風が吹けばコーヒー牛乳が売れる
「・・・・え、え?」
烈は口を開いていた。
体を精一杯隠す。
ありえない。
異性の裸が闊歩する世界。
ありえない。
人生でこんな瞬間。ありえない。
いや、そっか。本当はありえないんだ。ここに居ることが。じゃなくて。
閃はスタスタと先を歩く。
いやいやいやいや。あいつ、本当に男か?
「・・どうした。烈。」
閃は後ろを振り返る。
待って。なんでそんな平然としてるの。置いてかないで。待って待って。
だって、だって。
混浴だなんて聞いてねーんだよぉおおぉおああああああああああ
烈は泣きそうだった。
人生で一番泣きそうだった。
ニートやらないで鍛えとけば良かった。
不意打ちだ。不意打ちすぎる。
それから鍛え抜かれた閃の身体。
やめろ。隣に立つな。泣いちゃう。
「・・イヤ、ベツニ」
もう仕方ない。診察だ。診察なんだ。
そう頭に刷り込む。早く湯船に浸かりたい。
手拭いと糠袋で身体を洗い、さっさと湯船に浸かる。
視界の隅に入る白い肌は無視だ。
ここは診察所。ここは診察所。
遅れて閃が入ってくる。
男の自分から見ても見目麗しい閃は、女性から熱い視線を送られていた。
ちきしょう。逃げたい。
なんで神様はこんな格差を見せつけてくるんだ。知ってるよ、知ってるから。人生壁ばかりって。だからお手柔らかにしてくれ。
烈が銭湯で一人沈んでいる中、女が近付いて来た。
頭がパニックになる。ちょっと待てお願い来ないでミナイデーー
烈の願いも虚しく、女は二人の近くで止まった。
「久方ぶりだねぇ、閃。最近冷たいじゃないか。どうだい?今夜、ウチにおいでよ。」
女は優雅に、そして艶かしく笑う。
烈の鼓動は最高潮に達していた。
対して閃はなんでもないように女に目もくれず、湯船につかっていた。
「・・今は、お前に用はない。時期になったら行く。」
待て待て待て待て、なんだこの会話。
明らかアヤシイ夜の会話じゃねーか。
このクソガキ、童○の俺を越してもう卒業してたのか。そりゃそーか。イケメンだもんな。
よく見れば女は俗に言う巨乳。
烈は閃に背を向ける。
時期になったら?いいご身分じゃねーかぁああ
都合の良い女って奴か?モテる男はちげーなぁちきしょう。
イケメンなんて世の中から撲滅してしまえ。そして禿げろ。つるっつるに禿げてしまえ。
「おや・・そっちの方は?見ない顔だねえ。」
女が烈に興味を示した。
烈はゆっくりと後ろを向く。
閃は烈を一瞥すると、口を開いた。
「・・五百夜だ。同居している。」
閃の言葉に、女は人当たりの良い笑顔を浮かべた。
「涼と、申します。よろしくね。」
「五百夜・・です。」
なんとか挨拶を終え、顔をできるだけ背ける。やめてくれ。なんのイジメだ。
「それでは、またいつか。またね、五百夜さん。」
にこ、と笑みを残し、涼は去った。
とりあえず、嵐は去ってったらしい。
「・・今のは、情報屋だ。気を許すな。誰にでも情報を売る。」
横で閃が一息つきながらそう言った。
・・・情報屋?
「・・都合の良い女じゃなくて?」
思わず出た言葉に、きょとん、としてから閃は笑った。珍しく盛大に。
「なっ・・!」
顔に熱が集まる。そんなに変だったか?というかこいつが笑った所初めて見た。じゃなくて。もう崩れかけて居たメンタルは崩れ去った。もういいからやめてくれ。
「あいつを抱ける男が居たら見て見たいな。あれはああ見えてそこらの男より強い。愛読書は軍記物。たまたま良い金稼ぎが出来るから情報屋やってんだ。
それに、情報屋は強いからこそ出来るんだ。自分に襲いかかってきたヤツは身ぐるみはいで柳に見せしめに吊るす女だ。
情報を取るために遊女紛いの事はするが、コトに及ぶ前に大抵吊るされる。恨みでヤツを襲えば返り討ちにされる。」
「・・・ひっ、えー、」
「女ってのはころころ変わり身が早いからな。気をつけろ。あいつに信用して近付いて気付いたら財布が空っぽってこともある。」
「おっ、こっ、こ、こえええ・・」
烈はまた一つ、人生の教訓を得た。
よかった。純粋なニートが醜態さらさなくて。気を付けよう。女って怖い。




