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生きる為には惚けるのも必要

真夜中。烈は眠い目を擦りながら、指定された場所へと足を向けていた。

チキショウ明日朝早いんだよ疲れるんだよ。

ニート時代が恋しい。いや、ニート時代は睡眠が幸せとか思わなかったけども。


ぱき、と枝を踏みながらついた場所では、いつかのように嘉六が眠りこけていた。


・・・呼び出しといて寝るか、坊主。

このやろう、と悪態をつきながら嘉六に殺気を込めて殴りかかる。


パシッ。と、軽々と受け止められてしまった。



・・・うん、やっぱただもんじゃねえやこの坊主・・・・


「おやおや。眠りこけてしまいましたね。・・おはようございます。朝はパン派ですか?ご飯派ですか?」


ニコニコ、と笑う姿に内心イラっとする。相変わらずつかみ所がない。


「断然パン派ですけど。」


そこまで答えて、ハッとする。

パン?


パンなんて、嘉六が知っているのか?

いや、外国人と交流したことがあるなら説明がつく。うん、きっとそうだ。



「・・・今夜は冷え込みますね。エアコン付けて温まりたいものです。ホッカイロも欲しいですね。」



ドキン、と、鼓動がやけに響いた。

エアコン?ホッカイロ?この時代に、あった、っけ?



口が渇く。きゅ、と胸が苦しい。いや、何故だ?

何故嘉六は、そんな言葉を知っている?



相変わらずニコニコとした顔で、嘉六は続ける。


「あなたのコート、暖かそうでしたねぇ。出身は、東京ですか?」


とどめを刺された気分だった。

時間が止まったように、目の前が真っ白になる。

汗でびっしょりだ。背中も、手の広も。

なんで、知っている?なぜ、その言葉を。

いや、それより。

・・・なにか、いわなきゃ。何か。

何か、言え。


「・・こおと?とうきょ?何ですか?それ。」

出来る限り発音を濁す。

とぼけた顔を一生懸命貼り付ける。

今は、演じろ。

俺は、江戸の医師見習い。


そう念じて、頭を一気に回転させながら言葉を選ぶ。

生きるか死ぬかの、賭けだ。


「・・あなたはなぜ、閃が夜、裏の任務をするときに狐の面を被るかお分かりですか?」


話が見えない。

苦手だ。こういうタイプは。だが質問の意味が分からないなどと返してはいけない。

あくまでも、普通に。

ああ。いやだなあ。


「・・ただ単に、気に入っているからではありませんか。」


笑顔を貼り付ける。

考えろ。


「・・閃の本名は、天火てんか。兄の名は、丁火ちょうび。」

ぽつり、と嘉六が零す。


「少し、昔話をしましょうか。

私が診療所を開いて間もなくの話です。ある日、あの斎泉バカが、ふらりと私の診療所へ飛び込んできました。そして私にこう請うんです。こいつを助けてやってくれ、と。

ボロ布を抱えてきたと思ったら、その中に閃が居たんです。」


* * * *


「!?子供?どこで拾ってきたんです?可哀想に、衰弱している。」

慌てて清潔な布で体温を保温する。所々怪我だらけな体は、痛々しかった。


「・・・家事のあった家から数間の所に倒れていた。恐らく、脱出したんだろう。」


「〜〜っ事態は一刻を争います。斎泉、湯を沸かしなさい。それから鉗子用意!」

そう手早く叫び、名前も知らぬ子供の治療に取りかかった。


事件は、夜中に起こった。

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