必殺技って大抵死なない
「・・お前、嘉六先生は・・・。」
土下座をする烈に、閃は困惑しながら近寄る。
そんな閃を止め、嘉六は烈に向き直った。
「・・・この先、如何なる事もこなし、努力する決意はおありですか?」
真っ直ぐ。
唯、真っ直ぐに烈の目を見た。
烈もまた、真っ直ぐ目を見つめる。
「・・・はい!」
そんな様子に、嘉六は微笑む。
「宜しい。丁度助手が欲しかった所です。宜しくお願いします。
町医者をやっている、外守 嘉六と申します。名前を聞いていませんでしたね。」
「あ・・・五百夜 烈です。宜しくお願いします!」
嘉六はにこ、と笑い、烈に向き直った。
「何処か、身を寄せる宛はおありですか?」
「あ・・・・いえ。」
すると嘉六は少し考える素振りを見せた。
そういえば、考えてなかった。
ニートだったし。ホームレスをこの時代をする訳にもいかない。
嘉六は顔を上げ、妙案だとでも言うように提案した。「それでは、閃。この方に宿を貸してあげて貰えますか?丁度、歳も近いようだ。」
その言葉に閃は少し驚愕する。
そして溜め息をつき、烈に向き直った。
「五百夜・・・と言ったな。」
「あ・・・はい。」
「働かざる物食うべからずだ。働いて貰う。・・・八々代 閃だ。」
烈はぽかん、としてから烈に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
良かったあああ人間貪欲に生きるべき!
首の皮一枚。
死ぬ気で働かなきゃ確実に殺られる。
働くしかない!ニートだけど。
頑張るしかない!ニートだけど。
* * * *
翌朝。烈は生き残る術を身に付けるべく、小刀で木刀を創り出した。
刺されて殺されても怨み言は言えない。
なら死ぬ気で誰よりもつよくなるしかない。
午前4時くらいだろうか。
烈は八々代邸で一心不乱に木刀を振って居た。
閃に言われた朝ご飯の準備の時間は一時間半後。
睡眠時間を削ってでも練習をするしかなかった。
ちきしょー、久しぶりに運動したよ。結構キツイよ。筋肉痛確定だよ。なんでこんな時代に来たんだこのやろう!
数々の怨みを籠めて刀を振る。
とりあえず来たからにはタダでは帰らない。
なにかを持ち帰る。
途端に、カツン、と何かが烈の近くの木に当たった。
それを理解するのにコンマ数秒。
何かを理解した時に叫び声上げるまでに数秒。鳥肌が立った。なんなんだ。なんで刀が木に刺さってんだ。
どこからーーーー
ひたり、と冷たい感触が首に伝う。
死んで、たまるかよ。
遥か昔、まだ烈が胸を張って世間を闊歩していた頃に習った、刀を持った相手への対処法。
一呼吸して、刀を持つ相手の手首の筋を強く叩く。すると一瞬緩んだ空気に、相手の手首を一気に捻りあげ、噛み付けば。
「五百夜流必殺技っつ!腕ーーうぉおっ!!??だあっ、おう!いってぇええええ!!!!!!」
ああ。確か俺、昨日まで順調にニートやってたんだわ。うん。そりゃそうだもん。
一人密かに泣きそうになりながら思考する。五百夜流って。必殺技って。いや、ちょっとかっこいいかな、って思って昔からあたためてた。
初めてかけた結果は自分の運動不足による腕の筋肉の釣りと、筋肉損傷でおしまい。ああ。脳内で描いただけじゃ上手くいかないな。迅速に対処すべき壁がまた一つ。
「・・筋を痛めたか?見せてみろ。」
刀を持った敵ーー
閃が、そう言って烈の腕を動かした。
「・・・恨みでもあるんすか。」
思わずそうもらす。
閃は問題ないと判断したのか、木から刀を抜きとった。
「量っただけだ。気にするな。」
そーじゃねえだろというツッコミは置いとく。どうせ相手しない。
閃は刀を鞘に差し、扇子と共に烈の前に差し出した。
「長巻と仕込み刀だ。何れ必要になる。持っておけ。」
烈はぼんやりと刀を受け取る。
よく見る刀ではなく、刀身と同じくらいに持つ所がある長い刀だ。
「長巻は薙刀術だとよく言われるが、お前にはこれが合うだろう。生憎、これしかあまりはないしな。自分の身は自分で守れ。」
その言葉に烈は口を引き結ぶ。
結局、最後に頼りになるのは自分自身ーーーーーーー
「・・はい。お気遣い、ありがとうございます。」
烈は刀を前に置き、そうつぶやく。
閃は目を逸らし、支度をするぞ、とだけ言った。
どうやら約束の時間になっていたらしい。
朝日が烈の頬を照らした。