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嘘つきは政治家の始まり

熟年の医者は患者の嘘を見抜ける。



「おや。薬はちゃんと飲んでいるかい?お里ちゃん。」


「・・は、はい。きちんと飲んでおりますわ。飲まなければ治りませんもの。」



というけど、大体見抜けると思う。

こんなにあからさまで下手な嘘は。


女は目を見て嘘が言える、とは言うが、目を見ながら物凄い貼り付けた笑顔で笑う少女に、良順は苦笑する。


良順の横では烈が診断を書き取りながら半紙をぐしゃっと一枚、思わず握り潰していた。


「そ、そっか。それじゃあ、また同じ薬を出しておきますから、今迄通り安静にして、滋養の付くものを食べて下さい。」


ありがとうございました、と今にも倒れそうな程辛そうな彼女は可愛らしい犬の根付を揺らしながら一礼し、去って行った。


「・・・彼女、確か軽い風邪でしたよね。それから、軽い肺炎になった、と。・・薬、飲んでんですかね。」


良順の診療所へ通うようになって約一週間。閃の家から遠いのも相まって、烈は疲れが溜まっていた。それ故か、すごくイライラする。

いるよなー医者行くのに薬飲まない人。

それで悪化するんだよな。医者の言うこと聞かなくて。彼女の場合は肺炎になりかけの状態だから薬飲んで安静にすれば少しは回復する筈だ。


良順は苦笑いした。

「何か特別な理由があるのかもしれませんし。様子を見ましょう。」


良順の言葉に、烈は疲れた顔で頷いた。


* * * *



あー疲れた。すげえ疲れた。

そんな事を思いながら夜道を歩いていた。

今日は夕飯をご馳走になったからすっかり遅くなってしまった。こんな夜道を歩いてるのは辻斬りくらいだろうな、なんて、ぼんやりと考えていた。



目の前を、何かが遮った。

「・・・っ!?」

閃に散々身につけさせられた条件反射で、長巻を構える。暗闇の中、夜に溶け込む狐はゆらり、と立ち上がった。


「・・・なんだよ、閃か。びっくりさせんなよなぁ毎度毎度・・。」


安堵の息をつきながら、狐の面を外す閃に言った。閃がいつ来てもいいように、風呂敷の中に解剖書と共に黒い着物が一着、用意してある。血の匂いはしないのでただ人目を憚る任務だったのだろう。


烈が風呂敷を渡すと、悪い、と面を先ず風呂敷に入れ、いつも狐の面を付ける時に来ている、長着着物の裾を短くしてたくし上げ、動き易くすることを重視した黒の着物を裏道で脱ぎ、黒い股引の上から通常の黒の長着着物を着た。


髪の毛をいつも結っている位置で結うと、 烈から襟巻きを取り上げ、自身の首に巻いた。一気に容赦ない冷気が肌を突き刺し、ぞわり、と思わず身震いをした。


「・・・!?何すんだこら!さみーだろ!」

「いいだろ。紙子羽織あるんだから。」



まるで煩い、とでも言うかのように閃がすたすた歩き出した。何時もの烈なら下がっていただろう。だが生憎、烈は昼間の事で腹が立っていた。


襟巻きを引っ張ると烈は自分の首に巻き付けた。閃は対抗意識を燃やしたのかなんだか知らないが、烈の首から少し襟巻きを引っ張り、首に巻き付けた。すると、二人の間にたらん、とした橋が出来た。



おいおい。付き合いたてのカップルじゃねーんだよ僕達の間には誰も邪魔できない橋があるのよってか。やめろよそういう趣味ないから。


「そーゆーの別んとこでやって貰えますかねとりあえず!俺はさみいんだよぉお現在に吹く仕事という名の冷たい風からこいつは守っくれるんだってよ。」

「・・・頭、大丈夫か。」


まるで可哀想な人を見るような閃の顔。

疲れと怒りが一気に増大した。


「・・・あ?」

睨みを効かせようと、閃を睨み付けた、時。



柳の向こうに、一人の少女が走っていくのが見えた。

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