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人類みな震えてる

なにやらこの江戸の世にタイムスリップやらなにやらしてから約2週間。

今日も今日とて閃は依頼の仕事へ、烈は嘉六の手伝いに明け暮れて居た。


なんとか烈は今日も生きている。

タイムスリップした感想はアレだ。何よりも、科学技術ってスゴくね?車とかストーブってスゴくね?いや、今はまだマシだ。秋だから。だがもうじき冬だ。無事に越せるだろうか。


大方昼になり、嘉六は落ちついて来た所で一旦診療所を閉めた。今日は烈も一緒に昼を食べる予定だ。


「・・あのう・・・」

手洗いの為の水を汲んでいると、そこには先日、浪人に絡まれて居た娘が居た。(*第五話参照)

藍色の着物に赤の鮮やかな帯をして、髪はかわいらしい桃色の簪で一纏めにしている。


「ああ。先日の。どうもこんにちは。」

烈は手を止め、娘に向き直る。

娘は恥ずかしそうに笑い、「あの時はどうも。」と返した。


「今は診療所は閉めて居ます。未の刻(14時)には開くと思いますが・・・」

烈がそう言うと、娘は慌て出した。

「いえ!そうじゃないんです!あの・・八ヶ代様にこれを・・!」


娘が慌てて差し出したのは竹の皮に包まれたおにぎりだった。烈は娘の手の中の物を凝視する。ちきしょう。あいつリア充だったのか。しかもこんな幼気な女の子・・!


闘志を燃やしている中、烈の視界の隅に閃の長い髪が入った。

「おい!閃!客だぜー客!」

烈が叫ぶと気が付いたのか、閃が此方へ向かってくる。娘は頬を染めた。


「・・すず殿。お久しぶりです。如何しましたか?診療所は閉めていますが・・・。」

閃の言葉に、鈴と呼ばれた女性は竹の皮の手包みを差し出した。


「あのっ!これ、作ってきたんですが、もしよかったらお食べ下さいませっつ!!」

顔を茹蛸のように真っ赤にした少女はそう一気にまくし立て、嵐のように去って行った。

残ったのは閃の手の中のおにぎりのみだ。

茫然と少女が去った方向を見ている閃に、烈が訝しげに問う。


「・・・・え。恋人じゃないのか?」

「な訳あるか。女に興味等ない。」

スパッと潔く断言する閃に、烈は顔を強張らせる。

「まさか、お前・・・男色」

(*BLのこと)

言い終わるか言い終わらないかぐらいに、鞘ごと思い切り殴られた。

地味に痛い。

「・・・いって・・・・。ま、とりあえずお前はそれ食えば?俺は嘉六先生と立ち食いそばでも行って・・「待て。」


閃は烈の肩に手を置き、引き留める。

「いっつ!!ててててててて!!折れる!!折れちゃう!おれちゃうから離せ!」

烈の悲鳴にハッとしたのか、すまん、と手を離した。

どうやら動揺しているらしい。

顔がものすごい形相で、この世の終わりでも見たかのような顔つきをしている。


「俺も、行く。」

青白い顔をしてそう告げる。おいおい。大丈夫か。

「・・行く、たって・・そのおにぎりどうすんだよ?」

「仕事の合間に食べる。だから行く。行かせてくれ。」

終いにはがたがたと震えだした。人間がこんなに震えているのを初めて見た。おいおい病人じゃねーか。思いっきり顔真っ青だぞ?

なんだよ女性恐怖症か?本当はこいつも童〇(なかま)か?

「お・・・おう。」

とりあえず、閃の手を引き、嘉六の元へと急いだ。


* * * *

「ああ・・・閃は、こういった事に対してはとりわけ駄目なんです。」

嘉六が隅でがたがたと震える閃をちら、と見て穏やかにそう言った。

昼下がりのそば屋は混んでいたが、幸運なことに座る事が出来た。

が、ざわざわと騒がしく、密談をしても聞くものはいないだろう。


「駄目、とは?」

午前中に取ったメモと纏めながら烈が問う。


「昔、女性に激しく好かれましてね。一緒になってくれなければ死ぬと言う言葉を言われてほっといたら、その女性は実行して身投げしてしまったんです。」


「うわあお・・・。」


壮絶な過去をお持ちだな。

モテる男の気持ちなんて分かりたくはないが、可哀想になってきた。


閃は相変わらずかたかた震えている。

「お鈴さんだけでもなんとかしてあげたいものですが・・・。」



可哀想な程怯える閃を横目に、烈の蕎麦をすする音が外野の騒音と混じった。

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