親子
俺が倒した犬っころ。あれは迷宮の魔王だった。
厳密に言えば迷宮の魔王の最終形態だったらしい。
ここに住む魔王は鵺ということだったが、その鵺は変身能力を持ち合わせていた。
こんな情報は街で入手できていなかったが、ユウ達もここにきて実際に戦うまでわからなかった事だったとのことだ。
つまりここの魔王はそんな力を温存しつつ、今までこの迷宮の主でい続けてきたという事なんだろう。
そしてそんな魔王は俺の手によってあっさり倒された。
正直な話、不甲斐ないにもほどがあるだろと俺は迷宮の魔王に言ってやりたかった。
こんなのが魔王とか、今まで俺が戦ってきた魔王はなんだったんだよって言いたくなるくらいのあっけなさだった。
「なんだかなあ……魔王って基本強いもんだと思ってたんだがなあ……」
「いや……さっき戦ってた魔王も十分強かったと思うんだけど……」
俺のぼやきにユウが反応してきた。
まあさっきのは俺も『オーバーロード』使っちまったからこんなあっさり倒せちまったんだろうけどよ。
多分あれなら『オーバーロード』無しでも倒せたぞ。
遠くから弓撃って近づいてきたら『ストライクバースト』で牽制しつつ『エクステンドスラッシュ』を横薙ぎで使えばほぼ完封できただろうからな。
それに加えて『オーバーフロー・トリプルプラス』も使えば1分以内に倒す事は普通にできていただろう。
「ちょっと今まで戦ってきた魔王とのギャップが酷すぎて強かったなんて感想が出ねえよ」
いやまああれっぽっちの手数で倒せたのはそれまででユウ達が魔王を大分削ってくれていたからかもしれねえけどな。
「そ……そう……確かにさっきのリュウはわけがわからないくらいに強かったからね……」
俺の率直な感想を聞いてユウ達が若干引きつった顔つきになっていた。
つまりあれが本来、順当に旅を続けてきた場合に当たる魔王の強さってわけか。
俺が今まで戦ってきた魔王はゲームでは本来中盤以降に出現する魔王らしかったからな。比べるのも可哀相か。
それに俺は俺でゲームマスターだかなんだかよくわからない女からチートスキルを貰っているし、通常以上の能力を持った装備に加え、そのスキルや装備の力を最大限生かせる才能値を持っているというトンデモプレイヤーだしな。
そんな力をたまたま手に入れている俺がズルイという自覚はあるし、あんまここでこれ以上魔王をこき下ろしてもユウ達には嫌味にしか聞こえねえ。
この話はもうここまでにしよう。
「もう魔王がいないならとっとと帰るか。他のメンバーは上の階に待機してるのか? シーナ」
「そうよ。私達がこっちに来た以上下手に動かないほうがいいでしょ?」
「つってもてめえも本体は向こう側だろ? なら問題ねえさ」
さっきシーナは本体は向こうにあると言った。
それはつまりシーナは『ファントム』で分身を作ったという事だ。
そしてその分身は今俺らの目の前にいる。
あと一時間もすれば消えてしまうだろう。
「つかなんでバルまで来たんだ? ここに落ちてくるだけなら『アクシデントフェイカー』でも事足りただろ」
「あー……それはバルがどうしても私も行きたいって言ったからよ」
「バルが?」
そうして俺は背中にベッタリ張り付いているバルに目を向けた。
「す、すみません……どうしてもリュウさんが心配だったもので……」
「あぁ……まあ……俺の安否を優先してくれたのなら感謝しねえとな」
俺はバルの頭に右手を乗せる。
「心配かけて悪かった。そんでもってありがとよ、バル」
「……えへへ」
俺がそう言いながら頭を撫でてやると、バルは若干朱に染まった頬を緩ませて微笑みつつ、頭を撫でられるのが気持ちよさそうに目を閉じた。
「他にもパーティーメンバーがいるのかい? リュウ」
と、俺らがそんな話をしていると、ユウがそんな質問をしてきた。
「ああ、ちょっと俺の暴走で二手に分かれちまったんだけど、そいつらは今地下4階層の大部屋にいるぜ。だから早く合流してえんだが、ユウ達はこれからどうする?」
「僕達も上に上がるよ。もうここへ来た目的は達成されたからね。だからリュウ達と同行してもいいかな?」
「おういいぜ。他のメンバーも合流したら紹介してやるよ」
つってもそいつらはてめえの知り合いだけどな、ユウ。
ヒョウとみぞれとクリスは2番目の街から3番目の街にかけての道程をユウ達と共に乗り越えたという話を依然聞いているからな。
ユウの驚く顔が待ち遠しいぜ。
「楽しみだなあ」
そんな俺の思惑を知らないユウは、そんな邪気のない感想を述べてニコニコしていた。
「パパ~」
「おお~わが娘よ~」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」
俺は驚愕の事実を知り驚きの声を上げていた。
「元気にしてた~? クリス~?」
「はい~。パーティーメンバーが元気ならワタシはいつでも元気です~」
「そっか~」
「パパも元気にしてましたか~?」
「パパもユウ君達が元気だから元気だよ~」
「そうですか~」
「うんうん~」
「…………」
俺は驚いた後、目の前で繰り広げられる緩い会話を黙って見ているしかなかった。
「そういえばリュウには言っていなかったな」
俺が棒立ちになっているところへヒョウが話しかけてきた。
「クリスはあそこにいるみみさんの血を分けた実の娘さんなんだ」
「あ、ああ、そうなんだ……」
あまりの出来事に適当な返事しか俺は返せなかった。
迷宮の魔王を倒した後の俺ら9人は、シーナの斥候とユウ達の知識によりかなり速いペースで地下4階層に進んだ。
途中でシーナの『ファントム』使用時間が過ぎてしまったため、俺らに同行していたほうのシーナは消えてしまって慎重に歩かざるをえなくなったりしたが4時間後にはヒョウ達のいる大部屋へと戻る事ができた。
そしてそこで待っていたヒョウ達が俺らを認識すると、まずユウ達が驚く前にクリスが此方へと走ってきていた。
そのクリスはそのままみみへと走り寄って親子同士の抱擁を行っていた。
俺はそんな親子の再会にただただ驚くしかなかった。
「オレ達がユウたちと一時同行していたというのはそういった理由もあったからなんだ」
「……へえ」
ユウ達と一緒に旅をしていたという話は聞いていたが、どうして一緒に旅をしたのかについては聞いていなかった。
まあどうでもいいことだから聞く機会もなかったってだけの話だけどよ。
「……つってもあの2人が親子かよ」
確かに雰囲気は似てるけどよ。
でも外見は全然似てねえじゃねえか。
「てめえらマジで親子?」
「そうだよ~。おいちゃんの実の子だよクリスは~」
「つまりクリスの母親は外国人なんだよな?」
俺はちょっと気になったことをみみに訊ねてみた。
コイツはどう見ても日本人だ。
だから外国人風の外見のクリスの母親は外国人という事になると思うが。
「そうそう~。おいちゃんの愛妻とは勤めてる外資系企業の職場で会ったのがきっかけでステディーな関係になってね~、そのままできちゃった婚でゴールインだよ~」
「できちゃった婚かよ……」
色々な意味で緩い奴だった。
「愛が成せる業だね~」
「うるせえよ。もうちょっと計画的に子作りしやがれ」
どうあってもキャラがぶれない奴だった。
「つか、だったらどうしてクリスは最初ヒョウ達と一緒だったんだ? 常に親子一緒にいろってわけじゃねえけどよ」
だがこのデスゲームと化した世界で娘の事を心配していなかったというのはどういうことなんだ?
あの始まりの草原でのみみに娘を案じるような様子は一切なかった。
「あ~それはね~、クリスがこの世界にいることをおいちゃんも2番目の街に行くまで知らなかったからだよ~」
「ワタシは大学に通うために一人暮らしをしていてですね~。パパとはしばらく疎遠になっていたんですよ~」
「ああ、なるほど。そういうことか」
大学行くために一人暮らしをしていたのはトトじゃなくクリスの方だったか。
いやまあだからといってトトが一人暮らししてないっているわけにはならねえけど。
「2番目の街で再会した時はビックリしましたよね~」
「ね~」
みみとクリスによるゆるゆるふわふわ会話が続くのを俺は生ぬるい目で見続けている。
なんかコイツらみてると俺まで緩くなっちまいそうだ。
「それにしてもまさかリュウがヒョウ達と一緒にいたとはね」
と、俺の隣にいたユウがそんな事を俺に言ってきた。
「……本当はそのことでてめえを驚かしてやろうと思ってたのによ」
思わぬ伏兵にやられて俺の方が驚いちまった。
「久しぶりだな、ユウ」
「おひさー」
「ああ、久しぶり、ヒョウ、みぞれ。元気そうでなによりだ」
そしてヒョウとみぞれがユウに挨拶をし、ユウもそれに答えた。
その後ヒョウ達2人はトト達の方へも行き、順々に挨拶をしていっていた。
「とりあえず今日はここで一旦休みいれるか。時間的に外も夜だしな」
「そうだね。僕もそう思うよ」
そんな光景を見つつ俺はユウに話しかけ、ユウは俺の提案に同意してきた。
「それじゃあみんな! 今日はこの部屋で睡眠を取るからテントの設置をしよう!」
そしてユウが全員に指示を飛ばして俺らは全員ここに泊まるための準備を始める事にした。
 




