秘密を持って女は綺麗になる
閃の怪我が完治した、師走某日。
二人は雪の降る裏道を歩いていた。
烈は藍染の着物に紙子羽織と襟巻き、
閃は黒の着物に紙子羽織を着込んでいた。
寒い。超寒い。足先の感覚がない。
閃は澄まし顔だが、烈は布を首に巻いて防寒していた。あれか。江戸っ子は我慢強いのか。
閃から貰った給金で紙子羽織と襟巻きを買った。それから、藍染の着物を一着。着物は閃のお下がりだが、いい加減一着くらいは、と買ったのだ。動き辛さには慣れたが、靴下履きたい。靴履きたい。絶対此方に来た時の靴の方が防寒性抜群だ。
息が白い。鼻も赤い。ついでにアカギレも。ハンドクリームが欲しい。
番傘には雪が降り積もって重い。
江戸っ子尊敬する。
「・・ここだ。」
閃の言葉に烈は建物を見上げる。
一見茶屋風の、二階建ての立派な建物だ。
閃は傘の雪を落とし、がら、と扉を開けた。烈も続く。
中は外よりはマシな暖かさ。家って寛大だ。
中から一人の娘が出てきた。
「いらっしゃいませ。ご注文ですか?」
「浮世を忘れようと、情に流されに参った。女を頼む。」
閃の言葉に、何言ってんだこいつ。と目を見開く。頭大丈夫か。
「はい、少々お待ちくださいね。」
少女はそう言い残し、奥に引っ込んだ。
そして慌ただしく出てくると、どうぞ、と二人を奥へ引き入れた。
ええええげつない。コイツも結局そういうタチか。綺麗な顔してやることやるんだな。
なんて、想像を膨らませた先には。
「あら。珍しいわね。いらっしゃい。」
四畳半ぐらいの和室の机の向こうに、涼がいた。
「合言葉だ。浮世と情は情報を表し、女はこいつを表す。」
閃が傘を壁に立てかけ、玄関らしき所に草鞋を脱ぎながらそう言った。
ああ。成る程。めちゃくちゃ吃驚した。
烈もまた草鞋を脱ぎ、座布団に座る。
「・・先月、医師の会合の帰り道、嘉六先生が襲われた。ざっと2〜30人だ。医師の情報と、元の情報を知りたい。」
閃の言葉に、涼は後ろの棚から一つ帳簿を出し、ペラペラとめくった。そして手を止め、帳簿を眺める。
「先月なら、蘭方医が数名、闇討ちされた。下手人が一名、捕縛されたようね。所属は、月影。漢方医に雇われたらしい。それが誰かは吐かなかったし、拷問の最中で何者かに殺された。恐らく、月影の連中だろう。・・・だが、どこもせいぜい2.3人だ。アンタのとこの先生は多すぎる。
護衛が居る事を考慮したとしても。恐らく、何かを知っているんだ。先生は。情報は時に命より重い。暫く注意しな。」
涼の言葉に閃は押し黙る。
「・・それから、最近、鬼灯が江戸で動いてる。」
その言葉に閃は目を見開き、懐から五両を取り出し、置いた。
「こっちは口止料だ。また来る。」
また3両を出し、立ち上がった。
「無茶するな。いくらお前とて鬼灯の一人たりとも勝てん。」
急に口調を変え、眼光を鋭くした涼に烈は驚いた。雰囲気も気のせいか違う。男のようだ。
涼の言葉に、閃は分かってる、とだけ呟き、部屋を後にした。
* * * *
「・・嘉六先生が知っていること、か。なんだろうな?命を狙われるほどの事は。」
烈が首を傾げながら呟く。うう。やっぱ寒い。
「さあな。上手くはぐらかすだろう。俺たちに出来ることは護衛だけだ。」
閃が表情の見えない顔でそう言った。
雪がはらり、はらりと舞う。なんとなく、斜め後ろを歩いていた。
「・・・なぁ、鬼灯、ってなんだ?」
いい加減、痺れを切らした烈が切り出した。
「殺人集団だ。気を付けろ。」
何でもないように閃がそう言った。
違う。聞きたかったのは、違う。
それくらい、閃にも分かるはずだ。だが、閃は何も言わない。きっと詮索されたくない事なのだろう。
人間には、詮索されたくない事など沢山ある。俺にも、だ。出生を聞かれたら答えられない。
「・・・よし、先生んとこで鍋でも食うか!」
烈の言葉に閃はこくり、と頷いた。
雪が掌で溶けて消えた。




