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血より濃い赤

「留守番?」


今聞いた言葉は果たして本当か、確認の意味も込めてそう問うと、良順がうなづいた。


「今度、上様と共に帰東(江戸へ帰ること)する事になったんだ。だが・・・ここには、まだ診なければならない人達がいる。」


良順の言葉に壬生浪士組を思い出す。

確かに彼らはまだ不安定だ。


「それに、暫くは京にも診療所を置きたい。烈の腕ももう一人前の医者と同等に上がって来た。・・・だから、彼等や、ここの人達を、烈に任せてみたいんだ。恐らく、半年で戻って来る。烈、任せても良いかい?勿論、閃も一緒に。」


良順の言葉に二人は顔を見合わせた。


「・・・・はっ?」

何言ってる。

何言ってんだこの坊主。

任せる?半年?


「はっ!?無理無理無理無理無理です何言ってるんですか!?!?知識も何もないですよ!?留守を任せられる器ではありません!!」


烈の必死の抵抗に良順が困ったように笑う。


「ははは・・・でも、君が思うより君は知識も技術もある。それに、医師に必要な臨機応変さもね。だから、安心して任せられるよ。なあ、頼めないかい?」


良順の言葉にう、と詰まる。

確かに壬生浪士組は怪我を沢山する。

それに壬生浪士組と居た方が歴史の陰には隠れられる。

どうする?ちら、と閃を見る。


「・・・俺は、此処に残る方が都合が良い。それに、何も進歩してないのに、先生の元へは帰れない。」


何も進歩してないのに、という言葉が胸に刺さる。確かに。ただ帰るとか、こいつ何しに帰って来やがった感ハンパないっ・・・!?



「・・・残ります。」


* * * *


「よーう烈。お前、良順先生に置いてかれたんだって?」

壬生浪士組屯所に着くと真っ先に左之がニヤニヤしながら絡んできた。うざい。


「お前らみたいに見境なく元気に怪我拵える馬鹿がいるんでなっ・・!土方(ひじかた)さんはいるか?」


閃は屯所に入ってそうそう永倉達に稽古に連れてかれた。本題に入ろうとするといくつか視線が纏わり付いている事に気が付いた。なんだ?


「烈、こっちだ。」

非番なのか、着流しを着た副長が難しい顔で手招きした。

案内されるがままに土方の部屋へと入ると、苦笑して土方が理由を話してくれた。


「根岸さん、殿内さんが消えて、今2つに分裂してる。芹沢さん派と近藤さん派にな。」


芹沢、という言葉にうげえ、と眉を顰めた。あまり聞きたい言葉じゃない。


「これ、いつもの塗り薬です。それとーーー話、とは?」


早速本題に入ると、土方は茶を啜りながらこくり、とうなづいた。


「良順先生が帰東なされて、お前だけで俺たちを診察しながら診療所をやる事になる。だから、という訳じゃないがーーーー山﨑、入れ。」


入室を促された山﨑という青年は、これまたなかなか美形だった。緑の鮮やかな着物が印象的だ。


「監察方の山崎(やまざき) (すすむ)だ。大阪の薬問屋の息子で、一般人よりは医の道に明るい。こいつに、医療の知識を教えてやっちゃくれないか。勿論こいつにも任務があるから偶にで良い。手伝いに使うだけでも良い。」


土方の言葉に、山﨑が頭を下げた。


「・・・人に教えられる程の技術は持っちゃいませんが・・そうですね、確かに手伝いは助かります。暇な時で良いので手伝っていただけますか。」


烈だって絶賛勉強中の今、人に教えられるかどうかは不安だが、手伝いは有難い。それに、ついに、ついに。


(ついに俺にも弟子がっ・・・!)

感動を堪えて笑顔を貼り付ける。


烈の言葉に山﨑はもう一度、頭を下げた。

「ありがとうございます。御指南、よろしくお願い致します。」


「ま、ここにもいつも通り気軽に来い。お前は剣にも通ずるしな。そこらの隊士より強い。何より、閃の存在は隊士達の励みにもなる。」


土方の言葉に苦笑する。確かに若い見ず知らずの青年が沖田と互角に渡り合えるのだ。

それに、彼の剣術指南は実践を想定していて、厳しい。気を抜けば練習といえど死だ。


「つーかそこの山﨑も長巻を使うぞ。なんなら一戦やったらどうだ?」


土方の言葉に山﨑は若干目をきらきらさせる。


「いっ・・・!?いやいやいや!!無理です勘弁勘弁!!」


慌てて否定すると、山崎がこれまた分かりづらいが、しゅん、とした。

なんなんだこの動物!

そもそも新撰組幹部なんかと渡り合える訳ないだろ!前回は逃げる事が目的だったからなんとかなった。


「烈ー!いるかあ?こいつが怪我しちまったんだ。手当てしてくれねえ?」


これ幸い、と藤堂の声のする方に駆けてく。

そこには、藤堂と肩を組みながら歩く涼ーーもとい、鈴谷の姿があった。


「鈴谷っ!?」

烈が駆け寄ると、鈴谷はこちらへ体重を預けてきた。


「稽古してたら吹っ飛ばしちまってさ。なんか脚の辺りが切れたらしいんだ。こいつ、元々気分悪かったらしくて、診てやってくれるか?」


脚?脚の辺りを診ると、確かに黒い着物で分かりづらいが固まった血がてらてら光っていた。途端、何かがとっ、と腹の辺りに当たる。


短刀だった。鈴谷を見ると少しでも妙な真似してみろ、殺すとでも言うかのように此方を般若のような顔で睨みあげていた。


「・・・っ!あ、ああ!こいつはまずいっ!診療所で休ませます!!連れ帰るんで怪我が良くなったら此方へ連れてきますね!閃には先帰ると言って下さい!ではっ!」


ボロが出ないうちにと早口でそう宣誓し、鈴谷を抱えて屯所を足早に出た。

うん。これどっからどう考えても男子が深く突っ込んではいけないアレだ。

こいつ、女だもんなそれはうんっ!


「・・・揺らすな。おぶれ。さもなければお前の◯◯削ぎ落とす。」


地獄から響き渡る要求に泣く泣く応じ、鈴谷を診療所へ連れ帰った。多分、少しでも機嫌を損ねたら即刻死だ。自主規制入れなきゃいけない到底女子とはおもえない言葉出てきたし。痛いらしいし。うん。


「戻った。・・・涼?」

烈の布団で眠る涼に、烈は怪訝そうな視線を向ける。


そして干してある袴と、腰の下に置いた手拭い、それから2つもある火鉢を見て、閃はああ、と頷いた。


「月の障りーーー」

烈が遮るよりも早く、頗る機嫌の悪い涼が近くにあった桶を投げた。ひょい、と閃が避ける。


「おっ、落ち着け!動くと更に酷くなるぞ!」

宥める烈にちっ、と鈴谷が舌打ちをする。


「お前もおんーー「ちょっとこい!!」」


頼むから刺激しないでくれ。逆らうな。

「お前には気を使うって事が足りないよなっ!」


「・・気なんて使ってられるか面倒だ。それに使う時はちゃんとわきまえてる。」


「その使う時が今だろ馬鹿野郎っ!」

途端、何かが障子に穴を開け、ひゅ、と閃と烈の顔の間を綺麗に通り、カン、と木に当たった。


「・・・五月蝿え。殺すぞ。」

そこらのヤクザなんかよりよっぽど怖い少女は、布団の隙間から此方を覗いていた。


「・・・へ、へい。」


情けない返事だけが宙に消えた。

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