親子は似る
「睦ー、もうこれ以上入んない。なんかない?」
「・・お前は荷物が多すぎだ。」
呆れ返った閃の表情に、眉を下げる。
仕方ない。だって現代のものを他人に見つかるわけにはいかない。これでも色々断捨離した方だ。
「お前は準備出来たのかよ?」
「当然だ。箪笥を売ればもう出発出来る。」
すっかり股引、脚絆、草鞋を履きこんだ閃は旅人だと一目で分かる。
あれから京へ出発するにあたり、護衛として閃も付いてくることになった。これについては安堵した。だが問題は荷物だ。金は閃に晒しの中に入れさせられた。
「必要最低限にしろよ。死ぬぞ。」
閃の言葉に最大に頭を働かす。解体書は必要。カルテは?いやでも症例に対する経過も記してある。医療器具もある。
小判が物が無くなった部屋の真ん中で、にゃあんとまた鳴いた。だが、雰囲気が変わった。
「・・・・フシャーーーーーッ!!!」
物凄い勢いで障子に向かって威嚇し出した。
「・・!?」
さっ、と閃が刀を構える。え、え?
ふ、と気配がして、刀に手をかける。閃はもう動き出していた。
背中に、衝撃。それから、閃の長巻が弾かれる音。
一瞬、だった。
首元のひやりとした感触に、遅れて恐怖心がやってくる。
低い男の声が辺りに響いた。
「・・・久しぶりだな。馬鹿弟子。」
閃はぎり、と歯軋りをした。
「・・・今朝会った。」
悔しそうにそっぽを向きながら呟く。
男ははは、と笑いながら烈の首から刀を下ろした。
その時、烈は襲撃者の正体を漸く目撃する事が出来た。
伸び放題に伸びた長い黒髪。冬だというのに常人よりは健康そうな褐色の肌。ボロボロでよれた服。腰には瓢箪。見た目は40くらいだろうか。首元に覗く傷跡や、手に握るただの木の枝。そこからも、雰囲気からも分かる。男は恐らく、烈が100人束になっても勝てない程、強い。
「・・ふぅん?お前が閃が拾ってきたっつーガキか。」
品定めをするようにじろじろと見られ、思わず後ずさる。ガキじゃないしもう21だし。いや、22?
「・・嘉六先生の息子で、俺の師の斎泉だ。ちなみに俺が匿って貰っていた寺の坊主。」
閃の紹介に、烈は驚愕する。
この小汚いオヤジと、嘉六が?
・・・・・親子?
「・・・っ、ええええええええ!?!?」
思わず声をあげる。
いや、聞いてたけども。
坊主?いやいや師?
頭の中がこんがらがる。
ええええぇええええ
いや、少し説明がつく。あの嘉六が人並み外れた身体能力を有していること。
「・・ま、京に発つ前に一回見てきたかっただけだがなぁ。・・・お前、まあまあ出来そうじゃねえか。」
ちら、と傷だらけの手と、首から覗く痣を見ながら斎泉が呟く。
大半が朝稽古で出来た傷だ。
満足気にうむ、と頷き、木の枝を持ち直した。
「・・来い。お前ら、纏めて相手してやる。」
すう、と空気が変わった。朗らかな雰囲気から、殺気。鋭く冷たい、だが挑発的な雰囲気に変わる。
ごくり、と唾を飲み込み、長巻を持つ。
「・・・手加減無用だ。お互いな。」
男はニヤリと笑い、そう言い放った。
「「・・・覚悟!!!!」」
* * * *
「・・っぷはぁ、やっぱ一仕事後の酒はうめえなぁ。」
男はしみじみとそう呟く。
それはもう、余裕綽々に。
斎泉の下敷きとなっている閃と烈は、悔しかったが何も言えなかった。
「閃!烈・・・おや?」
嘉六の声がして、襖がすうと開く。
さっ、と斎泉が危険を察知したらしく、閃達の上から飛び退く。だがそれよりも早かったらしい嘉六の拳が、斎泉の頬に減り込んだ。
「これから旅をする人間に何をしますか、このクソ餓鬼。」
ぺっ、と効果音がつきそうな顔をして嘉六が呟く。殴られた斎泉が頬を摩りながら立ち上がった。
「・・・これから奥義を教えようとしたんだよ。・・ったくいつになったらくたばりやがるクソジジイ。」
後半、ぼそっ、と呟いた斎泉の言葉を嘉六は聞き逃さなかった。
「・・久しぶりに暴れてみましょうか。腕も鈍ってきたら困りますし。」
「・・・上等だジジイ。」
始まったのは、すざまじい親子喧嘩。なんて可愛いものではなく、ある種の戦争だった。
袖が引っ張られた気がして、下を向くと、小姓の朝司があっちに食料の用意があるから見て、と呟いてきた。
閃と烈は座敷・・もとい、戦場を後にした。




