寒くなるとおでんがしみる
「お兄ちゃん、久しぶり!」
小さな女の子が駆け寄ってくる。
これって俺、捕まるんじゃね?俺捕まらね?犯罪?いや、現代じゃないし大丈夫?
「ひ、久しぶりだねえ。お景ちゃん。具合はどうだい?」
ばふ、と小さな衝撃。山吹色の着物に桃の簪。超可愛い。
「大丈夫だよ!よくなった!」
にこ、と満面の笑みで笑う。幸せ。
頭を撫で、しゃがんで手当てをしてやる。
謎の高熱が出た際に痘痕が出来てしまい、定期的に治療している。顔からは引き、腕や足に残るのみだ。
「あのね!おうちに帰れるの!おかあさんといっしょだよ!」
無邪気な笑顔で景が言う。
手当てをしながら顔をあげた。
「生まれは信濃だっけ。よかったねえ。道中気を付けてね。」
「うん!お兄ちゃんはいつまでここにいるの?」
いつまで、か。
「家に帰れるまで、かなぁ。」
ぼんやり、とそう答える。
実際、帰ったら300円だけどな。残金。
この時代の小判売れば幾らだろう。
「そっか!お兄ちゃん、帰ったら何したいの?」
その言葉に手が止まる。
帰ったら、何したい?
・・・そりゃ、あれだよ。
そりゃあ・・・・
あ、れ?
「・・・なんだろう、ね。わかんないや!」
笑って誤魔化す。首がキュッと締まったみたいに苦しい。
「ふうん?なら、おかあさんとか、おともだちに合うと楽しいよ!きっと帰りを待ってるからね!だからね!はやくかえってあげてね!けいもしょうきちくんが待ってくれてるの!」
「・・・そっか、よかったね!」
笑顔を無理やり作る。
あれ?
おかあさん?
友達?
誰か、いたっけ?
何言ってる。はやく帰りたい。帰らなきゃ。いや、帰ってどうする?
急に目の前が暗くなった気がした。
こんな時代、いたって仕方ない、はずなんだ。いや、本来なら存在しちゃいけない。だから、はやく帰る。帰らなきゃ。
気が付けば暗闇が迫り、嘉六が今日は終いにしましょう、と声をかけた。
夜道を急ぐ。ああ。なんだかこの景色、生まれた場所に似てる。
「・・・〜〜〜っ!う、ええっ、!」
吐き気を催し、急いで橋にもたれかかる。
今日の昼と朝餉が川に流れて消えた。
気持ち悪い。口内が酸性だ。
はやく、帰らなきゃ。
「・・・・・」
どこに?
もたつく足を無理やりうごかし、なんとか家に辿り着く。
からりと戸を開けると、味噌の良い匂いがした。
「ただいま。」
一声、そうかけると小判が出迎えた。どうやら閃は調理場に居るらしい。足音が響いた。
「おかえり、烈。遅かったな。」
前掛けをつけた閃が現れる。
そういえば、閃の前におかえりを聞いたのは、誰だ?
ただいまを言ったのはいつだ?
考え出したら止まらない。
暖かい手料理を食べたのは?
鍋を食べたのは?
会話を、したのは?
「・・・今日は、ご飯、いいや。悪い。」
「・・烈?」
不審そうにする烈の横を通り抜ける。
急いで部屋に入り、押入れを開ける。自由にしていい、と言われた場所だ。
黒いシャツにジーンズが現れる。外見だけでも、変えたくて買った物だ。腕時計。ふわり、と学生時代の思い出が過る。
「ーーーっ!あ!」
声を必死に抑える。震えが止まらない。
誰か、誰か。
だ れ だ ?
涙が溢れ、恐怖心が心を満たす。思わず嗚咽を漏らした。
訳がわからない。訳がわからない。
やめろ、思い出したくない。
俺は、俺はーーーーーー




