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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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不離威打無

 目の前に現れたのは見た目二十歳くらいのヤンキーだった。


 金髪のリーゼントにでかいグラサン。上半身は裸の上に白の特攻服を羽織っているというスタイルだ。


 まさかファンタジーな世界でここまで世俗的な人間に出会えるとは思わなかったぜ。

 だがここでビビるような俺でもねえ。メンチ切ってきたら俺もやり返すくらいの度胸を見せるのが俺の流儀だ。


 まあバルは完全にビビッて俺の後ろに隠れちまったけどよ。


「テメエか……俺を呼び出した命知らずは……」


 男は相変わらずタメの長い言葉遣いで俺にそう訊ねてきた。


「ああそうだ。俺はリュウってんだ。よろしくな」


「リュウ……? どっかで聞いたことのある名だな……」


「ちなみにてめえは『不離威打無』のギルドマスター、轟で合ってるよな?」


「そうだぜ……俺が轟だ……」


 やっぱりコイツが轟か。

 見た目不良っぽいが、俺の話をちゃんと聞いてくれんのか?


「それにしても……さっきからリュウって名前に既知感を覚えてならねえ……」


「……それってもしかしてユウに聞いたんじゃねえの? てめえとユウは知り合いなんだろ?」


 ここに来る前に集めた情報では、コイツとユウは魔王討伐の際に共闘することが多かったらしい。

 だからコイツがユウと話をする機械も多かったはずだ。


「ああ……ユウは俺のマブダチだからよ……」


「マブダチねえ……」


 ユウの交友関係が危うい。


 俺が言える立場じゃねえけどある程度友達は選ぶべきだぜ、ユウ。


「ユウ……よく覚えてねえが……確かにユウからリュウという名を聞いた覚えがあるな……テメエ……ナニモンだ……?」


「俺はユウの超マブダチだよ。元の世界ではガキの頃からつるんでいた仲だ」


「ほお……テメエ……ユウのダチか……」


「超マブダチな」


 なんとなくコイツに対抗意識が芽生えて俺はユウとの仲を強調した。

 つか今はそんな事話に来たわけじゃねえだろ。


「そろそろ本題を話させてもらってもいいか?」


「いいぜ……ユウのダチってんなら……悪いようにはしねえよ……」


「超マブダチな。ここへ来たのはちょっとてめえらに協力してほしいことがあってのことだ」


「協力してほしいこと……?」


「ああ。この街を守るためにな」


「詳しく聞かせろ……」


 そうして俺はこの街の地下に潜むドラゴンの魔王についてを轟に語った。

 ついでに今までの街で出現してきた魔王についてもな。


「なるほどな……オレタチが最速争いをしている裏で……そんな事が起きていたのか……」


「そうだよ。だから街の教会跡地の守りを固めるためにてめえのギルドでも人員を割いちゃくれねえか?」


「断る……」


「! てめえ……街がどうなってもいいのかよ……」


「そうじゃねえ……が……」


 そう言うと轟は俺らに背中を向けた。

 特攻服の背には「走死走愛」という文字がデカデカと書かれていた。


「無報酬ってんじゃ……下のモンがついてこねえよ……」


「……そうかよ」


 やっぱりそこがネックになるのか。

 人員を割いて警備をしたところで、得られるものがないんじゃやる気も出ねえか。

 それに聞いた話だと『不離威打無』の構成人数は20人程度らしいからな。手を貸すにしても人数が少ない分負担が大きくなりかねない。ギルドマスターとして不用意に承諾はできないだろう。


「……でもよ……もしユウがやるっていうんなら……オレタチも手を貸すかもしれねえな……」


「あ? ユウがか?」


 だが、そのまま立ち去るのかと思っていたら、轟は俺らに背を向けたまま話を続けてきた。


「そうだ……なんてったってユウは……『攻略組』のトップ……最前線で戦ってきたプレイヤーの代表なんだからよ……」


「……そうか」


 確かにユウを説得できればこの問題はほとんど解決できるかもしれない。

 ユウが設立した『攻略組』にはここまでたどり着いたプレイヤーほぼ全てが所属している。その中には『不離威打無』のメンバーも含まれる。

 だったら轟が首を振ってもユウが頷けば結果的に手を貸してくれると言う事になる。まあユウだけ賛成して他のギルドマスター達が反対したら何かしらの反感を買うかもしれねえけどな。


 それに『攻略組』が動くという事はこの最前線にいるプレイヤー全員が負担を共有するという事にもなる。100人程度しかいないが、それでもそれだけの人員が全員俺の提案に参加してくれればかなり負担を分散できるはずだ。

 そうなれば無報酬でもそれなりの納得をしてくれる余地はある。事情が事情だからな。


「だからよ……この話はユウの耳に入るまで保留ってことにしてやるよ……俺はそれまで不干渉だ……」


「不干渉? つまりてめえはこの話を否定するわけじゃねえってことかよ?」


「ああ……報酬以外については……別に悪い話じゃねえからな……」


「へえ。治安維持なんてワルの俺らがやってられっかって理由もあったのかと思ってたぜ」


 それならユウに話を通す前に『不離威打無』が反対するような事にはならないわけか。

 これでついさっき俺が懸念したギルドマスター間での衝突という可能性が1つ消えた事になる。案外コイツ良い奴だな。


「俺達は不良だけどよ……なんでもかんでも噛み付くような狂犬ってわけじゃ……ねえんだぜ……そこに義がありゃ考えるさ……」


 そうして轟はサングラスを下に下げて俺と直接目を合わせてきた。


「そうか。それじゃあユウの方を説得したらまたてめえのツラを拝みに来るぜ」


 どうやらコイツは悪い奴ではないようだ。

 まあここまで最前線で魔王と戦ってきた奴なんだから自分本位な奴じゃねえってことくらいわかってたことだけどよ。


「楽しみにしてるぜ……リュウ……」


 そうして轟はギルド会館の奥へと戻っていった。






「……怖い方でしたね……」


「そうか? 俺には優しい奴に見えたが」


「ええぇ……?」


 ギルド会館をあとにした俺とバルはそろそろシーナ達と合流する時間になるということで待ち合わせ場所のカフェに入っている。


 ただ待っているのもアレだから俺らは2人ともアイスココアを注文して飲んでいる。

 ちなみに俺はコーヒーとか嫌いだ。十分に甘くしないと飲めたもんじゃねえ。


「なんにせよだ、アイツらを動かすにはユウ達の協力が必要ってことか」


「ユウさんって確かリュウさんのお友達だった方ですよね……?」


 俺が現状確認のためにそう言うと、バルは俺にそんなことを訊ねてきた。


 そういえば俺はバル達にあんまユウ達の事話してなかったな。

 というより俺が意図的に話さなかったんだが。


「ああ、そうだ。ちなみに『だった』じゃなくて現在進行形な」


「…………」


 ……なんでそこでキョトンとした顔をするんだよ。


「……なんか言いたいことでもあんのか?」


「えと……その……リュウさんはユウさんのことを話したがらないようでしたので……良く思っていないんじゃないかなって……」


「ああ……そういうことか」


 確かに俺はユウについて話さなかったが、それはユウのことを思い出したくないからとかそういう理由で話さなかったわけじゃない。


 俺がユウについて語らなかったのは、俺自身のケジメによるところが大きい。

 俺はこの世界に来た最初の日、本来なら俺もユウ達と一緒のパーティーで戦っていくはずだった。

 それなのに俺が禄にゲームについて調べなかったばっかりにユウ達には迷惑をかけた。


 あの時俺は怒りはしたが、それはあくまでユウが俺に街で引きこもってろと言ったことに関してだ。

 それ以外の事については俺が悪い。


 だから俺はユウ達に対して負い目のようなものを感じている。

 そしてその負い目は時間が経つにつれて、街でユウ達の話を聞くにつれて大きくなっていった。


 なぜならユウ達は6人だったからだ。

 本来7人までパーティーを組めるはずなのにだ。


 ユウ達が6人なのは俺のせいだ。

 アイツらは俺をパーティーから追い出したことをずっと引きずっているんだろう。

 じゃなけりゃあれだけバランスの取れたパーティーが未だにフルメンバーにならないことは考えづらい。


 俺らもユウ達同様6人パーティーではあるが、それはただ単にめぐり合わせの問題だ。

 始まりの街ではバル、2番目の街ではシーナ、3番目の街ではヒョウ、みぞれ、クリスと順調に仲間を増やしていったが、4番目の街ではあまり人との接点がなかった。

 レアという有望な少女もいたが、アイツは結局俺らの敵で仲間にはならなかったしな。


 しかし、それに比べてユウ達は違う。

 常にトッププラスのプレイヤー集団を率いて魔王と戦って人望を集めていたユウ達なら、仲間に入れて欲しいと思って近づいたソロのプレイヤーもいたはずだ。


 けれど、それでもユウ達は未だ6人パーティーでい続けている。

 それはギルドを設立して100人という構成員を抱え込んだ今でも変わっていないらしい。


 そうなってしまった原因があるとしたら、やっぱり俺のせいだ。

 俺のせいでユウ達はいらない苦労を背負って戦い続ける羽目になってしまった。


 そう考えちまうと、俺がユウの事を話す口も重くなるというものだ。

 だから俺は、ユウ達に追いついてちゃんとわだかまりを解消するまであまり多くは語らないようにしていた。


 それをバルは勘違いしちまったんだな。

 変なところで気を遣わしちまったかな?


「前にも言ったかもしれねえけど、俺は別にユウの事を悪く思ったりなんかしてねえよ。確かに俺はゲームを始めた初日に始まりの街に置き去りにされたが、それでユウを恨んだりなんかしてねえよ」


「……本当ですか?」


「……なんでそこでもう一度聞き返すんだよ?」


 何故か俺に聞き返してきたバルに俺は違和感を持った。


「……私はユウさんという方と面識はありませんし、リュウさんたちの間で何があったのかを詳しく知っているわけではありませんが……私はユウさんの事を許せないと思ったからです」


 そんなことを言っているバルは、目の前にあったアイスココア入りのグラスをグッと握り締めていた。


「……なんでバルが許せないなんて思うんだよ?」


「リュウさんとユウさんは友達……なんですよね?」


「ああ、そうだ。友達っつーか超マブダチ。親友って言ってもいいくらいだぜ」


「親友……なら……どうしてユウさんはリュウさんを1人ぼっちにしたんですか!!!!!」


「……バル?」


 そうしてバルは突然大きな声を出してきた。


「親友だったら……リュウさんを助けるのが当然なんじゃないんですか!?」


「ちょ、バル、落ち着け」


 俺は珍しく大きな声を張り上げるバルを宥めようとバルに落ち着くよう言ってはみたが、それでもバルは止まることなく俺に言葉を投げつけてきた。


「親友だったらなんでリュウさんを置いて自分達だけで先になんて行ったんですか! なんでリュウさんだけ置いていかれるようなことになっていたんですか! なんで……リュウさんは1人だったんですか!!!!!」


「バル……」


 バルは今俺のために怒ってくれているのか。

 親友だったら何故俺を助けてくれなかったのか、何故俺を置いて行ったのか……と。


「リュウさんだって最初からわかっていましたよね!? リュウさんは1人じゃ始まりの街周辺でも戦う事が困難だってことくらい! それはユウさんだってわかっていたはずです! なのになんでユウさんはリュウさんを1人にしたんですか!? なんでユウさんはリュウさんを助けようとしなかったんですか!?」


「それは……ユウからすれば俺が始まりの街に引きこもってさえすれば安全だって思ってたからだろうよ」


「そんなはずないじゃないですか!!! 本当にユウさんは親友としてリュウさんのことをわかっていたんですか!? リュウさんが街に引きこもり続けるなんて、そんなことできるわけないじゃないですか!!!!!」


「…………」


 確かにバルの言っていることは正しい。

 俺はユウから弱いと断定されて街から絶対出るなと言われたにもかかわらず、その日のうちに街の外へと飛び出していった。


 俺の行動をユウは予測し切れなかった。

 いや、ユウももしかしたらその可能性を考えていたかもしれない。


 だが、それでもユウは俺を置いていった。

 俺を置いていって、大魔王を早く倒したほうが結果的に良いと判断してユウは旅立った。


 もしかしたらそれはユウの逃げだったのかもしれない。

 外に出ようとする俺をどうあっても止められないのなら、いっその事見捨ててしまえとユウは思っていたのかもしれない。


 ユウがあの時どう思っていたかなんて俺にはわからない。


 だから、バルが言っていることは正しい。


「バル――」


「私はユウさんを許しません。リュウさんを見捨てたユウさんを……私は絶対に許したりなんてしません」


「……」


 ユウを許さない、と、バルは俺に向かってそんな言葉を言い続けていた。

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