火って意外と興奮してると熱くない
「随分と色々な事を教えて頂きましたよ、彼には。奇遇な事に彼も医者だったようで、医学では随分お世話になりました。主に、脚気の治し方を。」
どき、と心臓が高鳴る。バレていたのだ。脚気を意図的に治療した事。
「・・・その方は、どこに?」
烈の質問に嘉六が俯いた。
最悪なビジョンが頭に浮かぶ。
そりゃあ、そうか。こんな時代に来たら誰だって一度は頭がおかしくなる。
夢じゃ、ないんだから。
「・・閃が目覚め、暴れた日の晩、突然消えました。血痕を遺して。」
嘉六の言葉に烈は頭を上げる。嘉六は烈の気持ちを理解したのか、ゆるゆると頭を振った。
「分かりません。元の時代に帰れたのか、はたまた閃に消されたのか。自ら消えたか。ただ分かることは、閃は奇術を使います。それも、覚醒、といいましょうか。平素の彼はそれに気付きませんが、意識を無くしたように暴れる時だけ。」
嘉六の言葉に烈は止めを刺された気がした。
元の時代に帰る気はない。帰りたくもない。ーーーー本当に?自分の気持ちが分からない。
それに、自分は異端者だ。本来存在してはいけない。話からするに、男は閃に消されたのかもしれない。いつか、自分も。
自分も?
「時渡り、という言葉をご存知ですか?」
突然の嘉六の言葉に、烈は頭を振る。
時渡り?言葉は理解出来る。だが別の意味があるのかもしれない。
嘉六はゆっくりと口を開いた。
「これは伝説にも似た、ある村に伝わる話です。ある狐が、女に化けて家族と近くの里へ繰り出した。だがその里は運悪く戦場の一部となった所で、狐と狐の家族は戦に巻き込まれ、里は焼きつくされた。
火傷で瀕死となりもはや死を覚悟した狐の所に、ある男が現れた。
その男は狐を助け、文字通り天涯孤独となった狐を救い出した男と、狐は青空の広がる黄金の雨粒が降る日に嫁入りした。
その狐と男の子供には、不思議な力が宿った。」
御伽噺のような話に、烈は言葉を補う。伝説だ。まるで、伝説。
「・・・時渡り。」
ぽつり、と零した烈に嘉六が頷く。
「狐は化狐となると火の玉を操るそうです。それから、時渡り。囁かれた理由は、ある日突然里から狐の一家が消えたからです。
それから、閃が暴れる晩の日は必ず天泣・・・天気雨が降っていた。
そして、閃の本名。天火の天は、狐が1000年生きるとなると言われる神獣の天狐からだと考えられます。
・・・・どうです?何か気付きませんか?」
「・・・閃は、時渡りの一族・・・?」
こくり、と嘉六が頷く。
「今は閃の一族は閃と閃の兄、丁火を遺して誰もこの世界には存在しません。」
丁火。繋げると、灯。
火を操る、彼ら。
「彼の兄、丁火は閃こそ殺し損ねましたが、母も、父も、妹も、祖父母も。血縁関係のある人間を全て皆殺しにし、鬼灯の頭となった。ーーーー閃の仇は、兄です。」
「元の世界に帰りたいならば、閃と離れない事です。いつか、何か手掛かりが掴めるかもしれない。」
そう残し、嘉六は部屋を出た。




