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大体皆人の話をよく聞かない

芹沢を松平が咎め、近藤がすまなそうに謝り、歓談もそこそこに顔合わせは終わった。


暗闇が忍び寄る。どうやら真冬よりは日は長くなっているらしい。紙子羽織をぎゅっと抱きしめ、三人は夜道を急いだ。


「・・・・!烈!」


異変を察知したらしい閃が長巻に手をかけた。一拍遅れて烈も。

ちょうど小路に差し掛かっていたので、前方と後方から気配。

烈は後方、閃は前方へと良順を間にして回る。ついに囲まれた。


「先生、ここでは分が悪い。走り抜けます。俺の背中を見続けて下さい。行きますよ!」


閃の言葉に良順が頷き、閃は提灯を投げ付け烈が威嚇の短刀を投げた。


それが合図となり、相手は武器を振るってきた。


ーーー槍!?

予想外に長い。避ければ良順に当たる。

歯を食いしばり、長巻で此方へ届く前に上から一閃する。だが相手は一枚上手らしい。渾身の拳が飛んできた。頭がちかちかする。だが怯んではいられない。どうやら烈の最大の敵は槍の使い手のこの男らしい。体勢はそのままよけつつ短刀を懐から取り出して重心を低くし、下から上へと降り、その勢いで刀を放つ。


「・・・・っ!」

意外だったのだろう。相手が息を飲んだのが分かる。血の匂いと悲鳴で、どうやら後ろの雑魚には当たったらしい事が伺えた。手応えがあったので槍の使い手の男の服ぐらいは切れただろう。放った手を下に降ろし、槍を掴む。武器さえ封じてしまえばなんとかなる。


その読みはハズレた。

男は予想外に力が強かったらしい。

そのまま上へと持ち上げられ、腹に槍の棒が食い込み、吐き気がした。生まれて初めての浮遊感に脳が情報を取り込むも、訳がわからない。


「・・・っ、あ!」


地面に叩きつけられたらしい。身体中が痛い。隣へ首を向ければじゃり、と土独特の感触。

漸く情報を取り込めそうになった時、槍の使い手は止めを刺そうと此方へ上から槍を振り上げていた。



「〜〜〜〜〜〜っ!」


ごろり、と身体に鞭打って一回転し、なんとか避ける。隣にさく、と槍が刺さった音がした。ぴり、と痛みが走る。反応が遅かったか頬を少し切ったが問題ない。


死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った!!!!!

泣きそうになりながら立ち上がって良順を追う。生きてて良かった。一生の武勇伝にしよう。


なんとか避けた自分を精一杯褒め、冷たい夜道を走る。槍の使い手は追ってはくるが、此方の方が速いらしい。そりゃそうだ道ではない道を走っている。飛んでいると言った方が早いか。それに閃から日頃言われ、闇夜に紛れやすい藍に染めた紙子羽織を着ている。良順に迫る兇刃を長巻で振り払い、背中を守る。


前方は苦戦しているらしい。良順の動きが止まっている。そこへ新たな殺気が烈の方向に加わり、先手必勝、と攻撃をしかける。だが簡単にいなされ、居合いを繰り出された。達人級だ。

やむを得ん、と判断し、長巻を口にくわえて鉄扇でなんとか防ぐ。

口にくわえて、と言うが長巻はかなり重い。歯が折れそう。だがこれを正確に捌かなければ死だ。鋭い金属音が上がる。


ーーー腕がおれる。

そう直感するくらい斬撃は重く、鋭い。

そこに先の槍男が追い付いた。

ーーーーマジかよっ!?


達人級が二人。

一貫のお終いか。

だが良順だけはなんとか逃がさなければ。

腰を低くくし、重心を下げた所で鋭い声が上がった。


「ーーーーっ!止めんか!この方をどなただと心得る!幕医の松本良順先生であらせられるぞ!」


どこかで聞いたことがある声。

場がぴたり、と止まり、振り向くとそこには、提灯の火に照らされる近藤がいた。


「・・・っ、はあ?幕医ぃい!?」

突然、槍の使い手が頓狂な声を上げた。


暗闇で良く人相が見えなかったが、よく目を凝らせば美形な槍の使い手は、此方を疑いの眼差しで見てからしまった、と顔を真っ青にした。


「・・・っ!!!すまねえ!!!怪我させちまったっ!!!」


凄い勢いで男は手をあわせてきた。さっきまでの殺気は何処へやら、土下座しそうな勢いだ。


「い、いや此方も其方へ怪我をさせてしまって・・・」


慌てて謝罪を止めるべく、声を発する。出てきた言葉はなんともありきたりだが。


「・・・へえ。君も、うちの者に怪我を。」

ぽつり、と静寂を切り裂くように儚いような、優し気な声で呑気に呟いたのは閃が苦戦していた男だった。この時代にしては長身だ。


「間違いとはいえ、此度の仕打ち、誠に申し訳ございませんでした。良順先生のお弟子や護衛に怪我をさせてしまった事、この身で償えるものならば幾らでも償います。」


男は丁寧にも謝罪をし、近藤に向き直る。


「・・・近藤さん、良順先生は良い護衛とお弟子さんをお持ちのようです。」


男の声に、近藤は男を見ると顔をサッと青くした。


総司(そうじ)お前、怪我をしたのか・・・?」

信じられない、という声で近藤が呟く。よく見れば男の頬に赤い筋がある。


どういう訳か、一気に辺りがざわめき出した。


訳が分からない、と閃の顔を見る。すると閃の顔にも赤い筋が一筋、通っていた。


「怪我が酷いようなら手当て致します。どれ、見せてください。」


良順が慌ててそう声をかける。だが近藤はいいえ、と首を振った。


「総司はうちの道場では一番の剣術の使い手で、最近は滅多に怪我をしなかったので驚いただけです。其方は大丈夫ですか?」


近藤の言葉に良順は烈と閃を確認し、ええ、と答えた。


こんな状況下で閃は手加減をしたらしい。流石だ。此方は殺らねば殺られる!って気分で対峙したというのに。(確認したが、刀を投げた時の雑魚は腕を掠めたぐらいで大事には至って居なかった。)


「大変申し訳ない。どうやら刺客と勘違いしたようだ。なんとお詫びしたら宜しいか・・・!」


近藤が道の往来で土下座をしだした。

「・・・っ!?近藤先生、そんな事なさらないでください!」


慌てて良順が止める。

だが近藤は気がすまないらしい。絶対に頭を上げなかった。


「・・・弱りましたねえ。それでは、こうしませんか。今後如何なる怪我でも呼んでください。(くすし)とは怪我人を治すからこそ張り合いがあるというもの。それから、今度美味しい軍鶏鍋でも食べましょう。それで水に流す、そうしませんか?」


良順の言葉に、近藤は漸く顔を上げ、良順先生!と、良順の手を固く握った。

これが後の新撰組との出会いであり、烈の運命を大きく変える事になる出来事であった。

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