女はいつだって戦士
「閃。本日の警護はもう宜しいです。帰りなさい。」
嘉六の言葉に閃は顔を上げる。
「い、いえ・・・まだ、大丈夫で「その顔で何を言いますか。警護なら烈で十分です。帰って休みなさい。」
有無を言わさない態度で嘉六が言い放つ。
肩を落として閃が承知しました、と長巻を掴んで帰って行った。
「・・・・。」
閃の後ろ姿を見つめながら、烈は薬棚を整理していた。
烈の剣術師範の後ろ姿は、初めて見たものだった。
* * * *
「・・たーだいまー。」
かたり、と建て付けの良い戸を閉め、草履を脱ぐ。鈴の音が近付いてくる。
「にゃあん」
おかえり、と鳴いたようで吃驚する。
え、なにこれ。
「ただいま小判。」
撫でようとする手をすり抜け、振り向きながらにゃあん、ともう一度呟く。
ついてこい、と言っているようで、仕方なく立ち上がった。
小判に案内された先には、やはり閃が居て、縁側から外の景色を眺めて居た。
かんっ!!!
小気味の良い音が響く。
あー。せいせいした。
「・・・!?!?!?」
なにが起きたか分からないらしい。
閃が頭を押さえながら振り向いた。
どうやら烈の気配にも気付いてなかったようで、物凄く慌てた様子で帰ったのか、と呟いた。
襟元を掴み、投げ飛ばす。
明らかに烈の方が体重は重い。ニートなめんな。閃は何が起きたか分からない様子で受け身をとった。
更に追い打ちをかけるべく、長巻で足を払い、態勢を崩しかけた所を突く。そしてマウントの態勢をとり、閃の顔の隣に長巻を突き刺した。
閃は青白い顔で瞠目した。
ざまーみろ。イケメンは禿げろ。
「堕ちるとこまで堕ちたな。八ヶ代 閃。武術を初めて数週間の俺に負けるとは。・・・てめえ、女一人に何乱されてやがる?いつものスカした面はどうした。てめえのお陰で早めに帰されたんだ。俺の勉強時間返しやがれ。」
閃は顔を背け、歯がゆそうに顔を歪めた。
「・・俺とて、わかって居る。迷惑をかけていることくらい・・。」
パシッ。小気味の良い音が響く。
パンチはもっと勉強しなきゃな。閃を崩せたのもマグレだし。閃の顔には赤い痕。イケメンの顔崩してやったよあはは。
「そうじゃ、ないだろ。迷惑云々は人は生きてる限りかけるモンだ。・・・テメェは、何を迷う?何が縛りつける?過去か?それとも今か?」
トラウマだっけ。俺にもあるなぁ。お陰で人間社会に出れなくなったよ。でも、俺は今でも戦ってる。時々襲う悪夢と。そして、リハビリがてらネット通販をせずコンビニに行ったり。ああ。今思い出しても少し怖い。
「・・・どっちも、だ。きっと俺は一生、こうだ。だが、傷付けたくはない。矛盾、してるな。」
腕で目を隠しながら答える。若干、声が震えて居た。
「・・・俺は、恋愛とか分かんないけど。なら、誠心誠意答えるべきじゃないのか?理由を話すしかないんじゃないのか?」
「・・それが出来れば、苦労は・・・っ、そうだ!」
妙案でも思いついたような顔で閃が勢い良く起きた。
「・・・・?」
* * * *
どうしてこうなったのか、何が妙案なのか一時間前の閃に問い詰めたい。そして詳しく聞かなかった自分も。何が哀しくて、何が哀しくて。
リア充の弁解に付き合わなければならんのだ。
なんで俺真ん中!?
そこは付き添いだし端でいいだろ!?
しかも土手!?
なんだこの甘酸っぱい青春スペシャル。
かえりたい。
赤く顔を俯かせる少女と、反対に青白く顔をひたすら背ける少年。おい。
「・・・鈴殿。」
現実に向き合うことにしたのか、閃が口を開く。少女ははっ、と顔を上げる。俺越しに。この役目小判でも良いよね?てか早く現実に向き合ってほしかった。みんな無言で一分一秒が長かった。俺が言えることじゃないけどさ。
「俺は、その・・昔、女性と一悶着あった後に女性を死なせてしまった故・・女性が、苦手なのだ。・・・その、女性、が。」
女性を強調して閃が重々しくそう言う。
もうダメだよこの子。テンパって何言ってるかわかんない。
鈴は俯いている。表情は分からない。
恐怖故か、閃は烈の着物の裾を握っている。ガキかよ!お前じゃなくて可愛い女の子なら俺も歓迎だよ!そういう趣味ないからやめろよ!
やがて少女はゆっくりと顔を上げた。
母のような微笑みをたたえて。
「・・それでは、私がその恐怖をとりされるように努力致します。貴方様が怖がることは致しません。ですから、ご心配なさらないで下さいませ。私が、貴方様を支えることの出来るよう努力致します。」
そう語る少女の顔は、母のようで、戦士のようで、とても強く、美しかった。
少女はやがて立ち上がり、今日は失礼致しますね、と去っていった。
秋晴れの空にススキがそよぐ風景が目の前には広がっていた。
すごいな。女の子って、恋愛に前向きだな。
怖くても、希望がなくても、決して諦めないだろう。
「・・いい子だな。治るといいな。」
烈の言葉に返事をするかのように、顔色の戻った閃が立ち上がった。




