涙じゃなくて血
それはスローモーションのようで
それは世界の一部を切り取ったようで
それは非現実のようで
それは現実だった
「・・・・佐々木!!!!!!」
永倉が叫びながら狐を追う。
綺麗に一文字に、
切り裂かれた。
永倉が叫ぶと同時に火が辺りを包んだ。
どうやら閃が放ったらしい。
火は蛇のように地面を這い、狐に向かってゆく。
青。青白い光の、綺麗な炎だった。
心を癒すような、そんな、色。
「・・・驚いたな。使えるのか。しかもこいつはまずい。」
丁火はそう呟くと、ぶわっ、と赤い炎で第一波を防ぎ、二波目から飛び退いた。
「・・今夜は失礼するよ。やっぱり。・・・そこの馬鹿に言っといて。無意識下ではいつか身を滅ぼす。そうなる前にお前の命を刈り取る。・・・・じゃっ。」
なんとも不気味な言葉を残し、狐は消えた。
気付けば辺りの炎も消えていた。
「・・・っ!動かすな!手当てします!」
はっ、と気付いた烈は慌てて桐箱から短刀を取り出し、着物を切り裂く。出血が酷い。
「新八さん!これで傷口を抑えて名前を呼んでください!平助!提灯で手元を照らしてくれ!左之!良順先生を呼んできて!沖田さんは閃をお願いします!」
ズキッ、と腕が痛む。
しっかり、しなければ。
興奮でぼんやりとする頭の中で必死に縫合の準備をする。
血が止まらない。明らかに出血していい量を超えている上、血で傷口がよく見えない。顔色も悪く、呼び掛けには答えない。
やめろ。やめてくれ。
生きろ。生きろよーーーーーー
掌から、命が溢れてくーーーーーーーーー
* * * *
「・・・烈、腕を見せなさい。」
良順がゆっくりと部屋の隅で塞ぎこむ烈に話しかけた。
烈は反応しない。
良順は溜息をついた。
佐々木は、死んだ。
出血多量だ。遺体を引き取った原田らは、静かに診療所を去った。
閃もまた、腕を傷付けたらしい烈にショックを受けて部屋に引きこもっている。
「・・・・烈。いいかい?医者をやっていれば、いつか今日みたいな事が必ず起こる。目の前で命が消える事が。・・私たちに大切なのは、その後だ。」
ぽつり、と良順が語り出した。
「私たちは、仏様でもなんでもないんだ。そもそも、人が死ぬのは自然の理。それを、自分達の持てる知識でどう抗っていくかが私たちの仕事。そして、どれだけ人間らしく、死なせていくかも、私たちの仕事。
最後まで自分を死なせまいとしてくれる人がいたなら、救われるだろう?」
ぽろり、ひとつ。
「自分に知識がないばかりになんて、思ってくれるな。全力で手を尽くしても救えなかったのなら、それがその人の定めだ。あとに一つや二つ、あれで本当によかったのか、なんて疑問が残るやもしれない。そんな時はーーーーーーーー
ひたすら前を向いて、生きろ。」
ふたつ、みっつ。
頬が熱い。年をとったからか、最近涙腺が緩くて困る。
じわり、とあとからあとから涙と一緒に言葉にならない複雑な感情が入り混じって、言葉に詰まる。
必死に抑えた感情は、洪水のように流れてきた。
「・・・・はい・・・っ」
もう、大人だとか、ダサいとか、考えられなくなって、ただ、体が涙を流すから、悲しくて悲しくて仕方なかった。
ぽたり、と水滴が畳にシミを作って吸い込まれていった。




