親の心子知らず
「良順先生、烈。話がある。」
そう珍しく切り出した閃に、呼ばれた場所は新撰組の屯所だった。
何やら話は通していたのか、待ってたよ、と近藤に通された前には試衛館派の幹部が勢ぞろいしていた。
「・・・・?」
何か重要な話らしい。
隣の良順と顔を見合わせ、首を傾げる。
どうやら何も聞いていないのは二人だけらしい。
二人の前に進み出た閃は、頭を下げた。
「・・・・新撰組に、入隊させて下さい。」
・・・・・え。
ええええええええええええええええ
間抜け面を晒しながら良順の方を向く。
良順もまた、驚きだったらしく、口をあんぐりと開けている。
新撰組に入隊?は?は?
「・・・・ちょ、ちょっとおちつけ閃。な、な?ほら深呼吸深呼吸。」
しどろもどろな言葉を繰り返す烈に、落ち着くのはお前だ、と土方が茶を飲ませてくれた。
「・・・・理由を聞いても、いいかな?君には仕事も金もある。新撰組でなくてはならない理由が、あるのか?」
落ち着いたらしい良順が、そう質問する。
閃がぐ、と口を一文字に結んで、開いた。
「・・・俺は強くなりたい。強くなって、殺人剣だけしか知らなかった俺に活人剣を教えてくれた師の剣術で、人を守りたい。この剣術を、沢山の誰かの為に、使いたい。・・・それから、勝手な話だが、可能なら烈にもついてきて貰いたい。」
閃の瞳は真っ直ぐだった。知らなかった。そんな事を思っていたなんて。
一同の目が烈に注がれる。
ここに来た時の目標は、生きて平成の世に帰る事だった。だが帰っても誰も烈を待つ人はいない。
ここの方がずっと優しい世界だ。
そして、なんとなく、分かってた。時期が来たら逃げよう、じゃなくて、時期が来たら俺は恐らく戦うだろう。死ぬ事も厭わずに。いろいろな人と関わりすぎた。生を最優先にして死を遠ざける事は、烈の吟持が許さないだろう。
(・・・とうとう、決断する時が来たか。)
想像していたよりもずっと重い。ここで頷けば普通の人よりも死に近い生活となる。
それでも。
(それでも、俺はここに居たい。)
「・・・一度、閃に助けられた命だ。この命、お前となら何処へでも使う。」
烈の言葉に、一同安堵の表情を見せる。良順は難しい顔をした後、にっこりと頷いた。
「子は知らぬ間に成長している物だねえ。特に、表情の読み取れなくて、何を考えているか皆目見当のつかない息子はもうこんなに成長した。驚いたよ。」
息子、という言葉に烈と閃は驚きの表情を見せる。ずっと、そう思っていてくれたのか。
なんだかこそばゆくて、嬉しい。
「そろそろ子離れの時期、か。・・・忘れるな。二人とも、私の大切な息子だ。どんな状況でも、最後は生きる事を考えなさい。二人で切磋琢磨して生きるように。・・・これから、時代は良くも悪くも変わっていくだろう。それが落ち着いた時、今度は孫の顔が見れるように楽しみにしてるよ。」
にこり、と父のような表情で二人を見る良順に、心がじわり、とにじんでいく。
「・・・・先生!いえ、父上。約束します。必ず二人で生き抜いてみせます。・・・孫、は分からないけど。父上の教えは、いつだって忘れない。」
烈の言葉に、こくり、と良順が頷く。
閃は頭を下げた。
「今までお世話になりました。・・・・俺に、何もない俺に、家族をありがとう。手紙を欠かさず書きます。父上。約束しましょう。」
家族って、暖かいんだなあ。
今までの良順との日々が流れていく。三人で新撰組に襲われたり、鍋をしたり、行水や、冬の銭湯。年越しの蕎麦は、三人で打った。長崎にまで渡った。いつだって一緒だった。
「生きて、また平和な世で会いましょう。」
息子をよろしく頼む、と近藤に頭を下げた良順は、近藤と飲みに出かけた。
早速だが、と土方に隊服を渡され、隊規がなんたるかをみっちり説明をされた。
「新撰組に入る以上、遠慮はしねえ。ここは三食当番制だ。まあ、閃なら問題はないだろう。それから、閃には山﨑と共に監察方をしてもらう。撃剣師範兼柔術師範も兼ねてもらう。十分な腕を持っているからな。所属は三番隊。斎藤の組だ。烈は医療方として在籍して貰う。一応所属は十番隊だ。お前も十分な腕を持っているから、剣士として人が必要な時には動いて貰うぞ。」
土方の言葉に、こくり、と頷く。閃とは隊は離れているらしい。というか、十番隊?左之の下で働くという事か?なんか嫌だ、さっきからこっちをニヤニヤしながら見てくるし。滅びろ。
「・・・それから、部屋、だが・・・・・。総司が移って、斎藤が一人部屋だったな。それか俺の部屋か。どっちかがどっちかに住め。」
「・・・!!っついいですいいです閃と一緒の部屋に住みます!!冗談ですよね!?」
何方か二人と二人きりなんて御免だ。だが願いは届かなかった。
「まあ、閃には偶に書類整理を手伝ってもらうからな。閃が俺の部屋、烈が斎藤の部屋でいいだろう。」
斎藤の部屋!?一人で逡巡する。閃その2と24時間365日一緒に居るだと!?なら閃との方が知れてる分マシだった。だが斎藤も既に頷いている。まあ、左之達と一緒になるよりは随分マシだ。
そう納得して腹をくくる。なんだか狼の群れに放り込まれた気分だ。
「・・・・。」
なんだか胃がキリキリと痛むような気がした。




