行く年来る年明けちゃった年
年末。大晦日。すっかり日が暮れた子の刻。
閃との暮らしにも大体慣れ、閃の性格も分かってきた。
閃は眠くなると機嫌が悪くなる。
「閃。俺月見蕎麦食べた「あ?」
地の底から這うような声。
めちゃくちゃ不機嫌。こわい。
「いやあ、なんでもないです。普通の蕎麦3つ。」
烈達一行は、蕎麦屋に年越し蕎麦を食べに来ていた。ここは鈴に教えて貰った穴場で、人もあまりいないが、味は絶品だ。
「今年も一年、無事に終わりましたねぇ。」
嘉六がふう、と息をつきながら感慨深そうに呟く。同調するように閃が寝ぼけ眼でこくり、と頷いた。
もうダメだな。閃は健康児体質だから。
仕事がない日とのON.OFFが激しい。
除夜の鐘が鳴る。
「おや。そろそろお寺さんに行きましょうか。」
嘉六の言葉に烈は急いで蕎麦をかき上げる。
閃はうつら、うつらと舟を漕いでいた。
「ほら閃、急げ。年越しは寺行くぞ。」
そう言い、隣の閃の肩に手を乗っける。
その瞬間、閃はこの世のものと思えない声と人間のものとは思えない身体で手を跳ね返し、威嚇した。
「・・・・・・閃?」
「おやおや。ご機嫌斜めですねえ。閃?行きますよ?」
嘉六が溜息を吐き、閃を揺さぶり起こす。
すると、また地獄の底から這うような声が聞こえた。
「貴様のブツ切り落としてやろうかクソ坊主頭。」
「・・・・・・。」
亀裂が入った瞬間だった。
やばい。やばいよこりゃ。
腹黒坊主とドS達人。
やっべえええ逃げたい
「・・オイタが過ぎますよ。閃。」
嘉六は笑顔でそう呟くと、物凄い速さで頚椎のあたりに一閃入れようとした。
だが閃は一突きで肩を突いて止め、ギロリと一睨みした。
「ほう。やりますね。」
嘉六は愉しげにそう呟くと、箸をひゅ、と目にも止まらぬ速さで投げた。
閃は危険を察知したのか、飛び退く。
箸はめり、と地面にめり込み、びぃいいぃいん、と凄い振動をさせながら刺さっていた。
・・・・こんの坊主頭、タダモンじゃねぇええええええ
箸が減り込むなんて芸当、普通の医者に出来てたまるかぁああああぁあ
「ちょっ・・・落ち着いて二人とも!年明けちゃいますよ?」
いい加減、マズイ。
体裁とか、店の人の視線とか色々。
閃の動きを止めようと、服を掴む。
だがうつら、うつらと舟を漕ぎながら、弁慶の泣き所に蹴りを入れてきた。
「おうっ!?」
泣きそうな程の激痛。
なんだコイツ。なんなんだこれ。
寝てねーだろ起きてんだろ!
なんでこんな目に会うんだ。
「どきなさい、烈。少々お灸を据えて差し上げます。」
椅子から嘉六が立ち上がる。
待て。こんな二人に暴れられたらひとたまりもないぞこの店。
「待って下さい師匠!落ち着いて!閃なら俺が仕留めますから!」
「・・・・聞かねえか、どけ。あのガキ解剖して河原に晒してくれるわ。」
物凄い寒気。変わった口調。待って待って待ってえええガチで切れてんじゃねえかああああ勘忍袋小せえなこの医者。まじでどうしよううううううううう
緊張の後、2人が動き出した瞬間だった。
烈も、動き出した。
丁度、閃の拳と嘉六の蹴りが烈の頬と腹に入った。
ぼぉ〜ん。
新年を告げる108回目の鐘が、鳴った。
あ。年明けた。
閃がはっ!と漸く意識を覚醒させ、嘉六があら、と丁度呟いた時だった。
「・・・烈?これは・・」
閃が不思議そうに周りを見つめる。
嘉六は大丈夫ですか?と声をかけた。
「・・・・・もう勝手にやってろよ、俺はもう知らないんだからな!」
ガララララ。ピシャン。
烈が扉を勢い良く閉める音がやけに響いた。




