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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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ギルド

 俺らは5番目の街内で3組に分かれて情報収集を開始した。

 組み分けは俺とバル、シーナとクリス、ヒョウとみぞれといった具合になった。


 ヒョウとみぞれペアはもはや鉄板だ。あの2人組なら不測の事態にも対処が可能だ。

 シーナとクリスペアも、いざとなればシーアがファントムを使ってクリスを守りつつ逃げることができるから悪くない。

 そして俺とバルのペアも、もはや語るまでもない相性の良さだ。


 この組み分けなら万が一があってもなんとかなる。

 今のところ街の治安がどうなっているのかわかんねえからな。警戒しておくのは悪くない判断だろう。


 敵はいつ、どこからくるかわからないんだからな。






 俺らが情報収集を開始して2時間が経過した。

 俺は頬が緩むのを抑えられなかった。


「どうしたんですか……? リュウさん」


「ん? ああ、ちょっとな」


 ここ一ヶ月で大分言葉の硬さが抜けたバルが俺に向かって訊ねてきた。


 コイツは4番目の街を出発してから何故かわし言葉を使わなくなった。

 どういう心境の変化なのかわからないが、わし言葉を使わなくなったことで懸念された戦闘力の低下もなく、むしろ何故か向上の兆しがあったため、俺らはバルに対して特に何かをいうという事はなかった。

 そしてバルはこの2ヶ月で兜ありだった時以上の堂々とした盾役をこなせるまでに成長した。


 まあコイツの気弱で人見知りな性格はそこまで改善されたわけじゃねえんだけどな。

 さっきまでの情報収集でもバルは俺の後ろに引っ付いてついてくるだけで、人に話しかけることはしなかったしな。


「『攻略組』というギルドの名前を聞いてからずっとにやけていますよ……?」


「まあな。やっと追いついたんだって思っちまってよ」


「…………」


 追いついた。そう。追いついたんだ。


 俺は遂にユウ達に追いついた。


 今、ユウ達はこの街を拠点にして行動しているという情報がさっきまでの情報収集の結果わかった。

 やはりここでユウは魔王達を討伐して回っているそうで、ここらでは知らない人間はいないというほどの知名度を持っていた。


 そしてそんなユウ達は現在、5番目の街から西へ進んだところにある地下迷宮を攻略しているらしい。

 なぜそんなところにと思ったが、その迷宮の奥深くには『迷宮の魔王』という魔王が潜んでいるらしく、ユウ達はソイツを倒しに行っているということになるようだ。


 そんなユウ達がこの街を出たのはつい昨日の事だったという話を聞いた。

 もしかしたら今からその迷宮に行けばユウ達とすぐ会えるかもしれねえな。


「早く会いてえなあ……」


 早く会ってユウ達を見返してやりたい。

 俺はここまで来れたという事をアイツらに見せてやりたい。


 ここまで来れた理由の一端を忍やレアが担っていることが癪に障るが、それでも俺はここまで来れた、ここまで戦い続けてこれたってことをアイツらに自慢してやりたい。


 今の俺は命中率以外でならスキルや武器性能に頼らずともかなりの強さを持っている。

 弓の技術しかり、体力しかりだ。


 特に体力の面での俺は、兄を見習って鍛えていたおかげで元々身体能力が高校生の中でも上位に食い込むレベルではあった。そんな俺の身体能力はこの世界に来てからも鍛え上げたおかげで更に上昇したと胸を張って言えるほどになった。

 流石にシーナのように才能値を振っている奴らを追い抜くような身体能力ではないものの、それでも3番目の街の俺と今の俺比べると雲泥の差があると断言できる。


 本当は剣の技術や武道も誰かに教わりたかったが、旅の途中でそんなことできるはずもなく、昔兄を目指した過程で習った技術を反復するだけに収まっていた。


 と、今はそんな事どうでもいい。

 本題は俺の強さについてでもなければユウ達についてでもない。


 俺らが今重要視すべきなのはこの街にいるプレイヤーについてだ。

 ユウ達もその中に含まれるが、アイツらだけを特別視して他の連中のことを調べなかったわけではない。




 ここ5番目の街、ファイブレイブでは『ギルド』というものが存在した。

 厳密に言えば他の街にも職人ギルドやら傭兵ギルドなんてものがあったりしたのだが、この街ではそういったギルドの設立を申請する役所があるそうだ。

 俺はそのギルドの話を知った時、もしかしたらここにたどり着いたプレイヤーも何かしらのギルドを設立しているのではないかという予感があり、ここ最近で新設されたギルドについて調べた。

 そしてやはりそんなギルドの設立をプレイヤー連中も見逃してはおらず、プレイヤー集団のみで構築されているであろうギルドを発見した。


 この街でギルドを設立したとおぼしきプレイヤー集団は全部で4つあった。


 まず1つはさっきバルが言っていたように『攻略組』というギルドだ。

 これは言うまでもなくユウが設立したギルドで、プレイヤー中で一番早く設立されたギルドのようだ。

 このギルドの構成人数はおよそ100人。最前線で魔王と戦っていたプレイヤー全てが所属しているらしい。

 ただし、ギルドは掛け持ちが可能で、初期メンバー6人以外のプレイヤーはほぼ全員がとある3つのギルドに掛け持ちをしている。


 その3つの内のギルドの1つで、2番目に設立したのがユウ達と常に街到達の首位争いをしていたという爆走ギルド『不離威打無』。

 構成人数は約20名で全員が鳥のようなモンスターに乗って戦っているというギルドだ。

 ここのギルドマスター『ゴウ』は3番目の街からユウ達と手を組んで魔王討伐の斬り込み隊長をしていたらしい。


 3番目に設立されたのが戦士ギルド『ウォーリアーズ』。

 このギルドの構成人数は約40名。全員が物理特化で豪快な戦い方を好むという豪傑達だ。

 ギルドマスターは『番匠(ばんじょう)』。なんでも、ソイツは元の世界では大工だったのだとか。


 4番目に設立されたのは魔術師ギルド『魔女会』。

 構成人数は約30人。全員が魔法特化の後衛タイプ。5番目の街までは『ウォーリアーズ』と連携して旅をしていたらしい。

 ギルドマスターは『メグ』。きっぷのいい女性らしく、姉御肌でその人柄の良さから慕う人間が多いという話がよく聞かれた。


 この『不離威打無』、『ウォーリアーズ』、『魔女会』のメンバーが『攻略組』と掛け持ちをしている3つのギルドで、魔王と戦い続けてきた最前線のプレイヤー集団だ。まあギルドマスターは掛け持ち不可らしいんだけどな。


 そしてコイツらならまず問題なく手を組めるだろう。

 コイツらは今まで攻略最前線で戦ってきたプレイヤー集団だ。その結束力は後続プレイヤーと比べ物にならないくらい高いだろう。

 また、そんなプレイヤーの集まりであるなら裏切り者が出てくる心配も限りなく減らせる。

 忍のような諜報活動をメインにしてプレイヤーサイドに紛れ込む『解放集会』の奴がもしかしたらいるかもしれない。だがこの最前線に関しては事情が違う。ここまで戦ってきていたら大抵のプレイヤーはその名と人柄を知られている。たった100人程度しかいないんだからな。

 そこに今更諜報員を紛れ込ますことは相当厳しいだろう。


 そんな理由から俺はこれら4つのギルドに話を持ちかけようと、コイツらがいそうな場所へと移動を開始した。






「ここがギルド会館か」


「大きな建物ですね……」


 俺らは情報収集で余った時間を使い、設立したギルドが集うという『ギルド会館』なる建物の中に足を踏み入れていた。

 そこはどこかのホテルというような内装で、ロビーにある受付には白い事務服を着た受付嬢が2人座っていた。


 俺はその受付嬢の1人に話しかけた。


「ここでギルドに所属している連中に連絡を取り次いだりすることはできるか?」


 ここへ来たのはギルドに所属しているプレイヤーと話し合いの場を設けるため、アポイントメントを取るためだ。


「はい、可能です。どちらのギルドへとお取次ぎいたしましょうか?」


「『不離威打無』、『ウォーリアーズ』、『魔女会』。その3つのギルドマスターに取り次ぎを頼む」


 本当は『攻略組』と言いたいところなんだが、今アイツらは迷宮に入っている最中だから不在だろう。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 俺が3つのギルドの名を告げると受付嬢は目の前に置いた水晶に手をかざした。


 ……もしかしてコレがこの街で普及しつつあるという通信魔法なのだろうか。

 俺らも自由に使えるようになると便利なんだが。


「お待たせいたしました。只今、ギルド『ウォーリアーズ』とギルド『魔女会』は席を外しておりますが、ギルド『不離威打無』のギルドマスター『轟』様とのお取次ぎが可能です。」


「そうか、じゃあその轟って奴と話はできるか?」


「少々お待ちください」


 そうして受付嬢は水晶に手を当てて目を閉じた。


「お待たせいたしました。『轟』様との会話の準備が整いましたので、こちらの水晶に手のほうをお乗せ下さい」


「? おう」


 俺は受付嬢の指示に従って水晶の上に手を乗せた。

 すると頭の中に直接誰か男の声が聞こえてきた。


『テメエか……俺と話がしてえってヤロウは……』


「あ? なんだこりゃ? 誰の声だ?」


『テメエが俺を呼んだんだろう……? 随分なクチの聞き方だぜ……』


「俺が……? まさかてめえ、『不離威打無』の轟って奴か?」


『そうだぜ……俺が『不離威打無』の総長……轟だ……』


 俺の頭の中に響くやけにタメの長いセリフを吐く男は自身が轟であると俺に告げた。


「つかこの状態で話し込むのも俺としては嫌なんだが、ちょっとロビーまで顔出しにこれねえか?」


『俺にわざわざ出向かせる気か……命知らずもいたもんだぜ……。だがいいぜ……ちょうど俺も暇してたところだ……』


「ありがとよ。じゃあ待ってるぜ」


『そんなに待たせることはしねえさ……なんたって俺は……『走り屋』の轟だからよ……』


 そう言って男の声は聞こえなくなり、そして3分後には1人の男が俺らのところにやってきた。




 その男はヤンキーだった。

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