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上手く立ち回ればなんとかなる

深夜。月夜が綺麗な晩、烈は布団を抜け出して縁側に座った。

登喜が作った夕飯は美味しかった。

閃が作るのでも、鈴が作るのとも違う。

暖かい、味。


『夕飯は小林さんに任せたわ。食べておいてね』


ズキ、と頭痛と共に記憶が蘇った。

嫌な、記憶。

姉と暮らすことになったあの日に今までの事は全て諦めようと決心したのに。


(比べ物にならない・・・)


自分が持つ記憶は「普通」と比べるには余りにも差がありすぎる。

ここ、は。


ざっ、と足音がして、意識を覚醒させる。

視線の先では、ジョンが月明かりの下立っていた。

最初は旗かと思った、ジョンの背景、木の中間。そこには、狐が静かに見下ろしていた。



「・・・っ!」

長巻はないが、懐に鉄扇と紐がある。

ジョンは狐の存在に気付いていない。

力いっぱい地面を蹴った。


ジョンのすぐ後ろに迫る切っ先を弾き、間に入る。漸く事態を察したらしいジョンが顔を真っ青にして叫びを上げた。


『なんだ・・・!?何が起きた、烈!』


ジョンの質問に答える暇はない。此方は鉄扇。分が悪い。

次に迫り来る二波を鉄扇でなんとか捉える。

なんで、こいつは此処にいる。長州側だと確かに先日言っていたが、あの後すぐ出航した?


「・・・邪魔しないでくれるかな?今夜は君に用がある訳じゃない。」


「この人は殺らせない。もう誰も、死なせない。」


「ほざいてろ。」


狐が振り上げるより速く胴に蹴りを入れ込む。だがそのお陰でジョンと間が出来てしまった。狐はひらりと人知を越した高さで跳んだ。


『ジョンっ!逃げろ!!!!』

烈の必死の叫びにジョンは尻餅をつく。

がたがたと顔を真っ青にして後退をする。


・・・間に合え!


烈が起き上がるより速く、ジョンの頬に紅い線が走った。

「・・・・っ!アアァァァアアァァァ!!!」


遅かった。叫び声が上がる。

「・・・ちきしょう!」

狐に鉄扇を開き、一閃する。

だがそれよりも速く、狐は烈の胴に肘鉄を喰らわせた。

夕餉を吐き出しそうになるのを堪え、その場に倒れこむ。

重い一撃が烈を一瞬動けなくさせた。



「・・・さようなら。」


酷く落ち着いた、簡潔な言葉が夜の闇に消えた。

『元の時代に返してくれ!神よ!もう散々だ!助けてくれ!れーーーーー』


さようなら、は左様ならば、仕方がない。の略だと何処かで聞いた。そんなどうでも良い事が頭をよぎった。


烈。という名前は最後まで紡がれずに、烈へ助けを求める手は伸ばされたまま、ジョンは、異邦人は。






消えた。



「・・・・ジョン?」

伸ばした手は宙を切る。だがその先の丁火は、此方へと向きを変えた。


「心配しないで。僕は、馬鹿な子孫の過ちを戻しただけ。慣れないこの時代で、君は随分と融け込もうと頑張ったみたいだね?そして彼よりも頭がきれたから、上手く立ち回ってる。」


「何の話ーーーーー」


「君の事はあの馬鹿に任せるよ。自分の能力も何も知らない馬鹿に。本来ならあの馬鹿も殺さなきゃいけないから、僕に殺されるか、あの馬鹿が自分の力に気付くか、どっちかだね。」


にこ、と笑いながら淡々と話す丁火に、悪寒を覚えた。知っているーーー?この男は、全てをーーー?


「・・まあまた会おうか。次は、舞台が整った場所で。それまで静かに暮らすと良いよ。分かってると思うけど、間違っても歴史に名前を刻まないように、ね。」


其れだけを残して、丁火は烈の前から消えた。待て、ともう一度伸ばした手の先には、闇が広がっていた。

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