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幼心を忘れるな

すうっ、と空気を肺に貯める。

朝だから、冷たい空気が入って来た。

今年23だとかは気にしない。


「せぇーの!たーだーいーまっ!」


古い門の前で1人そう叫ぶ。

一緒に叫んでくれると思った閃は迷惑そうに此方を見ていた。


「・・・うるせえな、聞こえてるよ。」


ガラッ、と扉を開けて迷惑そうに斎泉が出てくる。相変わらずの風貌。少し眠そうだ。ちりん、と鈴が鳴って、朝司(斎泉と住んでいる少年)に抱きかかえられながらにゃあん、と小判が目を細めて泣く。後からつるハゲ頭がおや、と現れる。


「予定より早かったですねぇ。閃は、少し背丈が伸びましたね。烈は筋肉がついたようだ。道中ご無事で何よりです。

・・・・お帰りなさい。」


優しくふふ、と微笑む嘉六に視界が滲む。

あれ、こんなにちっちゃかったっけ?

っていうか、おかえり、か。

おかえり、かあ。



「・・・・ただいまっ!!!!」



* * * *


「閃ちゃんと烈ちゃんが帰って来たんだってえ!?ほら、酒持ってきたよっ!今夜は宴会しようじゃないか!」


ドン、と「花筏」と書かれた四斗樽を豪快に置いた朔乃は、どこから聞きつけたのか夕方やってきた。


「おや、朔乃さん。昼間会った時はお鈴さんと一緒にいらっしゃると言っておりませんでしたか?」

珍しく診療所を早く閉めた良順は、奥の居間からやってきた。


「あらぁ?あの子ったらどこへ行ったのかねえ。さっきまで隣にいたんだけど。」

不思議そうに首を傾げる朔乃を見て、大体想像はつく。

おいていかれたんだねっ・・・・・


外は雨だ。肌寒い。道に迷って風でも引いていたら一大事だ。

「・・・俺、迎えに行ってきます。」

番傘を手にして、夕方の江戸の町に繰り出す。

「・・・つう、寒いっつ!!」

身震いするような寒さに肩を竦める。

まだ冷え込むようだ。早くお鈴を見つけなければ。


「・・・・?烈か?どうした?」

聞きなれた声がして、パッと後ろを振り向く。

「朔乃さんがお鈴ちゃんをよお・・・」


ハッッとした。そこには誰もが振り向くような美男美女が一つの赤い傘に入って、夕焼けに照らされる雨の中、佇んでいた。まさに、絵になる図。


「・・・?お鈴殿なら、さっき茶屋の前で迷子になっている所を見つけたから連れてきた。」

不思議そうにそう説明する嘉六の使いに出ていた閃の表情は、気のせいかと思うほどの変化ではあるが、柔らかい。


・・・・なんっか、ほっとするようなムカつくような。

・・・・あれ、これフラグ立ってね?


「傘持ってきたなら入れろ。」

さっつ、と烈の傘に入ってくる。やめろよこの天然甲斐性なしっつ・・・!


「いれねーよ!リア充はいれねえ掟なんだよっ!!俺たち独り身の敵め!!滅亡しろ!!」


「りあ・・・!?!?なんだそれ・・訳わかんない事言ってないで入れろっ・・・」

「うるせーお鈴ちゃんとゆっくり帰ってこいっつ!!」


俺なんて・・・俺なんて・・・童〇なのにッッ


* * * *


「花筏か。よくこんなん持ってんなばあさん。」

「失礼なっ!!年ゃあんたより下だしばあさんって呼ばれる謂れもないよっ!!菱垣廻船に知り合いが居たのさ。戻り酒だからおいしいよお??」

にいっ、と特徴的なえくぼを作って笑う朔乃に、おおっつ!と斎泉が声を上げる。


戻り酒だかなんだか知らないが、懸念すべき問題が一つ。

閃は飲んでも大丈夫なのか・・・!?!?

そりゃ江戸での元服はとっくに過ぎてるから法的には問題ないだろう。

だけど、こいつ、確か眠い時は性格極端に変わってやしなかったか・・!?!?!?


少しなら、前にも何回か飲んだ。たいてい猪口一杯を、ちびちび飲んで、眠くなって終わりだった。だがそれは下り酒の話だ。下り酒は水と変わらないくらい何倍も薄めている。

・・・・大丈夫、か?


「それでは、成長して戻ってきた閃と烈の帰還を祝して・・・乾杯っつ!!!」

さっ、と猪口を上に上げる。

音頭をとった斎泉が、猪口・・・否、徳利から直接酒を飲み干し、真っ先に閃に目をつけた。いやな予感がする・・・!


「閃よお、お前、下戸だったなあ。少しは今日へ行って治ったかあ?」

にやりとしながら徳利を抱えて此方へ向かってくる。

「・・・相変わらずアホ程酒を飲んでいるようだな。」

ぼそっつ、と聞こえないように隣に居る朝司に愚痴をこぼした閃は、はあ、と溜息をつく。

朝司はまだ飲めない年齢な為、肴をつつきながら茶を啜っていた。


「ああん?なんかいったか?」

赤い顔をした斎泉に別に、と顔を背ける。

だがガッツ!!と首をつかまれた閃は、身動きが取れなくなった。


「飲め。」

有無を言わさない笑顔で、ガッツ、と閃の口に徳利を流し込む。

「ちょっつ・・!!どうしよう朝司君!?!?」

唯一冷静であろう最年少の朝司に助けを求めると、少年はさも冷静に返答をしてきた。

「ほっときましょう。とめても大乱闘になるだけです。あの二人は酔うと師弟揃って酒癖が悪いですが、最悪手刀を入れれば問題ありません。・・あ、私が持ってきますから座っててください、お鈴さん。」


最悪って・・・最悪すぎじゃねえか!!つーかなんなのこの子!!めちゃくちゃしっかりしてる!!閃そっくり!いや、閃よりしっかりしてるかもしれない。

忙しそうに立ち回るお鈴に気を使い、よくみれば佇まいは綺麗だ。

やっぱり師匠うえがあんなだと嫌でもしっかりしてくるのか・・!?


「飲んでるう?あら、れっちゃん全然じゃないっ。こういう時に羽目を外さないから女の子にちやほやされないしいつまで立ってもいい人現れないのよォ。」

ドンッッ!とむせるほどの力で背中を叩いてきた朔乃は、既に出来上がっている。

めんどくせえのがきたぞおい。

つーかほっとけ。なんで俺がモテないのも恋人いないのも知ってんだよっつ!!


「そうですよ烈。たまには羽目を外すのも大切です。さあ、どんどんお飲みなさい。」

嘉六もにこにことした顔で寄ってきた。

いや待て。ここで俺も飲んだらまともなのが最年少二人組おすずとあさじしかいなくなってしまう・・・!!!


「いやあ俺は・・」ビンッツ、と言いかけた所で箸が隣の壁に突き刺さった。

「ほう?私の酒が飲めないと?」


にこにこと笑う剃髪に、二人に心の中で謝った。

「飲みます・・・」

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