押入れの中の匂いは人それぞれ
寒い。
ものすごく寒い。
現代っ子には辛い寒さ。てか耐えられん。
ヒュウゥウウウとすざまじい勢いで風が吹く。がたがたと脅すように戸が鳴る。
安全の為火鉢を消した部屋では、手足が壊死するのではないかと思う程寒い。
・・・各漫画の居候宜しく、押入れで寝れば少しはマシなんじゃないか?
寒さ故か、それとも日頃の疲れ故か。
そんな考えが湧いてきて、ついに烈は実行に移した。
押入れの中の下の段には烈のタイムスリップした時の荷物が入れてある。だが上の段はいつも布団を入れている為、空だ。
布団を上の段に敷き、早速寝てみる。うん、いけるわ。床の冷気が遮断され、少し暖かい。
おやすみなさい。心の中でそう呟き、戸を閉める。
・・・・ふにっ。
「ギニャアアァアアア!!」
物凄い感触と雄叫びがして、慌てて戸を開く。すると、下の段に小判が居て、尻尾を挟まれたようで此方を睨んでいた。
「ご、ごめん小判!」
慌てて小判を抱き上げようとすると、小判は烈の手を引っ掻き、スタスタと何処かへ去ってしまった。
どうやら小判は烈の上着やらを寝ぐらにしていたらしく、毛が沢山付いている。・・・明日にしよう。眠い。
そうおもいつつ、頭を上げる。
「ごぶっ!!」
頭に走る衝撃。それから痛み。丁度こめかみに襖が当たった。いや、刺さった。
更に容赦なく襖は刺さってくる。がた、がたと音を立てて。一体何が起こっているのか確認すべく、襖を抑えて原因を視線で探る。
そこにはものすごく寝ぼけた閃が反対側の襖をガンガンやっている景色が見えた。
「ちょ、閃!待て!痛い!」
烈の必死の抵抗に、やっと閃は手を止めた。
安心したのも、束の間。
顔面に閃のカサカサの手がめいいっぱい押し付けられた。
どうやら根元を消滅させようと言う思考回路に至ったらしく、物凄い力で顔面を押してくる。
「待とぅえ!こっひあけろ!てかおひふけ!ふぇん!」
「にゃあん」
小判の鳴き声がして、視線を上げる。するとざまあ見ろ、とでも言うかのような顔で閃の夜着の胸元から此方を見下げていた。
さっきの仕返しか?喧嘩売ってんのかこの猫。はええんだよ。明日はええんだよ。寝なきゃ死んじゃう体質なの。ニートには睡眠時間が必要なの。たまには睡眠時間あげないといけないの。
さっと閃の手に噛み付く。
だが閃はヤのつく職業をやってそうな、人を殺せそうな視線で烈を睨み、盛大に舌打ちした。
・・・少し、ちびった。かも。
ほっとしたのも束の間、首根っこを捕まれ、物凄い力で引っ張られた。
「おうぐぉっ!?」
世界が反転する。最後に見えた景色は閃が下の段に入る姿。息が苦しい。成る程、押してダメなら引いてみろ、か。いや、違う。え、え?
物凄い摩擦と物凄い衝撃。なんとなく心臓まで響いた。
「・・・・・。」
なんだか、うん。厄日だ。
腰を摩りながら起き上がる。痛い。
・・・ん?入った?
慌ててもう一度襖を開ける。
そこには丸まりながらすやすや寝息を立てる閃が居た。
その閃の下には此方へ来た時の荷物。
財布とか、携帯とか。
・・・待て。
これ、ヤバくね?財布に関しては、うん。なんとなく言い訳出来るとして、携帯は・・・my phoneはマズイ!いや絶対驚く。俺なら未来のものを見たら奇声発する。いや、気絶するかも。
更に運が悪い事に携帯は閃の目の前。
神よ!
人生で初めてこんな台詞は使った。いや、だけど。だって。
とりあえず、回収せねば。というか、こいつも押入れで寝てるんかい!めちゃくちゃ起こしたい。だが起こしたらもう確実に朝日は拝めないだろう。・・・うわあああああ
とりあえず、無難に手を伸ばす。
すると、はしっ!と白い物体がmy phoneを抑えた。・・・どうやら気になるらしい。
小判んんんんこんなんに興味持つなあえあああ
とりあえず携帯を引き抜く。だが手は付いてくる。ついには烈の手の上に居座った。
「・・んっ。」
全力で手を引いた。危ない。マジで危ない。どうやら閃は寝返りをうつらしい。
my phoneの上に、閃は頭を乗せた。
うそだるぉおぉお
小判は気に入らないらしく、しきりに閃の頭を叩く。
「・・っ!やめてっ!小判!お願い!殺されちゃう!」
必死に愛猫を抱き抱える。
こんなんでも愛しいのだ。殺されたら立ち直れない。きっと。
・・・寝させてくれええええ
* * * *
閃の1日は愛猫を撫でるところから始まる。
例に習い、手探りで愛猫を探す。
すると毛むくじゃらに突き当たる。だが、おかしい。毛が異様に長い上、球体だ。おまけに何時もは頬を擦り寄せるのに、それもない。
うっすらと目を開けるとそこには、隈ができた同居人の姿があった。
「・・・・何やってんだ?お前。」
「・・別に。」
とりあえず、殴っておいた。




