人生で本当に大切なのは友達と金
慶喜の診察を終え、約一月した頃。
「江戸へ帰る!?」
にこにことした良順から告げられたのは、江戸帰還だった。
「今までの隊士達の病歴と治療法はここに。
風邪を引いた隊士がいたら葛根湯を飲ませて。それから包帯は最低三日に一回はよく洗って取り替える事。ご飯を食べる前には出来るだけ手洗いうがいをする事。わかりました?」
鮮やかな緑の服を着る青年は、一生懸命メモをとっている。その隣では左之と沖田が呆れた顔で此方を見ていた。
「・・・烈よぉ、お袋じゃないんだから・・・「あんた達はこれを守らないからすぐ病気になるんだ。まるでここは病の見本市です。必ず行って下さい。」
烈の言葉にう、と左之がつまる。「烈、終わったか?」
隣の障子がさっ、と開き、土方に最後の奉公をしていた閃が顔を出した。
「・・・そうだ。」
妙案でも思いついたかのような顔をして沖田がぽん、と手を打った。
「結局、一回もあれから閃君とは一回も手合せしてませんよね。
最後に一手、手合せしませんか?」
* * * *
・・・どうしてこうなった。
俺、一年前までニートしてたんですけどおおおおお
何年も剣術をしていた奴らになんて勝てるわけねえだろおおお
いくら閃と組んでもいいからって、あの剣術バカ二人を倒せるわけないっ!!!!!
ギャラリーも集まってきてるし、審判を買って出た山﨑からの視線が痛い。
うわああああこんな事になるんだったらおとなしく最初っから江戸でまったり小判と暮らしてるんだった。あ、小判元気かな。
「・・・俺には無理だ、という顔をしているな。」
ぼそっと隣で閃がこちらを見ながらつぶやいてきた。
「当然、鍛錬の年数ではあちらが上だ、ただ剣術で戦えば負けるに決まっている。
だが、経験でいえば俺の方が上。そしてお前にもあるだろう?あちらに負けないものが。」
「・・・・!!」
一瞬考え込んで、すぐに思いついた。
歴史の偉人にも負けないもの。
沢山、ある。
「試合は実践を想定してだからなんでもアリです。何方かが何方かを追い詰めた時点で試合終了。両者、用意はいいですか?」
山﨑の言葉に左之と閃、沖田、烈が頷く。
す、と山﨑が手を高らかにあげた。
「試合、開始。」
山﨑が高らかに宣言した。
だんっつ!と烈が真っ先に動いた。
達人同士のように様子見なんてやってられっか。
俺たちが左之たちの優っているもの、それは若さだ。
戦場ではいつでも止まれば死なんだよ。
常にリビング・オア・デッドなんだよっつ!!!!
懐から鉄扇を出し、沖田に投げつける。そして紙をばらばらと撒いた。
合図をすると一気閃が動き出した。沖田は鉄扇をカンッッと刀で弾き、さっと目の前を阻む紙を一閃した。だが紙はばらばらと中に舞う。
距離を詰めた閃が沖田の足元を救う。だが沖田は上へと飛んだ。
何かがキラッツ、と足元で光る。
・・・針?
「・・・閃ッッ!!!!」
「人の心配してる場合かあ?」
スラッツ、と紙の間から槍が来るのが見え、ぐい、と手元の紐を引く。
「・・・!!」
原田が危機を察したのか、素早く振りむいて薙いだ。
キンッッ!!と槍が鉄扇を弾いた。
ぐい、と方向をかえかけた鉄扇についている紐を引っ張ってキャッチした。
「・・成程、紙は紐を分からなくする為の工作か。」
関心したようにに、と原田が笑う。
縫合用の絹糸があってよかった。
烈がこの四人の中で唯一優る物、それは頭の良さやアイディアの豊富さだ。
伊達に小中受験して医者目指してニートしてゲームばっかやってる訳じゃねえんだよ。
(まさか役に立つ日が来るとは思わなかったけどなっ!!)
回収した鉄扇を片手に持ち、長巻も抜く。
長巻を横にし、原田と沖田の元へ駆けた。
「・・・!!!」
想定外だったらしい沖田が一瞬隙を見せた。
そこへ片手で鉄扇を投げる。
「・・・っつ!ちょっつ!!左之さ!」
それを弾こうとした沖田が紐を切ろうとしたらしい左之とぶつかる。
至近距離で想定外な場合は未だ経験していないらしい。
二人してバランスを崩している。
そこを長巻で抑え、「閃ッッ!!!」と叫んだ。
すっ、と綺麗に二人を抑える烈の後ろから長巻と仕込み刀が二人の喉元を狙った。
「・・・・・!!!一本!!」
山﨑が高らかに手を上げる。
遠くから様子を見ていた土方は苦笑いを零していた。
「・・阿吽の呼吸、ってヤツですね。紙を投げた時自分も視界が悪くなる、とか考えなかったんですか?」
沖田が降参したように笑った。
「俺は動体視力がいいし、閃は耳がいいから相手との距離は測れますから。」
左之に手を差し出すと困ったように笑った。
「俺たちに足りないものはまだまだあったな。・・・烈、閃、もう十分だろ。お師匠も認めてくれるさ。心置きなく行って来い。次来た時はこの借り返してやるから。早く帰ってこいよ。」
帰ってこい、という言葉がくすぐったくて、照れたように笑った。
嘉六達に、成長を見せられるだろうか。
「・・・ああ。」
二人の手がしっかりと握られた。




