糸しき体、糸しき命!
三月月末。
京都に戻った良順ら三人は、相変わらず忙しい日々を送っていた。
閃は知り合いのつてで京都の仕事を紹介して貰い、2人の鍛錬はより厳しくなった。
「烈、閃。二人に手紙だよ。」
勝手場で惣菜を盛り付けていた2人の元に良順が紙を2枚、ひらひらさせた。
手紙?貰うような人間、この世界にいたっけ?閃はともかく。
あの腹黒師匠は・・・ないな。うん。絶対ない。
二人して顔を見合わせ、良順から紙を受け取った。
「・・・お鈴ちゃんか。」
あの健気な少女から手紙が届いたらしい。
何処までも健気だ。そういや離れる事が決まった日も二人に髪紐をくれた。
この時代の髪紐は紙で出来ているが、あの少女はその紙に言葉を書いて、お守りです、と渡してくれたのだ。更に先端に閃には控えめな黒曜石、烈には水晶がついたものをくれた。彼女のお手製だ。
ふ、と隣を見ると、ふ、と微笑んでいる閃が目に入った。
え。
・・・・・え?
まさか、こいつっ・・・!
「・・水汲みに行くぞ」
穴が開きそうなくらい見つめている烈に怪訝そうな視線を寄越すと、閃は手紙を懐にしまって歩き出した。
どうやら、本人は気付いていないらしい。
へえ。面白い事になった。
ニヤニヤしそうになる顔を必死で抑えて閃の後に続く。
提灯を持った光の先で、何かが動いた。
「・・・!」
二人して長巻に手を掛ける。
だが警戒は杞憂に終わった。
よく見知った影だったからだ。
「・・・沖田さん?そこで、何してーーー」
はっ、と息を飲む。青年の顔や体の至る所に、赤が、飛んでいた。
「・・・っ怪我をしたんですか!?早く見せてーーー」
駆け寄ろうとする烈に、閃が制止する。
真意を探ろうと、閃を見ると、閃は首を振った。
「・・・返り血だ。」
かえり、ち。
ふさぎ込む青年の赤は全て返り血だと言う。
これだけ出血したなら、相手は恐らくーーー
「・・・閃、水を持ってきてくれるか。」
静かに沖田を見守っていた閃は、こくり、と頷いて水を取りに行った。
「思ったよりーーーー思ったより、辛いですね。人を斬る、というのは。」
人形のように躊躇なく人を殺す沖田。
そんな文を何処かでみたことある。
やっぱり、この人は人間だ。
どれだけ剣がうまくても。
「・・・ある猟師が、狸を射殺しました。なんの良心の痛みもなく。その狸にも、家族が居ました。やがて大きくなったその狸の子供は猟師を殺したそうです。何方が悪いと思いますか?」
沖田の隣に座り込む。月が綺麗だ。
静寂が心地良い。
「・・・ちなみに、今晩の夕餉は、魚の酢締めです。ねえ沖田さん。私達人間は、何の罪の意識もなく、日頃命を喰らうんです。魚、鳥、狸。命を喰らって生き延びるんです。私達人間と、同じ価値の命を。だってそうでしょう?みんな、みんな一緒だ。生きてる。」
沖田はじっ、と此方を見つめていた。
息が白い。3月といえど厳しい夜冷えだ。
「喰らった命の分だけ、生き延びるんです。そうして生きていくんです。私達人間は。相手が人間なら、その人間の名が恥じる名にならぬよう、立派に、強くなるべきではないでしょうか?
名のある武将に命を刈られた方がまだ冥土の土産話になる。落ち込む暇があるなら、誰よりも強くなるべきではないですか?」
烈の言葉に、沖田は一瞬顔を歪め、そして笑った。
「・・・貴方は、誰よりも現実を見ていないようで、真っ直ぐ見ている方のようだ。」
夜空には満天の星が輝いていた。
あの時代では見ることが出来ないだろう、満天の星。何も邪魔する物などない、綺麗な星。
沖田は何も言葉を発する事なく、静かに夜空を見上げていた。




