バカでも風邪をひく時はひく
「先生、お手紙です。」
冬だというのに薄着で暑そうな飛脚から貰った手紙を良順に渡す。庭で剪定をしていたらしい良順は、ん、と此方へ体を向けた。
白い封筒を渡すと、びらっ、と伸ばしてその場でなにやら読み出した良順に、烈はカルテの整理の続きをしようと背を向けた。だがそれは良順に呼び止められた。
「将軍家茂様よりの、明日方に城へ参れとのご命令だ。烈、支度してくれるかい?」
・・・・将軍?
ショウグン?
・・・・・?
「・・・はい、分かりました。」
にこやかに返事をし、物凄い勢いで部屋を出る。
それが、精一杯だった。
いやいやいやいやいいのか!?!?!?
俺、この時代の人間じゃないぞ!?!?てかボロ出ちゃわない????というかばれない!?バレたら拷問!?いやそうだ絶対そうだ。この時代の拷問は酷いものだと聞く。うわあああああああ嫌だまだ死にたくない。絶対死ねない。
また壁が一つ。まてえええええ
* * * *
誰にも相談出来ず。かと言って一人では行動出来ず。
深夜。烈は狐面を被って閃に会いに行く事にした。勿論陽動の意味合いもある。まだ鬼灯には狐火が二人いるとはバレてはいまい。
「・・よう、睦。」
壁に耳あり障子に目あり。念には念を。睦、と寺の土蔵の木造の柵越しに呼びかけた。
閃は暫く間を置き、なんだ、と問いかけた。久しぶりに聞いた気がする声は、少し生気がない。
「・・・ちょっと、相談に乗って欲しいんですが・・・・。」
* * * *
「・・・烈、大丈夫かい?こんな時に風邪をひいて喉が潰れるとは・・ついてないね。」
良順の残念そうな声が響く。
烈はこくり、と頷いた。
閃と話して出た答え。
喉を潰す。そうすれば何かを言う時など来ることはあるまい。
前に座る良順の背中を穴が開く程見る。
城だ。城に居るよ俺。上様にあうよ俺。
うわああああああああ
「上様の御成りである。頭を下げい。」
凛とした声が響き、慌てて頭を下げる。
衣擦れの音が響き、人の気配がした。
部屋の、空気が変わる。
触れてはいけないものに触れているような。
圧倒されそうな気分だった。
これが、将軍。
「・・面をあげて下さい。松本。今日はお願いがありまして、登城頂きました。御足労、感謝いたします。」
透き通るような低い声。まるで、少年だ。良順は更に頭を低くした。
「もったいなきお言葉・・・!」
良順に続き、列も頭を下げた。
徳川家茂。確か、生き永らえていれば良い政治をしただろう、と言われた人だ。
「・・おや?お連れの方は、初めて見ますね。」
一瞬、烈の動きが止まる。触れて欲しくなかったああああああ
どうする?さすがに上様とあらば話さなくてはダメか?どうする?どうすんの!?
「この者、五百夜と申しますが、ただいま喉をやっておりまして、話すことは出来ない故、申し訳ござりませぬ。」
ナイスフォロー!良かった!助かった!
将軍、もとい徳川家茂はふむ、と呟き、口を開いた。
「・・面をあげて下さい。五百夜とやら。今日は貴方にもお願いぎあります。」
家茂の一言に、漸く顔を上げる。怖いよぉおおあ首飛ばされないようにしなきゃああああ
そっ、と視線を上げると、そこにはまだ17.8であろう少年が座っていた。
こんな年の子供が、将軍ーーーー
責任もなにもかも背負い、立派に政治をしているというのか。プレッシャーに耐えて、全てを受け入れて?
頬を叩かれた気がした。だが次の言葉が大きく烈の世界を変えることになる。
「数日後、私は上洛します。その上洛に、2人には付いてきて頂きたい。」
(*上洛=入京。)




