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真実二百と嘘八百

芹沢が死んだ。

その報せを受け、烈と閃の二人は新撰組屯所にて葬式に参加していた。


事態の真相を烈は知っている。

内部抗争。正式には沖田や土方が粛清したのだ。芹沢らが作る借金の尻拭いには、烈や閃が気まぐれに土方に金を渡していた。


それに島原での一件以来、堂々屯所を訪れる事が出来ず、暫くは山﨑が診療所へと来たり、必要とあれば屋根裏を伝ったりしていた。あの一件についてはなんであんなメンチ切れたのかは自分でもよく分からない。


黒袴に番傘で屯所から出る。

人の死は、例え仲が悪くとも決していいものではない。二人とも無言だった。


「・・・烈、閃。」


気が付けば前方の土方が、ちょいちょいと手招きしていた。原田や沖田、永倉の姿もある。


「・・・すまなかったな。色々・・これからは屋根裏や軒下から入らなくても大丈夫だ。堂々敷居を跨いで来い。それと、これまでの無礼、詫びる。」


土方が頭を下げる。


「・・・土方さん。矢張り、アンタが・・」


顔を歪めてそう呟く。

「ああ。」


目を背けることもせず、真っ直ぐ此方を見据えていた。真っ直ぐ、真っ直ぐ。


「・・そっか。ま、そうだよな。ありがと。」


事実、もはや芹沢の尻拭いは不可能な領域まで入り、京の警備どころではなかった。

それに、土方は、嘘をつかなかった。

ふ、と土方の顔を良く見ればうっすらと隈があり、見る限り体調も良さそうではなかった。

食事も最近は食べないことがあるという。

次に死ぬのはこの男ではないのだろうか?それも江戸に珍しい過労死で。


「・・・土方さん。明日辺り、時間ありますか?」


ぽつり、と零した烈の言葉に、土方は怪訝そうな、虚ろな目で此方を見ていた。

寝てない。この人絶対寝てない。意識が朦朧としかけてる。


「いや、必ず時間空けてください。明日。診療所に訪ねてきていただけると助かります。」


烈の言葉に土方はこくり、と頷いた。



* * * *


「ようこそお出でくださいました。此方へどうぞ。」

夜遅くに診療所を訪ねてきた土方は、黒い着流しに草履でやって来た。


座敷に案内をすると、そこにはさながら遊女のような絢爛豪華な格好をした、1人の女性ーーーもとい、涼が三つ指ついて待っていた。


「おこしやす。朝霧(あさぎり)と申しおす。あんじょう狭い所ではありますが今夜はごゆるりと寛いでおくれやす。」


にこ、と優雅に紅い唇が弧を描く。

化粧で女が化けるってのはどうやら本当らしい。先に来ている沖田や原田、永倉、藤堂すらも正体が鈴谷だという事に気が付いてない。


「・・・これは・・・」

「やっと主役の登場ですか。ほら土方さん、こっちこっち。」


長身の沖田とガタイの良い永倉に両脇を抱えられ、土方は座敷の円の一座についた。

土方の猪口に、涼が酒を注ぐ。


「たまには羽を伸ばしてこい。近藤さんの言伝です。書類は斎藤(さいとう)さんに頼みました。これからは新しい新撰組が始まる。その為の祝いと行きましょうよ。」


原田と閃に挟まれている烈が、にこり、と笑う。

土方は不服そうに眉を寄せた後、溜息をついた。


「・・・・今夜は、甘えさせてもらうとするか。医者は逆らうと怖いしな。」

苦笑いを持って酒を飲んだ。


「いい気分だなぁ。綺麗な姉ちゃんに酌して貰って気兼ねなく酒を飲める。島原ではまた味わえない良さだな。烈う、お前も隅に置けないなっ!」


上機嫌の原田が絡んでくる。

その姉ちゃんがまさか自分の部下で今回頼む事についてなんでも言う事を聞く、というシンプルかつ恐ろしい約束をしてしまったとは口が裂けても言えない。


涼は本職には負けるが自身の最大限の色気を持って土方をもてなしている。

若干土方の雰囲気も柔らかい。やっぱ男は単純だなあ。俺もだけど。


うんうん、と頷きながら杯を傾けた。喉がきゅ、としまり、熱くなる。次第に心地よさが頭を駆け巡った。


「屯所は男所帯だしなあ・・・いや、何人か女っぽい美形居るよなぁ。ほら、ぱっつあんのとこの。」


藤堂が赤い顔で杯を振り回す。

前から思っていたが、この青年、酔うと手グセが悪い。


「ああ。楠かァ。そっちの気がある奴に偉く人気だよ。あいつ。優しい声でコロッといっちまうんだと。まあ、隊士の仲で一番人気は鈴谷だな。」


永倉の言葉に閃、烈、涼の三名は顔を強張らせた。涼に至っては笑顔を貼り付けたまま。烈の記憶上では鈴谷という苗字は一人しか居ない。


「ちっこくてほせえ体して、女顔でな。髪なんかもそこらの女に負けないくらい艶があるし、肌も白い。どういう訳か良い匂いもする。そのくせ剣術では結構強くて、誰とも馴れ合わないつれないところがくるんだとよ。」


原田の説明に、藤堂がへえ、と相槌を打つ。土方の隣に居る涼は物凄い表情で杯を震わせていた。


・・・アイツ、顔に出すぎだろっ!それでも情報屋か!?


「彼は確かに強いですね。でも彼はまだ力を隠していると思います。身のこなしが私や土方さんの比じゃない。いくつかの死線を乗り越えてきた事でしょう。八ヶ代君程ではないけれど、彼には経験がある。」


沖田が頷く。いよいよ涼は笑顔が引き攣り出した。やばいやばいやばいなんとか話題を逸らさないとっ!


「そういえばお前達は仲がいいな。知り合いか?」


土方が赤い顔で質問をしてくる。先越された。


「・・・道場に剣術指南に行った時に、少し。」


嘘を吐く事による良心の痛みからか精一杯土方から目線を背け、閃がぽつり。と答えた。


ダメだよオォオオ

この子嘘下手すぎだよオォオオォオ


「お前、道場に剣術指南に行ってたのかっ!流派は?道場の名前はなんだっ!?」


永倉が興味深そうに身を乗り出してきた。

ほらアァアアアアァアアア

流派とか、道場とか全然知らない。

だから助太刀は出来ない、と大人しく閃を見守る。


「し・・・神化天火流です。道場は、転々と。」


更に目を背けながらぼそり、と呟いた。

なんなんだよ神化天火流!?初めて聞いたよ!てか自分の本名ちゃっかり入っちゃってるよ!閃の目の前では永倉が首を捻っている。

閃んんんんん


「聞いたことねえなあ。あれ程の身のこなしや捌き身につけといて・・・」

おかしいなあ、とぶつぶつ呟きながら首を捻る。


「まあ、強いのは分かりますよ。それに鬼の副長よりも幾らか寛大で、仕事もできる。」


沖田がさらりと毒付く。

その言葉に土方は型の良い眉を顰める。


「何を言いやがる。今までの仕事の5割は尻拭いだ。てめえは暇さえあれば子供と遊ぶかぶらぶらするか何方かだ。」


「眉間に皺を寄せると跡が付きますよ。あ、蚊だ。」

すぺんっ!と、勢いよく土方の肩を叩く。


「まだ居るんですねえ。ああ嫌だ。大きい虫でした。」

汚いものを吹くかのように手に息を吹きかける。終始にこにこ。怖い。


「・・・っ!そこになおれ!」


え・・・沖田さん無害そうな顔してなんか怖い・・・えっ・・えっ


「まあ気にすんな。いつもの事だ。それより烈、生息子ってほんとーー「人には触れてはならない事があるってご存知ですかっ!?」


原田のおかげでメンタル崩壊する前に防止策を講じる。だが藤堂の言葉の前に敗れた。


「男が言い訳たァ情けねえなあ。歳も俺より上なのに。」

笑顔の天使は烈の心に爆弾を投下した。


こうして静かな夜は更けて行った。

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