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月で餅つきは出来ない

慶応一年五月。

またも将軍に命じられ、京へと旅立つ烈達を、嘉六やお鈴らが見送った。閃が小判と離れ難くしていたが、引きはがして旅立った。一生の間でどれだけ往復するのだろうか。それも徒歩で。物凄くどこでもドアが欲しい。


「・・・烈。」

良順が乗っている籠挟んで反対側の汗水一つ垂らしていない男が隊列後方に向かって指を指す。疲れすぎてて気付かなかったが、鮮やかな羽織を着た隊が警護に加わっていた。


「おお。新撰組じゃないか。烈、閃、ここはいいから挨拶してきなさい。」


揺られる籠から良順が顔を出しながらそう言った。途端に閃が木に飛び映り、タン、タンと常人離れした方法で移動してゆく。


「あいつっ!」

まじかよそんな体力あるのかよ。若さか?若さの違いか?


急いで烈も木に飛び映り、後を追った。


「お久しぶりです。」

閃とともに体勢を低くし、膝を立てて挨拶をする。近藤がおお!と声をあげた。

「久しぶりだね。閃君に烈君。京についたら時間はあるのかい?」


流れを止めるわけにもいかないので、立って歩きながら答える。「良順先生の護衛が終わったらですので、夜からなら。」


烈の言葉に、近藤が満足気に頷く。

「それならば今度はこちらが持て成そう。三人で屯所へ来てくれ。」


「はい!」

烈もまた、笑顔で頷いた。

後ろの笑顔の松原と手を振り、鈴谷と目を合わせると頷きを交わした。

左之や永倉は今言葉を交わしたくて仕方無そうだったが、後で、と口パクで約束を交わす。

土方に最後に会釈をし、烈と閃は持ち場へ戻った。


* * * *



「それでは良順先生と烈君と閃君の帰還を祝って!!乾杯!!」


近藤の音頭で酒が酌み交わされる。

「ひっさしぶりだなあ、烈う!!俺はお前に会いたくて仕方なかったぜえ!!」

左之がガッツ!と肩を組んでくる。痛い。ものすごく痛い。

「やーめろよっつ!!」

「あはは!!相変わらず男にばっかちやほやされてんなあ、烈は!江戸で女は出来たのかあ?」

にやにやしたおっさんの顔で永倉が此方を見てくる。

「うるせえな。ほっとけ!!左之だって嫁さんいないだろうがよっつ!」

永倉から杯を奪い取り、一気飲みする。

熱燗の暖かさが喉を通った。


おお、と声が上がったが、左之は楽しげに笑った。

「それがよう、そうでもないんだぜ?」

左之の意味深発言に、首を傾げる。

二人は顔を見合わせて笑ってから、此方を見た。

「お前にはまだ言ってなかったな。こいつよう、今年の始めに結婚したんだ。」

永倉の言葉に、鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。

けっこん・・・血痕?結婚・・・・・・


「っつっつつ!!てめえ左之っつ!!信じてたのに!!お前だけは裏切らないって信じてたのにっつ!!一番結婚できなさそうだなとか思ったのにっ!!」

やってられるか畜生。近くの杯を手に取り、左之に飲ませる。

「わはは!!恨め!憎め!妬め!悔しかったら結婚してみやがれ生息子!」

左之は上等だ、と酒をがぶがぶ飲んだ。

なんだかむかついて、左之の腹をめくり、自慢の傷の上に顔を描いた。

「なっ!!てめえ烈!やめろっつ!!」

「足抑えてろ平助。顔でもありゃ愛嬌あるだろお?ほら。私左之子。ってよお。」

ぎゃはははは、と永倉の楽し気な笑い声が響く。

平助もぷくく、と抑えながら笑っていた。


閃と閃に性格が似た斎藤は呆れながら此方を見ていた。

鈴谷は馬鹿らしい、と酒を煽っている。

良順は近藤と伊東とやらと何やら話し込んでいた。


「・・・!伊東、てのはあの人か?」

近くの平助に確認する。ん?と顔をあげた平助はああ、と頷いた。

「俺の先輩なんだ。少し、高飛車で、嫌味な所があるんだよなあ。」



平助があーあ。と酒を飲む。見た目は確かに、文学に長けてそうだ。

「・・・あれ?沖田さんは?」


そういえば沖田が見当たらない。

屯所に残って警備でもしてるのだろうか?

だが予想は外れた。

「ああ・・総司なあ。あいつ、嫌な咳をするようになってなあ。屯所で静養してるよ。」


左之がぐい、と酒をあおりながら呟いた。その言葉に思考を巡らす。

沖田総司。そうか!労咳(結核)か!

ついに発症したのか。残念ながらこの時代では治療は出来ない。


「そうか・・・・・・。」

いつか、彼は剣が持てなくなる。

その事を彼は受け入れられるだろうか?


初めて人を斬って落ち込んでいた沖田を思いだす。彼は案外弱い。


「・・・・・・・月が、綺麗だなあ。」

何か、治療法はないだろうか。

沖田の笑い顔が月に浮かんだ。

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