吹き矢って痩せるらしい
場は島原。
八・十八の政変により新撰組と名を改めた浪士組は、島原で祝杯を上げていた。
遊女は初めて見た訳じゃない。
けど、けど・・・・
めっちゃ緊張するううううう
半年くらい前はニートしてたはずなのに!
てか恋愛のれの字も知らないよ!行くとよく働いてるコンビニのお姉さんがおつり渡すとき手を添えて来てこいつ、俺に気があるのかな?とか勘違いしちゃった哀しい経験しかないよ!
「ほほ。緊張してはるん?かいらし方や。」
酌をしに来てくれた遊女が優雅に微笑む。
はっ・・・話かけられたアアァァァ
どうしようどうしよう!そうだ!全て涼だと思え!そうすればなんとかドキドキはおさまんだろ!
「・・・あ、えっと・・・」
ダメだアアァァァ
危険だ!涼が優雅に微笑む想像をするだけでも危険だ!危ない危ない爆発する所だった。
だが目の前の遊女は相変わらず此方の言葉を求めてニコニコしてる。
こわいっ・・・超こわい!早く喋れよ後つっかえてんだろこのコミュ障が!とか思ってそう。いや思われてる!
誰か・・・誰かアアァァァ
「すまんな。そいつは少々女慣れをしていなくてな。なんせ生む・・」
ぱしっ、と隣のトンデモ娘の口を押さえる。
何言い出すかこのクソアマアアァァァ
(*生息子=童貞)
くわっ!と瞳孔が開く勢いでもそもそ膳の食事を食べる少女(今は少年の格好をしている)を睨み上げる。
「いいだろ本当の事だ。」
どうでも良さそうにふいっ、と顔を背ける。
畜生!なんで知ってやがる!
ほほ、と優雅な笑い声が聞こえた。
「おもろいお人おすなあ。お侍はん、どうどす?もう一献。」
「いただこう。」
済ました顔で涼ーーもとい、鈴谷が杯を差し出す。
女ですよォオ!!そいつ、済ました顔してるけど女ですよォオォオ!そこらの男より強い女ですよォオ!!!
叫びたいが叫んだ瞬間朝日を拝めないだろう。
「飲んでるカァ?お!お前行けるクチか!飲め飲め!」
急に肩に重みがのしかかり、うっ、と言葉を漏らす。
原田と藤堂が杯を片手に此方へやってきた。
「しっかしよお、閃も来れば良かったのにな?綺麗なねーちゃんに酒を注がれながら食事する、ってのもなかなかいいだろ。」
藤堂がひくっ、としゃっくりながら呟いた。その言葉に原田があーっ!と叫び声を上げる。
「前から怪しいとは思ってたんだ!まさか、お前達・・・男「そうかそうかそんなに腹の傷抉って欲しいか左之ぉ!遠慮はすんなひと思いにやってやる!」
「冗談だよ。間に受けるな。」
ぽん、と小さい子をあやすように頭を撫でる。
うっぜええええええ
「堪忍ください!」
女の悲鳴があがり、一瞬にして静寂が訪れる。
大元を見るとそこには不機嫌そうな芹沢とひたすら謝る新造が居た。
「人の顔を見て手震わせよって挙句の果てに酒をこぼしよって。貴様はそれで遊女見習いか!」
「芹沢はん、堪忍したって!私の新造の始末は私が付けさせていただきますよって。」
1人の遊女がす、と前へ進み出る。
芹沢は鉄扇で膳を叩いた。
皿が割れる。
「やかましい。気分が落ちたわ。どうしても許して欲しければ貴様、髪を切れ。それから新造、着物を脱いで床へ入れ。」
芹沢が不機嫌そうにそう告げた。
この時代、新造にお手付きはタブーだ。
だが粗相を仕出かした大義名分がある。二人の顔は真っ青になって行った。
ちゃき、と鯉口を切りかける鈴谷の手を制す。
「ここで暴れたらお前の苦労が水の泡だぞ。」
「・・・っ、」
鈴谷にしか聞こえない声でそう告げれば、悔しそうに顔を歪めた。
「五百夜ア!貴様、やれ。」
ニヤリ、と芹沢が小刀を渡してくる。
髪を切れ、という事か。恐らく日頃の憂さ晴らしだろう。
ちらり、と左之を見れば、真っ青な顔でこちらを見ていた。
土方はやむを得ん、と小さく頷いた。
髪を切る。それだけの事。
だが、それによりこの遊女は客を取れなくなり借金は嵩む一方だ。新造については一生をめちゃくちゃにされるだろう。
ふ、と閃の顔が過った。
『俺を、恨め。』
あの小さな背中にはどれだけの恨みを背負っているのだろう?
す、と遊女の近くに立つ。遊女はびくり、と後退した。
気をよくしたらしい芹沢は、やれ、と囃し立てる。
「・・・すみません。」
せめて、と懐から筒を取り出す。薬入れにしておいて良かった。針も無事だ。
「芹沢さん。」
勢い良く身を反転させ、ふっ!と力強く息を吹く。吹き矢だ。針の先には麻酔。
「・・・っ!どういう魂胆だ五百夜ア!」
起き上がろうとしても身体がいうことを聞かないらしく、怪我をした鳥のようにじたばたと芹沢がもがく。
「五百夜、貴様っ!」
芹沢一派が鯉口を切る。ひっ、と遊女の喉が鳴った。
「・・・・あ?」
芹沢一派を睨むと、一様にひっ、と後退した。
どうでもいい。邪魔するな。
ゆっくりと腰に手をやると、冷たい陶器の感触。ぐい、と上に引っ張り、狐の面を被る。
「・・・芹沢さん。あんたは、俺を恨め。最初から気にくわなかったんだろう?あんたの最近の行動は目に余る。近藤さんでも、土方さんでも、この遊女でもない。狐火の、俺を恨め。近藤さんや土方さんを殺す前に、俺を殺しに来い。狐火が、総力を持って持て成す。」
「・・・き、さま・・・・・」
芹沢は宙へ伸ばした手をぱたり、と降ろした。
皆一様にこちらを見ている。最早興醒めだろう。騒ぎを聞きつけてやってきたらしい番頭に幾らかの金を渡す。
「すみません。これで納めてください。本当に、すみません。」
そう言い、狐の面のまま群衆を通り抜ける。途中、土方がこちらへ頭を下げて来た。
「・・・すまねえ。」
辛そうに顔を歪め、そう謝る土方に、笑った。
「大丈夫ですよ。恨まれごとは、慣れてます。」
『狐火』は。
烈の背中が闇に消えた。




