初めてのお使いは500円
「神経系をやられていますね。・・目を覚ますのはいつか分かりません。とりあえず落ち着きましたが・・どうやら剣に毒が塗られていたようです。」
嘉六の言葉に烈は項垂れる。
いくらなんでも無理だったんだ。一人では。
「あのうー・・八ヶ代さんの家ですよね?依頼の時間が過ぎてますが・・・。加鞍井です。」
1人の商人風の男が顔を出した。
・・依頼?
「これはこれは加鞍井さん。申し訳ありませんが、閃は動けなさそうで・・・」
「先生・・・そうですか。困りましたねぇ。道場の相手を頼まれていたんですが。・・・・・!」
加鞍井と嘉六の視線がバッ、と一気に此方へ向く。え?
ものすごく嫌な予感。そして冷や汗。
* * * *
逃げたい。やめてくれ。
人見知りなんだよ俺。
閃を尊敬する。本当に。
目の前には威圧感たっぷりの剣客達。
まってくれ。まだ初めて数か月なんだ。
「八ヶ代殿の弟子とか。どうも。剣術指南をしている二見です。今日はよろしくお願いします。」
がっしりとした体格に、がっしりとした手で握られる。
えええ。こんなんと混ざってこれから剣術の鍛錬をするのか。
ええええ。まじで?生きて帰れる気がしない。
「本日は、棒術の手本を見せてもらうだけで結構です。鞘をつけて立ち合いください。」
にこにこと笑う二見に、内心えええええと叫ぶ。
そりゃ閃ならば軽々やってのけるだろう。だって達人だもん。
あいつと同じ作業をやってのけろと言うのか。この俺に。
「・・・それでは、三國君。相手をお願いします。」
三國、と呼ばれた寡黙な雰囲気の少年が前へ出てきた。
どこか閃を浮かばせる。
めっちゃ強そう。え、まじで?
「それでは、棒術ならばどんな手を使っていただいても構いません。試合ではなく、実践で使える棒術を知ってもらいたいので。堅苦しい物ではありませんので肩の力を抜いてください。私の合図で始めと終わりをお願いします。」
「・・・はい。」
物凄く嫌だ。でもやるしかない。閃の顔を潰さないため。何より明日の飯にありつく為。
待ってろ、閃。医療費を稼ぐくらいはしなければ。
籠手を着けるか問われたが、断る。いつもはつけていないし、重くなるからと教えられたからだ。
「・・・・では、両者、構え。」
殺気がビシビシ伝わる。
これが、試合。
ごくり、と唾を飲む。
既に三國は静かな雰囲気に変え、別人のような顔で構えていた。
「・・・・始め!!」
掛け声とともに三國がかかってきた。相手もまた、長巻だ。
突きと繰り出そうとしているらしい。重心が低い。
長巻を両手で横にして、突きを受け止めつつ、片手を離して流す。
態勢が崩れた所を上から長巻を縦に持ち、一気に下へ突きを繰り出す。
だが三國もまた、だん!と鈍い音を立ててかわした。
態勢を立て直す前に全速力で三國の横を駆け抜ける。
丁度隣にさしかかる前、棒を大きく三國側にはみださせ、三國を巻き込む。
丁度腹に入り、三國は苦しそうに顔を歪めた。
とどめ、とばかりに棒を返し、足を払ってマウントの体勢を取り閃の時のように顔の右側に長巻を突き刺す。
「・・・一本!!」
二見が手を挙げ、声高に宣言した。
気付けば辺りはしんとしていて、烈は顔を上げる。門弟達が唖然とした顔で此方を見ていた。
・・・?
なんだかよく分からないが汗を手で拭き、三國から立ち上がる。そして悔しそうに睨む三國に手を貸し、立ち上がらせた。
とりあえず閃の面目は保てただろう。二見がうむうむ、と頷き、此方へ向かって来た。
「諸君、これで良く分かっただろう。形式に当てはめた試合や練習は役に立たない事を。実践がどれだけ大切かを。・・試合形式などという頭は捨てろ。棒術は相手を殺さずに傷つけるのに大変有効な術だが、死ぬぞ。
彼は八ヶ代殿に指南を付けられて、一ヶ月余りだそうだ。効率的に基礎と実践を指南されたおかげだろう。」
二見の言葉に、ハッとする。この一ヶ月間、1日たりとも練習を欠かした日は無かった。更に閃の指南のおかげだ。あの時、死ななかったのも。着実に成長してる。
「諸君も、これを機に精進するように!」
「「「「はっ!!!」」」」
二見の言葉に門弟達が溌剌と返事をする。
二見は笑顔で頷き、烈を見た。
「7つの刻まではおいでだ。各々、学び、精進するがいい。」
二見の言葉に、へ?と二見を振り向く。
待ってくれ。この道場は閃の家から遠い。
歩いて2時間はかかる。結構へとへとなんですけども。え?
烈の前にキラキラとした目が沢山振り向く。
待って、待って。
その日、烈は閃の有り難みをとてつもなく感じた。閃は凄い。今日限りにしてもらいたい。
・・・・閃、早く目を覚ましてくれ。
切実な願いが秋晴れの空に響いた。




