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親父は何年たっても尊敬できる

「うーっ・・・さみっ。」


縁側を通り、閃の部屋へと急ぐ。

今夜はこの時代に来て一番寒い。

なのに火鉢は先日、一つ壊してしまったので組手で勝った閃の元だ。


つーかこんな不利な賭けするんじゃなかった。こんな数年で閃を越せたら最初から苦労しない。くそう。


寒すぎて寝れやしないので、体裁も何もかも捨てて閃と寝させて貰うよう、布団を抱えていた。


(明かりがついてる。なら起きてるか・・・)


「閃っ!俺だ。悪いが隣で寝かせてもら・・・「・・烈っ!?おいっ、今はっ・・・」


足に何かが突っかかる。

・・・何か?


「おっ・・・!」

重力に従って身体が傾く。どうやら閃の身体だ、と認識する頃には地面が迫っていた。条件反射で咄嗟に手を突き出す。


「・・・っ!」

後からどさどさ、と落ちて来た布団の衝撃になんとか耐え、状況を把握する。と。


「・・・・!?!?おまっ!!なんちゅーカッコしてっ!!!」


「・・怪我見てたんだよ、悪いか・・」


あーあ、と嫌そうな顔をして閃が顔を反らす。俗に言う、押し倒すという事を人生で初めてしてしまった。相手は年下の男だから、キュン❤︎とかする甘いシチュエーションじゃない。くそう、閃が女だったらっ・・!


「おーい、閃の部屋にいるのかい?二人とも。」


「「なっ・・・!!」」


んな馬鹿なっ!おい待てよ到着は3日後って言ってたよね!?どうしたの!?どれだけはりきっちゃったの良順先生!


「はやくどけっ・・!」

「おい待てっ!布団にとられてっ・・てか髪の毛イタイイタイ!!」


二人とも寝る前だからか長い髪を下ろしていたのが運のツキか、髪の毛がやたら絡まる。

暴れる内に2人の距離は、5cmくらいに縮んでしまった。


(こんなの嬉しくない!全然嬉しくない!君との距離、0cm❤︎とか言える状況じゃねええええええ!!!!!!!!!!!!!)



スッ、と立て付けの良い障子が開いた。

下の閃は怪我を見ていたから、上半身裸。

かくいう烈は足元が肌蹴ている。

極めつけは、至近距離の顔。

え、まずくね?


固まる良順は暫し固まった後、にこ、と笑顔を作った。

引き攣った笑顔を。

「・・・若いねえ。」

スタン、と障子がまた閉じた。


いや、若いねえじゃねえよ!ちげえよ!


「ちょっ・・良順先生えええっ!助けて下さいよぁおおお!!!!!」


* * * *


「・・・私がいない間に、てっきりそういう関係になったものかと思ったよ。」

ずず、と笑顔で緑茶を飲む良順に、項垂れながら違います、と答えるのが精一杯だった。

あれから良順の努力により、最小限の髪を切るだけで二人は解放された。

閃がフン、と顔を背けてきて傷ついたのは表面に出さないでおいた。


「松平春嶽候にしたがって、帰ってくる事ができたよ。これからは一橋様の診察を担当する事になった。烈ももう一人前といっても過言ではない。私が留守の時を頼むよ。」


良順の言葉に、はは、と笑う。

「先生がご不在の時に奥様から手紙が来ました。元気でやっているか、って。」


「登喜からかい?俺の所にも来たよ。君たちの事をくれぐれもよく面倒見るように、って。」

苦笑いをしながら良純が答えた。

すこし皺が増えた。それだけこの一年、苦労したのだろう。


閃をちら、と見て頷きあう。

「・・・先生。お元気そうで何よりです。それから、お持ちしておりました。」


閃がさっ、と桐箱を良順の前に置いた。

良順が不思議そうな顔をする。


「まあ、そんな高価なものは用意できませんでしたが、私たちからの祝いです。

江戸医学所頭取就任、おめでとうございます。」


良順は東京大学医学部の前身となる江戸医学所三代目頭取となっていた。

約60名の生徒の教育の為に組織の整備拡充を図り、七科(物理・化学・解剖・生理・病理・薬剤学・

内科・外科)を置いた。この事は効率的に医学を学ぶ為の第一歩とも言える。

烈も知識を貸してくれと言われ、文通でだが幾らか教育の為に尽くした。


「・・・・外科道具、か。」


良順が驚きながら箱の中身をしげしげとみる。


「・・こちらが、更に使いやすくした鉗子。これは、針を持つ為の持針器。此方は鈎と言います。糸をひっかけたりするのに使います。こちらは、円刃刀と尖刃刀。より円滑に人体を切って手術する事が出来ます。」


丁火は、歴史に名を残さないように生きろ、といった。だがそれは無理だ。松原が、存在を知っていた。ということは、烈はこの時代で生き続けるのだ。

久しぶりに電源を入れたmy phone は、一年ぶりだというのに全く変わらない電池残量でついた。

そこから、佑に教わった手術器具の写真を出して、特徴を書き写したのだ。


「・・!名前が、入ってるのか・・・」

感心したとうにまじまじと器具を見つめる。


「刀鍛冶の、伊助さんたちを覚えてますか?盲腸で運ばれてきた。」

「・・・!ああ、開腹手術をした時の患者か。」


「そうです。彼の、息子さんが偶然にも近所にいらっしゃったんです。だから、閃と二人の給金で頼んで作ってもらいました。」


烈の言葉に良順ががばっと二人を胸に引き寄せた。

「俺は・・・いい弟子を持った。ありがとう・・・本当にありがとう・・・。」

父親って、こんな感じなのかな。


男泣きに泣く良順に二人で顔を見合わせると、くすり、と笑った。


兄弟って、こんな感じなのかな。

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