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酒で悪酔いする奴は何か抱えてる

「大丈夫かい?烈。随分気分が悪そうだけど。」

良順に気遣わしげな視線になんとか答え、船の甲板で烈は座り込んでいた。

風が涼しい。てか気持ち悪。

だがどうやったってこの揺れる船からは逃れられない。


ふっと視線を横に向ければ未だに塞ぎ込んでいる閃が目に入った。

あれからすぐ長崎の良順の養生所で問題が発生したとかで、船に乗り込み三人は長崎へと向かっていた。

烈はなんとか気持ち悪さを胃に押し込み、立ち上がる。


そして閃の目の前に座り込むと腕の包帯を解いた。

「・・・見ろ。」

ぽつり、と呟くと、閃は虚ろな目で閃の傷を見た。

「・・先生に手当てして頂いたんだけどよ。幸い、神経は切れていないらしく、後遺症も遺らず治る、とさ。なあ、閃。俺たちは全く歯が立たなかった訳じゃないだろ?俺は・・・まあ、着物だけど。斬る事ができた。そして殺される筈だったが殺されずに済んだ。・・お前の、無意識による賜物だが。

全然、相手にもならなかった訳ではないだろ。」


閃がぐ、と唇を歪めた。


「強く、なればいい。

今よりもっと。鍛錬に力を入れればいい。

お前だけなら無理かもしれないけど、俺も・・・二人でやれば、なんとかなるだろ?」


そう優しく声をかければ、違う、と帰ってきた。

「・・・いや、そうだ。そうだけど・・・違う。俺が怖いのは・・・お前に怪我を負わせることだ。お前が、怪我をした事だ。」


蚊の鳴くような弱弱しい声でそう、閃は述べた。

へえ。そんなこと気にしてたのか。

少し意外な回答に、烈はにっ、と笑った。


「なら強くなれ。それから、強くして見せろ。俺を。そうしたら怪我をしない。お前が怪我をしたなら、俺が治してやる。お前が背中を預けれるくらいに、強くして見せろよ。」


ごんっつ!!と、威勢の良い音がして、頭に痛みが走る。

「・・・・っつてえ・・・・」

思わず頭を抑えると、閃が立ち上がった。


「自惚れるなよ。何怠け発言している。お前自身が強くなるんだ。今よりもっと鍛錬を積め。大体お前が貧弱すぎるからいけないんだよ西洋かぶれめ。船如きに何弱音を吐いている。バカバカしくなったわ。」

どうやだ頭突きをかましてくれたらしい閃は、目元を赤くして此方を見ないままそう言い放った。


「・・・行くぞ。船上でも出来ることはある。時を無駄にするな。」

スタスタと船内へ歩いていく。素直じゃない後姿に苦笑した。


「・・・いい相棒だね。」

良順をくすくすと笑っていた。


「まあ、俺の方が年上なんで拗ねさせてやらないと。」


閃の呼びかけに、烈も続いて船内へ入った。



* * * *


長崎に着くと、良順の子供の銈太郎けいたろうと妻、登喜(とき)が出迎えた。


登喜は我が子に久方ぶりに出会ったかのように二人の訪問を喜んでくれ、早速腕を振るわなくちゃ、と勝手場に立っている。

その間に問題の方を解決する為、良順と閃、烈の三人は座敷に座っていた。


どうやら問題というのは夷人が養生所の先で倒れており、放って置くわけにも行かず、人の良い登喜は言葉が分からないながらにも世話をしていたらしい。


烈は夷人の姿を見て驚いた。

この時期には薄ら寒い半袖にジーンズ。その上から羽織を羽織り、腕にはデジタル腕時計。金髪青目はこの時代と変わらないだろうが、格好が明らかに違う。


「please.help me!where am I?(助けてくれ!ここはどこだ!?)」


恐らく年齢は烈とそう変わらないであろう青年は困ったように訴えかける。だが良順は困惑していた。


「・・・先生?」


「・・・蘭語(オランダ語)じゃあ、ないな。似ているが・・・」


困ったように良順がそう呟いた。

彼が話しているのは英語だ。この時代は習うとしてもオランダ語を習う。医学はオランダから流れてきたのだから。だから当然だ。


『あなたは西暦何年の場所に居ましたか?』

英語でそう問えば、話が通じる人間が現れてホッとしたのか外人は涙を流しながら烈に抱きついてきた。


『おお・・・!英語が分かるのですね!ここは日本ですよね?私は2013年の日本に居たはずなんです!私は・・・そう!大学の友達の家にいたら地震に遭って、気が付いたらここに居ました。

明らかにここは私の知る日本ではありません。教えてください。何が起きているのですか!?』



早口の英語でそうまくし立てられ、とりあえず落ち着くよう促すと烈はゆっくり話し始めた。


『・・ここは、凡そ150年前の日本です。そして私は2015年。つまり、貴方の二年後の世界からここに飛ばされてきました。原因は分かりません。』


烈の言葉に外人は哀しい声を出した。

『なんという事だ・・・そんな・・・・本物のサムライの世界へ来てしまったというのか・・・』


『・・・この世界の日本は外国を嫌います。あなたはオランダ語は出来ますか?』


外人の背中を摩りながらそう問うと、外人はこくり、と頷いた。


『なら、オランダ語を話してオランダ人の振りをした方が良い。斬り殺されます。この世界の日本は法体制が整っていません。』


烈の言葉に外人はOK.と呟いた。


『・・俺はスミス。ジョン・スミスだ。貴方は?』


『・・五百夜 烈。』


『これからよろしく頼む。烈。』

外人が烈の手を大切そうに両手で包み込み、願うようにそう言った。

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