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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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迷宮

 俺ら6人はカフェに集まって情報収集の結果を報告しあっていた。


「やはり『攻略組』のユウ達に話を通すのが一番早くプレイヤー集団を動かせそうだな」


「ですがそこでの問題は、その肝心なユウさん達はつい昨日出発したばかりであるということですね~。そして目的の地下迷宮は攻略するのに1週間はかかるとプレイヤー間では推測されていることから、ワタシ達の話が軌道に乗るのも1週間以上はかかるということになります~」


 ヒョウとクリスが俺らの情報から出た結論を確認するようにそう言った。


「ユウさん達が戻ってくるまでこの街で待ちですかね~?」


「いや、アイツらが予定通り1週間で街に戻ってくるかわかんねえ。だったら俺らからユウ達の所へ出向いてみようと思う」


「私もリュウに賛成よ。待ち続けるなんて私の性分じゃないわ」


「オレは街で待っていたほうが確実だと思うがな。行き違いになったら面倒だ」


 俺の方針にシーナは肯定派、ヒョウは否定派へと回った。

 クリスもどっちかというとヒョウ寄りか?


「そうか、バルとみぞれはどうだ?」


 意見が分かれているので俺は全員の考えを聞くべく残りの2人にも話を振ってみた。


「私は兄さんの意見に同意」


 やっぱみぞれはそう言うか。

 みぞれは難しい判断をするようなときは兄任せにする癖がある。


「……どうしてもユウさん達に頼らないとダメでしょうか?」


 そしてバルはそもそもユウ達と協力関係をとる事そのものに不満があるようだ。


「バル、てめえもこれが一番手っ取り早い方策だってことはわかってんだろ?」


「それは……確かにそうなのかもしれませんが……」


「変なところで意地を張るのは止めろ。さっきからユウのことになると変だぞ、バル」


「そ、そんなことは……」


 バルはそう言って俺から目を逸らし続ける。

 どうもコイツはさっきの事を引きずっていて意固地になっていやがるな。


「ユウ達と協力関係を築くことは決定事項だ。その上で今俺らがどうするかを考えろ」


「……はい」


「それじゃあ改めて聞くが、てめえはユウ達を追って迷宮へと行くか、それとも街で待っているか、どっちがいいと思う?」


「……迷宮へ直接向かったほうがいいと思います。プレイヤーが連携を取って教会跡地を警備するという計画はできる限り早めに行うべきですから……」


「そうか、わかった」


 そうなると意見は3対3で分かれちまったな。


 こういう場合は……。


「それなら前に取り決めたとおりパーティーリーダーであるリュウの方針に従おう。オレはそれで構わないしみぞれも構わないだろう」


「おーけー」


「そういうことでしたらワタシも迷宮行きに賛成しますよ~」


「うっし、そんじゃあ俺らは迷宮に挑むっつうことで決まりだな。それなら今日中に迷宮対策を済ませて明日この街を出ることにする。いいな?」


「オッケーよ」


「それでいいだろう」


「のーぷろぶれむ」


「大丈夫だと思いますよ~」


「……はい」


「よし。なら迷宮の情報を集め直すチームと消費した物資を買出しするチームに分かれて行動するか」


 そうして俺らは行動を開始した。






「ここが地下迷宮ねえ……」


 5番目の街で情報収集を終わらせて宿で休んだその翌日、俺らはユウ達が攻略を進めているという地下迷宮にやって来た。


 この迷宮は地下へと続いており、大まかに5階層に分かれた構造になっているという話だった。


 そしてこの迷宮の最深部、地下5階に迷宮の魔王というモンスターが住み着いているらしい。

 その魔王はぬえとも呼ばれ、頭は猿で体は狸、手足は虎で尻尾は蛇という姿をしているそうだ。

 戦闘スタイルはスピードと耐久重視で、外敵を虎の如き速さで翻弄して生半可な攻撃ではビクともしない体で躊躇なく近づき、猿の頭や蛇の尻尾で噛み付いたりしてくるとのことだ。


 まあその魔王については会ってからまた考えよう。

 今は目の前で行われているヌルゲーを生暖かく見守っていよう。



 地下迷宮。またの名を罠迷宮と言うこの迷宮は、その別名のとおり罠満載の迷宮であることで5番目の街では有名だった。

 突然足元がなくなる落とし穴。いきなり壁から突き出てくる槍。迫りくる壁。部屋に入ると入り口が閉まってモンスターが湧き出てくるモンスター部屋。踏んだら最後、迷宮内のどこかへランダムに瞬間移動をさせるワープトラップ。そして超古典的な通路を転がって侵入者を押し潰そうとしてくる大玉。そんなこんなが盛りだくさんだ。


 だがそんなトラップは俺らの前では無力同然だった。

 まず最初にシーナの存在がでかい。


 シーナは持ち前の速さを存分に生かすため、斥候役を勤めさせている。

 そしてこの斥候をこなしているシーナなのだが、とにかく罠に引っかからない。


 いや、厳密には罠を踏みまくっている。踏みまくっているのだが……そのことごとくをシーナは避けた。

 落とし穴なら足場がなくなる前に穴から移動し、壁から刃物が突き出てこようものならヒラリと回避する。

 2回ほど全方位から銃弾らしきものが射出されシーナを襲うというような罠もあったが、それもシーナの持つ『アクシデントフェイカー』で完全に無効化させることができていた。

 そんな感じで大抵のトラップはシーナの前には児戯に等しいといった有様で、俺らはそのシーナの後ろをついていくだけでよかった。


 本当は『ファントム』も使えばより安定感が増すのだが、アレは時間制限が1時間なので使いどころを考える必要がある。

 一応アイテムボックスに入ってその時間制限をないものとして扱う裏技があるにはあるが、それは本当に切羽詰った時にしか使わない取り決めになっている。

 シーナも積極的にアイテムボックスに入ることはしたくないって言っていることだからな。使わなくて問題がないようなら使わなくてもいいだろう。実際今使わなくてもすいすい進めているしな。



 だがそんなシーナでも、どうしても対処できないトラップがあった。

 1つはモンスタートラップ。これは基本モンスターを倒せないシーナにはどうしようもない。

 部屋の中を埋め尽くすかのような量のミイラ、コウモリ、でかいミミズ、中身のない甲冑を相手にシーナではどうしようもない。


 けれどそんな時はヒョウがいる。

 ヒョウはモンスターが湧き出てきたら部屋全体に向けてブリザードを巻き起こす。

 すると部屋の中にいたモンスターは一網打尽になり、俺らに大量の経験値と金が入ってくる。

 みぞれが飲むMP回復薬の事を考えても黒字になるのでむしろモンスタートラップは俺らに歓迎された。


 そしてシーナが対処できないトラップその2として物理的な障害物トラップがある。

 逃げ場もない通路で大玉がゴロゴロ転がってきたりだとか左右の壁が迫ってきたりだとかだ。

 シーナだけならそんなトラップからも逃げることができるが、俺ら5人はシーナのように逃げることができない。


 だからそんなトラップは真正面からぶち壊すことにした。

 大玉が転がってくれば俺が『オーバーフロー・トリプルプラス』込みの矢をぶちかまして破壊したり、迫り来る壁は超聖剣で切り刻んで難を逃れたりなどやりたい放題だった。


 もしここが文化遺産だったりでトラップであろうとも無闇に壊してはならないといったような制限があったら難儀したかもしれないが、特にそういった話も聞いた事がなく、壊して解決できそうな罠はドンドン壊していった。

 壁を壊したりなんかして落盤の危険とかないだろうかとも思ったりしたが、そもそも落盤を気にするなら迫り来る壁とか作れないだろうと思い直してそのトラップに引っかかった時はさくさく壊した。


 正直ここまで余裕だとは思わなかった。

 ただ単に俺らがこの迷宮を突破するのに向いていただけかもしれないが、それでもあっけなさ過ぎる。

 既に俺らは3階層も突破して4階層の中盤まで来ていた。


 ここまでの所要時間は24時間。

 1日で迷宮最奥への道を8割以上踏破したという事になる。


 5番目の街でここがどんな迷宮なのか既に大分研究されていて、迷宮内の知識に事欠かなかったというような理由もあって俺らは想定外な事もなく来れたのだけれど、普通ならここまでくるのにどれだけ早くても2日以上はかかるそうだ。

 そして地上から地下迷宮の最奥まで移動するための最短所要時間はおよそ3日。往復すると約6日という探索になるらしい。そんな記録保持者がかつて生きていたという話を情報収集の時に小耳に挟んだ。


 だからユウ達が戻ってくるのは早くても1週間後だろうと言われていたわけだ。

 5番目の街から地下迷宮の最奥まで移動し、そして戻ってくるならそれくらいの期間がかかることは明白だ。


 けれど俺らのペースならその最短1週間の探索を3日で終了できることになる。


 多分1週間はかかると結論付けられた研究では、プレイヤーのような存在は想定外だったんだろう。

 街で研究されていた踏破記録はこの世界基準での実力者によって作られたもので、その実力者でもプレイヤーには全然敵わないということか。


 改めてそう考えると随分理不尽な世界だな。

 この世界で真面目に数十年己を鍛え上げてきた人間が立てた記録が、たかだか数ヶ月デスゲームをしただけの俺らプレイヤーにあっさりと塗り替えられちまうんだから。


 ゲーム設定では俺らは新人類で元々いる連中は旧人類と呼ばれてるんだったか。

 その名称での分け方でも新人類たるプレイヤーの方が旧人類たるこの世界の原住民より優れているとでも言いたそうな雰囲気が漂っている。

 今後どうなるかわからねえけど、そういう能力の違いで変な差別意識とか持たないようにして欲しいな。お互いに。


 まあいい。今はそんな事考えてもしょうがねえ。


「うし、シーナ! 戻って来い! ちょっとここいらで15分休憩しようぜ」


「了解です」


「ふぅ、了解よ」


「了解した」


「らじゃー」


「了解しました~」


 シーナを呼び戻し、比較的開けた大部屋に陣取って俺らは休憩をとることにした。


 ちなみにおの地下迷宮の雰囲気は遺跡という感じだった。

 壁や地面は石材で施工されており、細長い通路と大きな部屋が1つの階層にいくつもある。

 ついでに言うと何故か明るい。しかもそれは薄暗いとかではなく晴れた昼間の外というくらいに明るい。

 どこからこんな光が漏れているのかもわからないが、正直どうでもいい事なのでどんな仕組みなのかは気にしないでおこう。


 そして今俺らがいる大部屋は、何者かを埋葬するために作られた空間のようだ。

 俺らから少し離れたところに棺桶のような物が置いてあったりする。

 

「シーナ、斥候役はキツくないか?」


「平気よ。こうしてちょくちょく休んでるんだし。全然問題ないわ」


「そうか」


 ここまでで一番運動量の多いシーナに確認を取ってみたが、どうやらまだ大丈夫なようだ。


「ここでてめえが無理してポカやらかしたら俺ら全員が危険に陥るんだからな。疲れて集中できないというような時は遠慮なく言えよ」


「そんなこと言われるまでもなくわかってるわよ」


「ならいいんだが」


「……なによ、何か私に言いたいことでもあんの?」


「いや、言いたいことっていうかな」


 シーナはここまで来るのにかなりの貢献をしてくれていた。


 だが……


「そういやシーナはオバケとか信じるタチだったな」


「な、なんでそんな事を今言うのよ」


「てめえが棺桶見ながらビクついてるからいけねえんだよ」


 コイツミイラのモンスターが出てきた時とか俺らの後ろに隠れちまうし、そもそも迷宮に入る段階で中が結構明るかったことにあからさまにホッとしていたし、どう見てもユーレイとかを怖がってる反応だ。


「び、ビクついてなんていないわよ!」


「そうか、ならいいんだけどよ」


 まあたとえそれが強がりであってもそう言うのなら俺の方からそれ以上は言わねえさ。

 あんま人の弱みをつっつくのも良くねえしな。


「……それだけ?」


「あ? なにがだ?」


「い、いや、別になんでもないわよ!」


「???」


 なんだ今の反応は?

 それ以上に何があるっていうんだよ?


 よくわからねえ奴だな。


「……にしても棺桶か」


 アレって中に何入ってんだろうな。


 見た感じ装飾は控えめで何かの文字がうねうねと書かれている石の棺桶だが、中身が見えないようにキッチリとフタがされている。

 ああいうのって開けた瞬間ミイラモンスターとか出てきそうだが、それ以外にも何かアイテムが入っているような気がするんだよな。

 その棺桶の主由来の品物が納められていたりとかな。


「……ねえ、もしかしてあんたアレ開けようとか思ってない?」


 シーナがジト目で俺を見ながらそう言ってきた。


「ああ、まあな」


「……でしたら私が開けましょうか?」


「バルがか?」 


 俺とシーナが会話している中にバルも加わってきた。


「私ならモンスターが飛び出してきても対処できますし……」


「……確かにそうだな」


 バルならまず間違いなく問題ない。

 バルを傷つけられるのは並大抵の攻撃じゃ無理だ。

 それに加えてバルはパッシブスキルで各種状態異常にも耐性を持っている。


「じゃあバル、開けてみてくれるか?」


「はい!」


 俺がバルに頼むとバルは満面の笑みでハッキリと声を出して答えてくれた。


 こうして俺らは目の前にある棺桶を開けてみる事にした。

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