寝る子は育つ
「烈、起きろ。」
暗闇に響いた声に意識を覚醒させる。
布団が恋しい。身体中が痛い。
次の交代まで起きていなければ。睡眠を欲する身体に鞭打ち、ふあ、と欠伸をした。
現在、二人は壬生浪士組と共に待機していた。俗に言う八・十八の政変に二人は参加することになってしまっていたのだ。
浪士組は会津公事方から命令を受け応援に駆けつけ、桐仙御所の警備にあたっていた。
烈と閃は医療方として治療をする為に参加させられていた。早く治療が出来るようにと、腕が立つという意味でこういった戦闘は出来るだけ参加するようになっていた。
烈の左隣では原田がうつらうつらと船を漕いでいた。
不意にパン、と破裂音が鳴り響く。
瞬間的に辺りが殺気立った。
「・・・!各々持ち場を離れるなよ!」
土方の怒声に総員立ちあがる。
だが烈は今回、内心冷や汗をかいていた。
(銃声・・・・・)
今回は、無傷では済まないかもしれない。
今まで、剣専門に鍛錬してきた。
銃は、どこに銃弾が撃ち込まれるか分からないのだ。
「大丈夫かい?足が震えてるよ?」
坊主頭に白い鉢巻、大薙刀を持った弁慶のような出で立ちの松原忠司が烈の後ろから声をかけた。
彼は四番組組長であり、総長である山南敬介同様温厚な人物として知られていた。
よく人使いの荒い土方や怪我をする隊士達に翻弄される烈を気にかけてくれていた。
「・・・ええ。まだ、少し怖いですけど。」
少し、じゃなくてとても怖い。
だけど口に出したら止まらなくなりそうで、言えなかった。
「ま、大丈夫大丈夫。ちょっと弾が掠ったくらいじゃ死なないさ。それにーーー君は、生き延びる。」
にこ、と微笑まれ、どこからその自身が来るのか聴きたくなったが、なんとなく不安が解れた。
* * * *
「・・・終わったか?」
思わずぽつり、と呟く。
無意識的に目を逸らしていたが、容赦なく土方達は捕縛・もしくは斬り捨てる。
おかげで赤が飛び散っていた。血なまぐさい。
烈は気分が沈んでいた。
自分も、一歩間違えたら。
そんな考えが頭をよぎるが、考えを打ち消すように頭を振る。
今回はもう撃たれる事はない。何分夜で手元が狂う。が、今後このままでは確実にマズイだろう。
「・・考えるな。これから先お前が見る光景はどれだけ理屈で考えても到底キリがない。前を向け。」
隣で刀を構える鈴谷にああ、と返事をして、今は隊士の怪我を治すことだけに集中する。まだ気を抜けない。今のところ、目立つ怪我はない。
「・・っ!」
キンッ、と金属音がして、音の源を見ると、閃と鈴谷が烈の背中に迫っていた凶刃を防いでいた所だった。
閃が相手の武器を弾き、鈴谷が相手の首を掴む。じたばた暴れる体は、小さい。
烈は襲撃者の顔を覆っている布を取り去る。
「・・子供?」
まだ年端も行かない子供が精一杯目に涙を溜めて此方を睨みあげていた。
「・・・っ!離せよ!ひとごろし!お父上をっ・・・お父上を、返せ!」
長州兵の、子供?
子供の着物には血が飛んでいたが、恐らく彼の物ではない。泣き喚く子供を鈴谷から引き取った閃は、ドサリ、と子供を地面に落とし、懐から小判を三枚取り出し、子供に投げた。
「・・・生きろ。生きて、強くなれ。呪いたければ、俺を呪え。仇討ちしたければ、受けて立つ。だから、生きろ。生きて、強くなって勝ちに来い。」
一言一句、丁寧に、閃はしっかりと印象に焼き付けるように言い放った。
子供は暫く小判と閃とを見比べ、唇を噛み締めた。
「・・・っ!情けなどいらんっ!殺せ!さあ殺せ!どうせ天涯孤独の身だ!お父上が!お父上だけがっ・・・!」
ついに子供は泣き出した。烈が前に歩み出る。傷口はなし。打撲痕も。大きな外傷はなさそうだ。
「君が居なくなったら、俺が悲しむよ。だから、こんな所で命を無駄にしてくれるな。行きなさい。出来るだけ遠くへ走って逃げて。君が死にたくなったら、死ぬ前に必ず俺の所へ来て。でも、頼むから生きて。つまらぬ意地を張って命を、君の父上のご遺志を粗末にするな。」
子供の肩を掴み、目を見てしっかりと伝える。子供はやがて小判を掴み、何処かへ駆けて行った。
「・・・戦とは、辛い物だな。」
分かりきってはいたけど。
戦とは、全てを奪う行為だ。
年端も行かない子供が仇討ちをする時代。
子供が殺意を持って何かを成す時代。
現代では異端視される事が、普通になる時代。
無意識的にぐ、と拳を握った。




