表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/87

五十歩下がって二歩進む

たんっ。小気味よく、襖が開いた。

顔を上げると閃が居た。

持っている盆には夕飯なのか、茶碗と箸が影を落としながら乗っていた。


閃は盆を置くと隣の部屋から火種を行燈と火鉢に移し、烈の部屋の真ん中にどかっと座った。橙の光が部屋を包んだ。


「・・・なんだよ。」


変な空気に耐えきれなくなり、烈が口を開く。閃はなんでもないように箸を持ちながら答えた。


「一人で食う飯は不味い。」

そう言うと、白米を箸ですくい、咀嚼し始めた。


閃は何も言わず、ひたすら飯を食べている。


「・・・閃。あの、さ。俺、いつまでここに居ていい?」

ずっと気になっていた事。

声が少し震えてしまった。

手慰みに、小判をくすぐる。

にゃあん、とまた鳴いた。


閃は味噌汁を飲み込むと、口を開いた。

「・・・さあな。自分で考えろ。・・・ただ、一人で食う飯は不味い。」



はっ、と、。顔を上げた。

じんわりと心に何かが広がった。

単純な言葉。シンプルな言葉。

だが、烈にとっては希望にもなる言葉。



「・・・俺、さ。帰っても、誰もいないーー全員に忘れられた、一人ぼっちの人間なんだ。」


強い恐怖と孤独がよぎる。

佑の亡骸の下で泣いた。

灯の心臓を恨んだ。

孤独は、楽だけど、辛かった。


「・・・んぐっ!?」


口の中に何かが入って来た。

しょっぱい。

閃を見ると、ちょうど烈の口から箸を抜いたところだった。


「・・・俺も、帰る場所がないという点では同じだ。この一人だった家以外ない。」


「そういやお前、両親は?」

漬け物を飲み込み、烈が問う。


この家に来た時、閃は一人だった。


「・・・殺された。鬼灯の頭に。」


鬼灯。その言葉に聞き覚えがある。

涼が言っていた言葉だ。

親の仇、だったのか。


「帰る場所なら、ここでいいだろう。去りたくなったら去れ。ここなら、俺も先生も、小判も居る。飯も、働けば出す。雨風も凌げる。お前が何かに追われるなら、振り払うだけの力を付けさせてやる。」



閃の言葉に、不意に涙が流れた。

なんだよ。こんなの知らねえぞチキショウ。あの日悔しさと、恐怖に流れた涙以外知らない。嬉し涙なんて、人生で初めてだ。

あの日の、ボロアパートの続きのような空間。やめろよ、大の大人がみっともないじゃないか。



「・・ほら食え。生きるには飯だ。生きなきゃ何も始まらん。」

再び容赦なく閃が漬け物を突っ込んだ。



しょっぱくて、美味しかった。



* * * *


深夜。星がよく見える空の下、烈は歩いていた。


この季節だった。

全てを失ったのは。

この季節だった。

現実を見ることをやめて、後回しにしたのは。


手には徳利。

前に買った酒を入れていた。


月明かりに照らされた地面の上にどかっと座った。川がよく見える。


猪口を3つ、地面に置き、酒を注いだ。

「・・・姉ちゃん、佑にいちゃん。ごめんな、墓参り一回も行かなくて。俺さ、漸く現実見れそうだよ。帰る場所、出来たよ。・・・・・今まで、現実受け入れたら嫌でも前に進まなきゃいけない気がして、なんもできなかったけどさ。・・・俺、前に進むよ。」


猪口を一つ持ち上げ、乾杯、と上に上げた。

月が水面に映る。一気に飲み干し、がちゃん、と投げ捨てた。

他の2つはそのままがちゃん、と投げる。


「ーーーーさよなら。」


冷たい風が頬を撫でる。夜は冷え込む。だが、暫く水面を見ていた。


ふと、足音が近付く。


「たまには、一献交わすか。」

そこには髪を下ろし、猪口と徳利を持った閃が立っていた。


「・・・・おう!」


寒空と月明かりの下。

二人は盃を交わした。

前進の為の、盃を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ