色は悪い。見た感じは銃創だ。いったい誰に?

疑問はかき消して、走った。


* * * *


「大丈夫です。とりあえず、一命は取り留めました。」

真っ白な割烹着は、縫う際に赤く染まってしまった。

もう捨てなければ。手早く脱ぐ。

烈の言葉に幹部連中は、安堵の表情を見せた。


「それにしても、一体誰が?」

烈の質問に、心あたりがあるらしい土方が唸った。


「・・・御陵衛士の奴らだ。恐らく、伊東さんを殺した報復だろう。今日、総司の療養場所である近藤さんの休息所(妾の家)にも、御陵衛士が押し入ってきたらしい。総司がたまたまこっちに居たお蔭でなんとかなったが・・・。」


土方の言葉に、沖田がへえ、と呟いた。

「分かりました。御陵衛士の連中ですね。」

にこり、と微笑みを向ける沖田の笑顔が怖い。

土方が溜息を吐いた。


「変な事は考えるなよ?必ず下手人は見つけ出して俺達が報復する。」

土方の言葉に、笑顔のままはい、と沖田が頷いた。

此方を見ていた閃と二人、頷きあった。




「こんな夜中に、どこへ行くんです?沖田さん。」

沖田は気付いていなかったのか、狐の面で暗闇から声をかけると一瞬驚愕の表情を見せたが、元の笑顔へと戻った。黒衣に狐の面は、烈と閃の仕事着だ。沖田は結核患者にしては肉付きも、顔色も良い。早期から療養を行った結果だ。だがそれが苦痛だったのかもしれない。静かに口を開いた。


「・・・見つかってしまいましたか。報復です。土方さんなんかに任せちゃいられない。邪魔をするなら、烈。君でも斬ります。」

沖田がすらり、と鯉口を切る。銀の刀身が月に反射して、きらりと輝く。

眼を瞑って、すみません、と狐が呟いた。


「刀を仕舞って下さい。」

静かにもう一匹の狐が沖田の耳元で囁く。沖田の背中に刀を突き付ける。

沖田は諦めたような、泣きそうな表情で笑った。


「そうか。君たちは二人で一つ、ですものね。・・・・私にとっても、近藤さんは・・・いえ、私のすべてが、近藤さんです。幕府なんか、将軍様なんか、本当はどうでもいい。私はあの人が生きていれば、どうでもよかったんです。」


静かに紡ぎ出した沖田の言葉は、哀し気だった。

今までの悲しみを全部吐き出すかのように沖田が言葉を紡ぐ。


「力が弱っていく。それはひしひしと身を持って感じます。だが烈、君の治療のお蔭でまだ私は刀を持って、いざという時は戦えます。それは感謝してます。でももう、限界なんです。私はいつ治る?皆が出陣する中、私はどれだけの間指を咥えて待っていればいい?私が居なければ近藤さんを、誰が守る?近藤さんが居なくなるなら、私は死んでもいい。」


沖田の頬に一筋の涙が光る。

ごめん。ごめん、気付いてやれなくて、ごめん。そんな言葉で胸が一杯になった。

やはり抑えきれなかったのか、沖田の後ろで刀を突き付けている狐が、すまない、と沖田を後ろから抱きしめた。


「すまない。そんな思いをさせてしまってすまない。総司。ありがとうなあ。俺は幸せ者だ。」

「・・・!近藤、さん・・・!?」

狐の仮面がずれて、泣き顔の近藤が現れる。沖田は動揺していた。


沖田の前の狐ーーー土方も、面をずらした。

「土方さん・・・。」

呆気にとられたような顔で、沖田が呟く。

土方は、困ったような顔をしていた。


「俺は確かに頼りねえかもしれねえ。だが頼む。俺を信じてくれないか。必ず御陵衛士の残党は俺が見つけ出す。・・お前も、烈を信じちゃくれないか。あいつは京一、いや江戸一の医者だ。現にお前は労咳にしてはそんなに弱っちゃいない。だから、烈を信じて、もう少し辛抱しちゃくれねえか。頼む。そうして、また戻ってきて、俺達と戦っちゃくれねえか。」


土方の言葉に、なんですか、それ。と沖田が泣きながら笑う。

「・・・分かりました。信じますよ。近藤さんと、土方さんに免じて、この面白くない療養生活も、続けます。だから、土方さんは必ず見つけ出して下さい。」


「・・・ああ。」

土方が優しく笑う。沖田の背中でおいおいと泣く近藤に、烈と閃は木の上から苦笑して見ていた。


「上手くいったな。」

土方達に閃達の仕事着を着せるのは、閃の発案だった。烈は黒衣が前回の戦いでぼろぼろになってしまい、現在土方が着ている一着しかない為、道着に紙子羽織で成り行きを見守っていた。寒い。


「ああ。」

烈が居る木より一本高い木から成り行きを見守っている閃が、微笑んだ。


月明かりに照らされながら、男たち三人が子供のように泣いたり、困ったような表情をしながら笑っていた。

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