地震カミナリ火事幽霊!
世の中で俺が一番怖いもの。
人間。
権力。
雷。
それから、幽霊。
「・・・雰囲気あるなぁー、夜は。」
不気味に揺らめく炎に、解体書だかなんだかの本の表紙が照らされる。
家から連れてきた小判は閃の足元で丸くなっていた。よく寝るなぁ、まあ俺も二週間前は寝るかゲームかだったけども。
この家の家主、外守 嘉六は医師の会合だかなんかで家を開けるから、留守を頼む、と二人に依頼して今は居ない。なんでも嘉六の使っている道具は高級で珍しく、空き巣に狙われる事が多々あったらしい。
今は座敷に二人と一匹、ペラペラの布団の上で座って向かい合っていた。
「・・診療所だからな。しかし、冷え込むな。」
閃が足元の小判を抱える。
哺乳類って恒温動物だから暖かい。
羨ましい。藍染の羽織を引き寄せる。
がたん!
物凄い音がした。何か、建て付けの悪い戸を開けるときのような。
がたん、がた、がたっ。
その音は未だに続いている。心臓が早鐘を打つ。心臓弱いんだよ。ビビりなんだよ。勘弁してくれ。縋るような気持ちで閃を見上げる。閃は刀を掴み、見てくる、と立ち上がった。
・・・へ?
「お、俺もいくよ!複数かもしれないだろっ!?」
内心汗をかきながら上擦った声でそう叫ぶ。
やめろぉおお置いてかないでええムリムリムリ一人暮らしの時に幽霊怖すぎて新築マンションで人間対策にオートロックセキュリティ万全なとこにしたんだら!一人にしないでえええ!
なんてことは、大人の意地にかけて言えない。
「お前はここにいろ。陽動かもしれない。それに、怪我がまだ治ってないからな。なるべく取り逃がさないようにするが、何かあったら此処を守れ。」
その言葉、鈴だったら泣いて喜び、何人たりとも通さん覚悟で頷くのだろう。
だが残念。烈はビビりだ。それも恐怖の対象に対しては子供並みの度胸しか持ち合わせてないない。
だが無情にも閃は蝋燭に火を付け襖を閉め、出ていってしまった。
外は風が吹いているらしい。
ひゅぉおおおと凄まじい隙間風が吹き、不気味な音を醸し出す。風ががたがたと戸を揺らす。心なしか温度が低くなった。
ええい、こうなったら恐怖の対象を遮断しようではないか。布団を被れば多少は恐怖は軽減されるだろう。音も少し遮断され、視界も薄暗い闇程度。よし。
思いついたが早速と、布団の上掛け(夜着という服)を引き寄せる。すると起きたらしい小判がいつもは絶対に来ない烈の足元にトテトテと歩み寄ってきた。
やめろよぉあああ既にお前のせいで不気味だよぉおおぉ
その瞬間、視界が闇に包まれた。
何故だ。まだ布団かぶってないよね?
肝が冷えるとはこういうコトか。息が止まるかと思った。心臓が煩い。こういうドキドキを恋のドキドキと間違えて認識して恋だと思うコトがある、って書いてあったなーーー
と、思考による精一杯の現実逃避をする。
「シャーッ!!ニャアァアァァァァアァァァァアァァァ!!」
急に小判が威嚇をし始めた。
フーーーッ!!と威嚇し続けている。
「ちょっ!小判っ!やめなさい!お願いだからやめなさい!大丈夫!なんもないから!大丈夫だから!やめなさい!」
慌てて小判を抱き上げる。毛玉はふにゃーー!と更に威嚇をした。
ひた。ひた。ひたっ。ひたっ。
ああ。聞き間違いだ。うん。そうそう。あれだ。風だ。幽霊って足ないって言うし?
たっ。たっ。たっ。だっだだだだだだだだんっ!
「烈!誰か来たか!?」
・・・・
「・・何してんだ?」
小判を抱えたまま夜着から尻を出している姿を不審に思ったらしい。物凄く不審そうに聞いてきた。
「いや・・・なんか物音聞こえたから、なんだろうと思ってね?うん。」
苦しい。
苦しいよ。
「そうか・・どうやら鼠が入り込んだようだ。既に誰も居なかった。用心しろ。俺は見回って来る。」
そう言って勇ましく閃は部屋を出て行った。
待って・・・・・待ってええええ
なんで真っ暗な部屋に疑問もたないの!?バカ!?なんなんだよ!なんで走って来たよ!びっくりさせんなよ!ふざけんなよ!
なんだか異様な雰囲気に包まれる。あの解体書の絵、こっち向いてないか?というか視線を感じる。気がする。
そして暗闇に慣れた目で周りを見る。
うん、誰も居ない。気がする。
だが無常にも、僅かに漏れる月明かりに照らされ、障子に浮かんだのは人影だった。
ああ。ばっちり見ちゃったよ。なんか髪の毛長かった。うわあ。見ちゃった。
必死に目を瞑る。大丈夫だ、大丈夫ーーー
すらっ、たん。
と小気味の良い音がして、侵入者は部屋に入って来た。ちらり、と見えた表情は憤怒。猫は最大限の威嚇をする。
「フシゃあああぁああ!!!ニャアァアァァァァアァァァァアァァァ!!!」
「やめなさぃいいいぃい!!!!すみません!すみませんホント!なんでも差し上げるから命だけは!頼むから成仏して!お願い!」
ひっさしぶりに叫んだ。喉が痛い。
心臓がやばい。鳥肌がたつ。皮膚が精一杯の抵抗をしてる。
「・・・ね。・・かね、よこせ。」
慌てて晒しの中から嘉六からのお小遣いやら閃との依頼金の成功報酬やらを片っ端から集める。全身が震える。会話しちゃったよぉおおもうダメだあああこういう話は最終的に謎の死を遂げるんだ。ちきしょう。短い人生だった。
もう何が何やら分からないやっとの状態で金を捧げる。お願い今すぐ出てって。
かんっ。
脳天に衝撃が響く。目の前の幽霊は崩れ去り、その向こうには仁王・・・もとい、閃が立っていた。
「・・・・アホか。」
「・・・・・・・・はい。」
とても冷たい目で見降ろされて、烈は思わず謝る。
よく見れば幽霊は男で、ちゃんと足も付いていれば透けてもいない。
しかもよく見れば異世界へ来て二日目、いちゃもんをつけてきて足を怪我した(させた)男だった。
閃は手早く近くの縄で男を巻き、足蹴にする。
「・・・復讐か。いつでも来い。返り討ちにしてくれる。こいつに剣術指南したのは俺だ。俺を恨め、柏木殿。」
そう言われて男は項垂れていた。
そして閃は男を引きずり、去って行った。
扉を閉める前、思い出したかのように行灯に火をつけて行ってくれた。優しい。じゃなくて泣きたい。
「にゃあん。」
三毛の鳴き声がやけに虚しく響いた。




