渡る世間の壁は残酷
渡る世間は壁ばかりだと思う。
ほんの少し、人と違う事をしただけでバッシングを受ける。
平和な良い世の中だと思う。
幸せだ。先人たちの功績だ。
だけど、俺には、
少し、息がしずらい世の中だ。
『10000000万打クリア。セーブしますか?』
画面にそんなテロップが流れた。青年は操作をしてセーブする。
そしてパタン、とほこりを舞い上がらせながら後ろに倒れた。
五百夜烈。
職業 自宅警備員。
毎日毎日パソコンに向き合うだけの日々。
最後に人間と喋ったの、いつだっけ?なんて考えるくらい、もう彼の存在を思い出す者はいないだろう。
もう着信なんて長らく来ていない。そしてこれから先も来ないだろう。
はたしてこんなものを持つ意味があるかは分からないが、そんな事は関係ない。
伸び放題の髭を久しぶりに剃り、財布を持って何日かぶりの外へと旅立つ。
残金は323円。働いて稼いだ金もついに底をつきそうだ。
電気もじき止まるだろう。ガス代止まったし。
ああ、どうやって生きて行こうか、明日から・・・・。
ひと肌恋しくなる秋空の下、烈はいよいよ自分が惨めに思えてきた。
ああ嫌だ。こんな世界。
だけど、こんな俺でも生きてるんだ。
絶対、生き続けてやる。これからも。
そんな事を思考していたせいか、否か。
烈は早くも人生終了のカウントダウンが始まっている事に気付く事が出来なかった。
だから、死ぬほど驚いた。いや、今まさに死にかけてんだけどーーーーーー
強い衝撃が体に走る。
次に浮遊感。
渡る世間は壁ばかり。
おいなんだこれ。めちゃくちゃいてえ。
てか、ふざけんなよーーーーー
俺は、絶対に生きなきゃーーーーーー
* * * *
強い血の匂いと、殺気。
それから、硬い土。
なんなんだ、ここは。
重たい頭を上げる。
とりあえず、死亡は回避したらしい。
良かった、相変わらず身体は怠くて肋の2.3本は折れてそうだが。
車の持ち主はどこだ。
文句を言ってやらねば、気がーーーー
烈はようやく暗闇に慣れた目をこらし、状況を判断出来るようになった。
一難去ってまた一難。
誰だよ、タイムスリップしたらにゃんにゃん出来るとか、どっかの将軍に気に入られるとか、考えたやつ。
人生そう甘くない。
壁にぶち当たりまくりだ。
さて、目の前の死亡フラグをどう切り抜けようか。てか、なんなんだこれ。
いや、そうとしか考えられない。
自分の順応性に少し驚く。
俺、この順応性使えば世間渡れたんじゃね?
チキショウ、おとなしく家でゲームしてりゃ良かった。
無理だろ。無理ゲーだろ。
一般人だぞーーーーー
目の前では、白銀に煌めく刀が此方に切っ先を向けていた。生まれて初めて当てられている殺気。恐怖で身体が竦む。
さっきから一言も話さない刀は、問答無用とでも言うかのようにキラリと上から大きく弧を描き、烈に向かった。