マジックじゃない科学だ
「うわぁあああぁあっ!!!」
真夜中に響く男の叫び声。
まるで隣の部屋から響いているかのように近い場所。
慌てて脇差を掴み、飛び出す。
隣の部屋からぼさぼさの髪で息子も長巻を持って出てきた。
二人で頷き合い、声のした方へ向かう。
「・・・!ありゃあ、殺人剣に、奇術か・・・・・?」
事態を目の当たりにし、斎泉が目を見開く。
嘉六も思わず息を飲んだ。
其処には、先程手当をした少年が刀を見知らぬ男に向かって振り回している光景があった。
刀は真っ直ぐ、淀みがない。
純粋に、純粋に。
唯、人を殺すための刀だった。
男はなんとか避けている状態だった。
奇妙なのは刀の先が燃えている事だ。
刀が発火?いや、よく見れば少年の刀を握る手も燃え盛っている。だが肉が焼ける匂いもしなければ少年が暑がる素振りもない。
この目で見るのは初めてだが、妖か。
「〜〜〜っ馬鹿な事言ってないで助けなさい!」
嘉六の叫びに、斎泉は漸く二人の間に入り、少年を気絶させた。途端に炎は消える。
「大丈夫ですか?お怪我は・・!!!」
嘉六は更に驚いた。襲われていた男は見知らぬ服を着ていたからだ。
更に男は稚児のように短い。いや、坊主状態から伸びたといった所か。だが丁寧に切り揃えられている。
履物も見たことのない履物だ。蛮人?いや、同族の顔だ。髪も目も黒い。
刀に極端に怯えている。今にも気絶しそうに恐怖で顔が歪んでいる。
「・・お怪我は、大丈夫です?」
とりあえず、ともう一度声をかける。
男は何も言わず震えていた。
会話が通じる状態ではないと判断し、斎泉を呼んだ。
「斎泉!少年は私が運びますからこの方をうちへお連れしなさい。」
斎泉はち、と舌打ちしながら少年を下ろし、男を担ぎあげた。
* * * *
「ねぎ雑炊です。温まりますよ。」
まずは落ち着かせようと、暖かい雑炊を出す。男はがくがく震えながら、しかしどこか達観した表情で雑炊を受け取り、一口、一口と口に入れ始めた。
「・・・・気が付いたら、ここに居ました。」
男が何かをこらえるようにぽつり、と零す。火鉢の音だけが響いていた部屋に、男の低い音が重なった。
嘉六は男の顔を注視し、やがて口を開いた。
「私には夷人の旧友が居ますが・・あなたの格好はそれに似ている。だが違う。彼らの服より動きやすそうだ。それでいて、不気味です。単刀直入にお聞きします、貴方は何者ですか?」
嘉六の言葉に男はうなだれる。
短い前髪を垂らし、まるで何かを守るかのように頭を抑えていた。
「・・・私は、・・・。
信じて貰えないでしょうが、命を救って頂いた恩人に嘘を吐くわけにはいきません。
わたしは・・・・私は、
あ・・・I have come from the future.(私は未来から来ました。)」
誰かに聞かれたくないのか。男は咄嗟に外語で答えた。それも、解釈が合っていれば突飛な事を。いや、解釈は合っている。何故なら幼い頃自分は夷人に育てられたからだ。ならば。
呆けた顔をする斎泉を横目に、嘉六は口を開いた。
「・・・Do you understand that it happens from here?(これから先起こる事が分かりますか?)」
嘉六の質問に男はゆっくりと頷いた。
「・・ですが、未来が大きく変わってしまうので言えません。未来が変われば、歪みが出来る。証明する物もございませんが・・・・いや。」
男は思い出したように懐に手を入れ、何かを取り出した。
それは、細かな装飾ーーーなんの形かは分からないが。が、施された黒い小さな箱だった。
畳の上に居心地が悪そうにそれは鎮座していた。畳とは雰囲気が合わない。いや、この世界のどれとも。
男はその箱の蓋を開けた。だがそこには何もなかった。いや、 箱だと思っていた物は箱ではなかった。途端、ぴかっ!光が箱から発され、思わず刀に手をかける。今にも襲いかかりそうな雰囲気の斎泉を制し、男に説明を求める。
「害はありません。これはケータイ、と申しまして、これがあればいつでも連絡が取れるのです。・・・・今は、無理でしょうが。」
寂しそうに言う男は光る面を此方へ見せてきた。その面には本物そっくりに書かれた3人の男女の絵があった。
1人の男は目の前にいる男だ。その隣で笑っている女と見られる人物は、髪が肩口までしかなく、左耳のあたりで一つに括られている。下から突き出ている少年ーーーこれまた髪が短いーーーは、満面の笑みだ。家族?三人とも見たこともない服を着ていた。
「ほう。本物そっくりに書かれた絵だな。是非俺もーー」
カシャッ、と音がして、けいたいに興味を持ち出した斎泉が歩みを止める。
それから男はもう一度、光る面を見せた。
「・・・・!!!!!」
二人は息を飲んだ。
光る面の中に、斎泉が居た。
「信じていただけましたか?俺がーーどこの者であるか。」
それが初めての未来人との会話だった。




